東北の名峰・鳥海山。扇子森と鳥海湖をめぐり、花々と雄大な風景を愉しむ
東北を代表する名山・鳥海山(ちょうかいざん・ちょうかいさん)は、その秀麗な山容から秋田富士、出羽富士とも呼ばれ、山上には雄大な風景が展開します。今回は鳥海山に登る代表的な登山道、象潟(きさかた)コースをたどって、花々と山岳風景を満喫する山歩きを紹介しましょう。
写真・文=斎藤政広、カバー写真=鳥海湖と新山
山中で出会ったいきものたち
歩き始めに迎えてくれたのはハナニガナです。白花はシロバナハナニガナと呼びます。朝早い時間だと、まだ下を向いていますが、陽が昇ると明るい表情を見せてくれます。下り道で、その花に気がつくことがあります。
ハクサンボウフウは、花だけ見るとシラネニンジンと見分けがつかないことがあります。葉の形を見て、ああハクサンボウフウだと気がつきます。イワオトギリは、登山道の岩陰にひっそりと咲いています。
ミヤマトウキは夏の稜線を彩る白い花で、葉に独特の香りがあります。訪ねる虫たちも多彩です。イワテトウキ、ナンブトウキとも呼ばれています。
御浜小屋を過ぎて扇子森の岩稜帯に入って行くと、新山を背景にヨツバシオガマが小群落で点々と咲いています。
鳥海山ではカラマツソウの仲間は3種見られます。カラマツソウのほか、やや日陰が好きなミヤマカラマツ、葉がモミジに似たモミジカラマツです。一方、ヨツバヒヨドリが咲き出せば、チョウの訪問が後を絶ちません。ヒョウモンチョウの仲間が多いですが、旅するチョウ、アサギマダラも大好きな花です。チングルマはバラ科の小型の小低木で、鳥海山では雪解けが始まるころからいっせいに咲き出します。
続いて、黄色系の花々を紹介しましょう。トウゲブキは夏を彩る鳥海山の代表的な花ともいえます。マルハナバチがよく訪れています。
最後は、かわいらしい小動物たちの登場です。タゴガエル(田子蛙=Rana tagoi)はアカガエル科の一種で、山道などでよく見かけます。日本の固有種で、学名は動物学者・田子勝彌(たごかつや)に献名されています。
岩の隙間から、好奇心旺盛なオコジョが飛び出しました。別名「ヤマイタチ」。冬になると、尾の端の黒毛以外は全身光沢のある純白の冬毛をまといます。コエゾゼミは、森林限界あたりのブナから飛翔してきます。鳥海山ではブナ帯の標高の低い部分にエゾゼミが棲んでいますが、標高を上げて森林限界から上部には、コエゾゼミが暮らしています。さて、その境界はどの辺なのだろうと思うことがあります。
MAP&DATA

コースタイム:鉾立~御浜~扇子森~御田ヶ原分岐~御浜~鉾立:約5時間※7月下旬の大雨災害により、鳥海山周辺の道路などに影響が出ている場合があるので最新情報を確認のこと。鉾立ビジターセンターによると、登山道は通行可能とのこと。
プロフィール
斎藤政広(さいとう・まさひろ)
横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。
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