本格的な夏山シーズン。山岳遭難&救助活動の実態を動画で知り安全登山を! 山岳遭難の現場から

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長野県警察山岳遭難救助隊では、山岳遭難の実態を多くの登山者に知ってもらうため、実際の救助活動の様子を「長野県警察YouTube 公式チャンネル」で公開している。その中から3つの事例をもとに、夏山登山中の注意点について解説。

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※本記事は、長野県警察・山岳情報、「山岳遭難の現場から~Mountain Rescue File~」(2024年7月18日版)を編集・転載したものです。

7月に入り、いよいよ本格的な夏山シーズンを迎えました。長期休暇を利用して、普段はなかなか足を運ぶことができない北アルプスなどの高峰をめざして、全国から多くの方々が入山し、各山域とも年間を通じて最もにぎわいを見せるシーズンです。その一方で、最も山岳遭難が多発するシーズンでもあります。昨年は7、8月の2ヶ月間で101 件の遭難が発生し、死者10 名を含む101 名の方が遭難しています。

ちょっとした気の緩みや準備不足によって、せっかくの登山が一転して重大な遭難になってしまった事例を私たちは数多く目にしてきました。そんな遭難の実態を一人でも多くの皆さんに知ってもらうため、実際の救助活動の様子を収めた動画を活用し、「長野県警察YouTube 公式チャンネル」で公開しています。

今回は、この夏山シーズンに合わせて公開している動画の事例を題材に夏山登山中の注意点について考えたいと思います。

 

ヘルメット着用による頭部保護の重要性

1件目は、昨年7月下旬に北アルプスの遠見尾根で発生した滑落遭難です。この事例は、単独登山中のAさん(53歳、男性)が、遠見尾根を下り始めて間もなくして濃い霧に視界を阻まれ、本来の登山道を外れてしまい、途中で道を外れていることに気がついて登山道に戻るため足場の不安定な斜面を横移動していたところ、スリップし斜面を約100m滑落してしまったものです。

たまたまAさんの滑落を目撃していた他の登山者がいたため、すぐに現場から110番通報がなされ、Aさんは県警ヘリで救助され110番入電から約2 時間後には松本市内の病院に搬送することができました。

当日の現場は、雲海の境目に位置し、絶えずガスが湧き上がり、動画にも救助隊員がヘリから現場へ降下したものの一時的にガスに閉じ込められてしまう様子が収められています。仮にヘリでの救助ができなければ現場の位置や状況から当日中の救助は難しかったのではないかと思います。

Aさんは診察の結果、手首やあばらなど複数箇所の骨折が判明し、完治には半年を要する重傷を負いましたが、それだけのケガを負いながら頭部についてはヘルメットをかぶっていたおかげで深刻なダメージを回避することができました。

 

Aさんがかぶっていたヘルメット

写真は、実際にAさんが滑落した際に着用していたヘルメットです。アタッチメントは外れ、表面には滑落のダメージを物語る擦過痕や血痕が残り非常に生々しい限りですが、ヘルメットが身代わりになりAさんの命を守ったと言えるでしょう。

過去に発生した滑落遭難の中には「ヘルメットさえかぶっていれば・・・」という事例も少なくありません。標高にかかわらず滑落の危険のあるコースを登山する際は、ぜひヘルメットを着用してもらいたいと思います。

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山岳遭難の現場から Mountain Rescue File ~長野県警察山岳遭難救助隊

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