日帰りで稜線歩きを満喫できる那須・朝日岳~三本槍岳へ

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読者レポーターより登山レポをお届けします。真鍋晋さんは那須岳(なすだけ)の朝日岳(あさひだけ)、三本槍岳(さんぼんやりだけ)で稜線歩きを満喫。

文・写真=真鍋 晋


5月半ばの日曜日、ぽっかりと1日だけの休日ができた。幸い天気もよさそうである。そこで、初夏の日差しのもと、のんびり稜線歩きでも楽しみたい、と思い立った。関東近郊で日帰りの稜線歩きを満喫できる、そんなとっておきの場所が那須岳である。

朝5時自宅を出発。車なら、都心から3時間もかからない。高速を下りてしばらく進むと、車はグングン高度を上げていく。登山口の標高が高いことも、那須岳登山の特徴である。県営駐車場のある峠の茶屋登山口は標高1462m。那須連山で最も高い三本槍岳の標高は1916m、登山口からの高低差は500m弱である。体力に自信がなければ、ロープウェイも利用できる。体力面からのハードルはそれほど高くない。

八ヶ岳青年小屋とテント場
登山口から眺める朝日岳

登山口に立つと、最初にめざす朝日岳が眺望できる。この日は山頂に雲はなく、心地よい稜線歩きが期待できる。登山道はとてもよく整備され、傾斜も急ではない。このあたりは大きな階段のある公園といったおもむきである。ほどなく森林限界を越え、登山道はザレ場の巻き道となる。日差しの中、少し汗ばんできたため、上着を脱いで半袖姿となった。

小一時間で稜線に出ると、強い風が体を吹き付け、帽子が飛ばされそうになる。那須連山のこの一帯は、風の通り道となっており、過去には重大な事故も起こっている。この日もふもとの登山口はほぼ無風であったが、稜線では5~6m/秒の風が吹いていた。体が飛ばされるような風では決してないが、それでも体温はかなり奪われる。ここで忍ばせておいたウィンドシェルを羽織る。ペラペラの上着で、一見すると頼りなく見えるが、風が体温を奪っていくのを防いでくれる。

峰ノ茶屋跡まで到達すると、そこから先は一気に視界が広がる。青い空の下、登山道は雲上の回廊となる。このあたりは標高1700mで、森林限界としてはやや低いのだが、周囲に高い木々はまったくない。これは火山活動で噴出している硫化水素の影響らしい。山肌の色彩は、黄土色と草色が美しいコントラストをなしている。ここでは火山帯独特の光景を堪能することができる。

剣ヶ峰から連なる稜線
剣ヶ峰から連なる稜線

しばらく歩くと、岩場に変わり、傾斜も少し急になる。穂高連峰のような落差の大きな崖はないが、岩場の細い道をトラバースするようなところが何カ所かある。ちょっとしたスリルを味わえるところも、この登山の魅力の一つでもある。分岐を過ぎて、朝日岳頂上まで岩場が続く。山頂はとても見晴らしがよく、那須高原全体を見渡すことができる。

朝日岳山頂付近の岩場
朝日岳山頂付近の岩場

山頂で一休みすると、いったん分岐まで引き返し、次は三本槍岳をめざす。熊見曽根(くまみぞね)分岐までは眺望のよい稜線歩きが続く。その後高度を下げ、清水平(しみずだいら)に到着する。ここで景色は一変し、尾瀬のような広い湿原となる。

清水平の湿原
清水平の湿原

清水平で木道のハイキングを楽しんでいると、しだいに景色はハイマツの低木帯へと変わっていく。こちらではいろんな花を楽しむことができる。残念ながら5月中旬のこの時期は、ほとんどの花がまだ蕾の状態だった。6月にもなれば百花繚乱となり、まさに桃源郷のにぎわいを見せていることだろう。

