地方と都会どっちがいい? 移住先での気になる子育て事情(長野県編)

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文・写真=鈴木俊輔

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北アルプスの山々を見ながら登校
北アルプスの山々を見ながら登校

自然が豊かな環境で子どもを育てたい

北アルプスの麓と聞けば涼しそうなイメージがありますが、思いのほか夏は暑く、高い標高ゆえ猛烈な日差しが降り注ぎます。こちらに移り住んでから、帽子とサングラスは必需品です。

私が長野県に移住したのはちょうど9年前の夏。毎年、扇風機とよしずでなんとか暑さをしのいできましたが、とうとう一昨年、リビングルームにエアコンを設置。長野県の夏も暑くなったな〜と思いながら、つい先日、神奈川県の実家に息子を連れて帰省しました。実家で夏を過ごすのは久しぶりでしたが、やはり長野県とはけた違いの暑さ。特に連日の熱帯夜は体にこたえました。長野県は夏でも夜になるとぐっと気温が下がり、窓を開けると肌寒いくらい。布団をかけて寝られるのは最高のぜいたくだと再確認しました。

さて、今回のテーマは「地方の子育て事情」について。家族で地方移住を考えている人にとっては、その地域の子育て環境は気になるところではないでしょうか。

私は池田町の定住アドバイザーとして、町が主催する移住ツアーに立ち合うことがあります。参加者のほとんどは東京などの大都市圏に住んでいる人で、子どもがいる家族の相談にのることも多いです。「自然が豊かな環境で子どもを育てたい」。そんな思いで移住を検討している人は少なくありません。

大自然が子どもたちの遊び場
大自然が子どもたちの遊び場

子育て移住のメリットとデメリット

以前、移住ツアーの参加者から「移住していちばん苦労したことは?」と聞かれたことがありました。しばらく考えて、私が答えたのは「子育て」でした。 わが家は3人家族で、移住して3年目に子どもが生まれました。当時、私は地域おこし協力隊の任期中でしたが、半年間の育児休業を取得。ツーオペ育児ですが、私も妻も初めての子育てで何をどうしてよいかも分からず疲労困ぱいの毎日。両親を頼ろうにも遠くに住んでいて、すぐに行き来できる距離ではありません。 コロナ禍に一家で病床に伏した際は、「家族が近くに住んでいれば……」と思ったものです。特に、小学校に入るまでは肉体的にも精神的にもとても大変でした。こうした苦労がある一方で、この地域で子育てしていて良かったと感じる部分もたくさんあります。

身近なところに自然の遊び場がいっぱい

自然が身近なところにあり、子どもの遊び場は無数にあります。川で水遊びをしたり、森を散策したり、子どもは冒険気分で大はしゃぎです。うちの子は河原の石拾いに夢中で、わが家の玄関は石ころだらけ。子どもを自由に遊ばせられる広い公園があり、都会のレジャー施設のように混雑しないのも良いところ。北アルプスの麓に広がる国営公園は、自然体験にうってつけの場所です。子どもの入園料は無料で、夏は水遊び、冬は雪遊びなどを楽しめます。

国営アルプスあづみの公園 大町・松川地区
国営アルプスあづみの公園 大町・松川地区

地域のコミュニティでつながりをつくる

私が住む池田町には、小学生を対象に親子で参加できるクラブ活動があります。地域の人たちが講師になって、自然体験、料理、パン作り、美術、太鼓など、いろいろな体験講座が開かれています。例えば自然体験クラブでは、季節によってホタル鑑賞や川遊び、キノコ狩りやサツマイモ掘りなど、盛りだくさんの内容。親にとっても地域のことを知る良い機会になり、毎回参加するのを楽しみにしています。私の知り合いの移住者ファミリーも「新しいコミュニティに溶け込みやすい」とうれしそうに話していました。

自然体験クラブで子どもが捕まえたサワガニ
自然体験クラブで子どもが捕まえたサワガニ

子育て支援制度が充実している

都会の保育園ではしばしば待機児童の問題が聞かれますが、地方ではスムーズに入園できる場合が多いです。また、子どもの数が少ないため、一人ひとりへのサポートが手厚い印象です。さらに、多くの地方自治体では子どもの医療費を助成する制度があり、小中学校では給食費が無償化されるなど、支援制度が充実しています。いままでに受けた子育て支援で助かったのは、出産直後に保健師が家庭訪問してくれたこと。子どもの発育を見てくれたり、育児の相談にのってくれたりしてとても心強かったです。

小正月に地区の子ども会で行う「三九郎(さんくろう)」
小正月に地区の子ども会で行う「三九郎(さんくろう)」

子どもと一緒にアウトドアを楽しめる

子どもが小さいうちは、なかなかアウトドアに出かけるのは難しかったですが、小学生くらいになると一緒に楽しめることも増えました。一緒に近くの低山を登ったり、サイクリングに行ったり、天気が良いとあちこちに出かけています。まだ高い山は登れませんが、いずれは北アルプスの山にも一緒に登りたいです。サイクリングは山の景色を眺めながら、毎回コースを変えながら走っています。田園風景のなかを風を切って自転車で駆け抜けるのは爽快です。

安曇野市の光城山(ひかるじょうやま)の山頂で
安曇野市の光城山(ひかるじょうやま)の山頂で

自然のなかで子どもがはしゃいでいる姿を見ると、自分もこんなところで少年時代を過ごしたかったなと、ちょっとうらやましくなります。都会で子育てをしたことがないので比較はできませんが、この場所で子育てができて良かったと思っています。一方で、都会には美術館や博物館などがたくさんあり、身近に文化や芸術に触れられる良さもあります。ここだけで完結するのではなく、いろいろな場所に連れていって違う世界も見せてあげたいとも思っています。将来、子どもがどこに住むかは自由ですが、自分が生まれ育った地域をいつまでも好きでいてくれるとうれしいです。

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プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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