本格的な夏山シーズン。山岳遭難&救助活動の実態を動画で知り安全登山を! 山岳遭難の現場から
長野県警察山岳遭難救助隊では、山岳遭難の実態を多くの登山者に知ってもらうため、実際の救助活動の様子を「長野県警察YouTube 公式チャンネル」で公開している。その中から3つの事例をもとに、夏山登山中の注意点について解説。
体力に見合ったコース設定
2件目は、北アルプス不帰ノ嶮(かえらずのけん)の先にある「天狗の頭」における疲労遭難です。この事例は八方尾根から3泊4日の予定で単独で入山したBさん(71歳、男性)が、計画の2日目の夕方、疲労により行動不能となったものです。
110番通報が午後7時7分と遅く、すでに日没となっていたため、Bさんには当日は現場でビバークをしてもらうことになりましたが、Bさんは、山小屋利用のため、防寒着は持っていたもののビバークに必要なシェルターなどは携行しておらず、当日はほぼ着の身着のままでビバークをしてもらうしかありませんでした。
幸い、当日は夜間も天候が安定していたため、翌早朝に無事救助されましたが、映像を見てもらえればわかるとおり、現場は森林限界を超え、付近に風雨を避けるような場所はほとんどありません。仮に当日が雨天だったとしたら、Bさんは命に関わるような深刻な低体温症に陥っていたかもしれません。
この事例から得られる教訓はいくつかありますが、1つは「実力に見合ったコース選び」です。Bさんの計画は、初日に八方尾根から入山し唐松岳頂上山荘に宿泊、2日目は難所である不帰ノ嶮を超えて天狗山荘に宿泊、3日目以降も途中の山小屋に宿泊しながら縦走をするというものでした。2日目は標準的なコースタイムで約5時間のところをBさんは約12 時間かけて行動したものの、宿泊予定の山小屋にたどり着くことができず、最終的には長時間行動がたたり途中で飲料水も尽き、疲労と脱水のダブルパンチにより行動不能となっています。
不帰ノ嶮は、北アルプスを代表する難所の1つです。切り立った岩稜を縫うように縦走路が走り、緊張が強いられる鎖やハシゴの通過が連続し、アップダウンも多いため精神的にも体力的にもタフなコースです。
このようなコースをめざすには、標準的なコースタイムどおりに歩けること、つまり「スピード」が求められます。登山は誰かと競い合うものではありませんので「スピード」と言われてもピンとこないかもしれませんが、北アルプスのような森林限界を超えた稜線を行動する際は、安全面を考えると一定のスピードが必要になります。その理由としては、行動時間が長引けば長引くほど、飲料水や行動食は不足し、体力の消耗を招くリスクが高くなりますし、午後の遅い時間まで行動をすることで夏山の場合は雷に遭遇するリスクも高くなるからです。
Bさんは登山経験こそ14年と長いものの、71歳という年齢やトレーニングの内容(週数回のウォーキング)を考えると、そもそも今回のコース設定に無理があったのではないかと思われます。
教訓の2つ目はビバーク装備の携行です。不意のアクシデントによって行動できなくなってしまったとき、今回の事例のように救助要請をしても時間や場所、天候等によっては当日中の救助ができない場合があります。その時に外気を遮断する簡易シェルターや非常食などがあれば体力の消耗を防ぐことができます。
たとえ日帰り登山や山小屋利用の場合であっても、必ず、いざというときに備えて最低限のビバーク装備を準備してもらいたいと思います。
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