ミネザクラ
ミネザクラ
アズマシャクナゲ
アズマシャクナゲ

満開の花を妄想しながら歩いていると、突如、開けた場所に出る。ここが三本槍岳の山頂である。頂上は平らな場所で、眺望は抜群である。ちょうどおなかも空いてきたので、クッカーで手早くお湯を沸かし、持参したカップラーメンでおなかを満たす。

三本槍岳
三本槍岳

山行の後半は、峰ノ茶屋跡まで引き返し、主峰である茶臼岳の噴火口で、お鉢巡りをする予定であった。ただこの山域には、登山口以外にトイレがない。午後になりガスもわきはじめ、景色もあまり見えなくなっている。そこで今日はこのあたりで山行を切り上げて、登山口へと急ぐことにした。まだお昼過ぎではあったが、すでに那須岳の魅力は存分に味わうことはできた。

早々に諦めたのには、実は理由があった。下山後の帰路には、鹿の湯で有名な那須湯本温泉など日帰り入浴施設も多い。また那須インターチェンジ付近には、たくさんの飲食店が立ち並ぶ。早めに下山をしても充分満足ができる、温泉にグルメと、アフターの余暇が充実していることも、那須岳登山の隠れた楽しみの一つなのであった。

(山行日程=2024年5月26日)

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る

コース

峠の茶屋駐車場(県営駐車場)~峰ノ茶屋跡~朝日岳~清水平~三本槍岳・往復(参考コースタイム:4時間55分)

真鍋 晋(読者レポーター)

真鍋 晋(読者レポーター)

普段は現役外科医、週末は登山・トレラン・ジョギング。じっと座っていることが、苦手な性分です。

この記事に登場する山

栃木県 / 那須連峰

朝日岳 標高 1,896m

 那須火山群に属し、茶臼岳の北側に位置する那須五峰(三本槍岳、朝日岳、茶臼岳、南月山、黒尾谷岳)の中の一峰。三本槍岳とともに、最初に活動した火山である。  那須連峰のなかで一番峻険で、アルペン的な山容から「ニセ穂高」とか「那須穂高」とも呼ばれる。山頂からの眺めはすばらしく、会津をはじめ高原(たかはら)、日光の山々の一大パノラマが広がる。  また茶臼岳とともに古くから山岳宗教の霊場として知られ、文化文政のころに最盛期を迎えた。西山麓の三斗小屋宿はその宿場として大いに栄えた。  登山は那須温泉側からが主。車道の終点から峰ノ茶屋を経由し、スリルのある岩稜帯を通り、山頂まで2時間。熊見曽根から西に道をとれば奥那須の秘湯、三斗小屋温泉へ下ることができる。

福島県 栃木県 / 那須・日光

三本槍岳 標高 1,917m

 那須火山群の北端に位置し、福島県と栃木県の境にある。  茶臼岳以前に活動した成層火山で、山名からは尖鋭峰を想像するが、実際はどっしりとした重量感のある山である。茶臼岳や朝日岳に比べ、訪ねる人も少なく静かな山旅が味わえる。  『那須郡誌』によれば、昔、芦野、黒羽、会津三藩の境界線上にあり、各藩が領界確認のため槍を立てたことが山名の由来となった。  一等三角点の置かれた山頂からは、八溝山、日光連山、南会津の山々、遠く飯豊山までもが360度の展望で楽しめる。西には旧会津中街道の要衝、大峠を経て、大倉山、三倉山へと山並みが続いている。  登山は東面の大丸(おおまる)温泉や西の三斗小屋温泉が起点となる。ロープウェイ山麓駅から山頂まで3時間。また北へ旭岳、甲子山を縦走して甲子温泉まで8時間。三斗小屋温泉から熊見曽根経由で3時間ほどである。  那須連峰は山麓に豊かな温泉を湧出する山域である。三本槍岳周辺にも歴史のある三斗小屋温泉をはじめ、北温泉、大丸温泉、甲子温泉など情趣ある宿が勢ぞろいしている。ここではぜひ温泉と山旅を組合せた山行をお勧めする。

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