4月のおすすめ低山、石砂山。希少な「スプリング・エフェメラル」に逢いに行く

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低山フォトグラファーの渡邊明博さんに、季節に合わせた低山の魅力を伺う連載の第2回。今回は「スプリング・エフェメラル(春の儚い妖精)」に逢いに行くというテーマで、高尾山でも陣馬山でも御岳山でもなく、東京近郊で、春にだけ貴重な生物がみられる山を紹介してくれました。

 

桜の便りが聞こえて来ると、思いを馳せるのが神奈川県、旧藤野町郊外の石砂山(いしざれやま/標高578m)です。
少し交通の便が悪いのが難点ですが、ここに登る目的の大本命は、ギフチョウに出逢えるから。環境省の絶滅危惧種リストにも挙げられるギフチョウは、植物以外では珍しく「スプリング・エフェメラル(春の儚い妖精)」とも称され、春先のわずかな期間にのみ姿を見ることができます。

 

希少種ギフチョウが見られる石砂山(写真=渡邉明博)

 

かつて里山で多く見られたこのチョウも、近年、東京都内では見られなくなり、神奈川県下でも石砂山が数少ない生息地となっています。気温が20度になると飛びまわり始め、5月中旬頃まで姿が見られるので、毎年、この一瞬に出逢うためにこの山を訪れるのです。

石砂山への最寄り駅は、中央本線の藤野駅。登山口までは遠いのでタクシーで行くか、あるいはそもそもマイカーで行くか迷うところ。私のおすすめコースは、藤野駅から石砂山登山口がある篠原まではタクシーを利用し、石砂山に登ります。山頂からは西側が開け、丹沢の山並みが見られます。

 

西側が開けた山頂から丹沢の山並みを望む

 

ギフチョウも山頂付近に飛来します。絶滅危惧種だというのに、比較的警戒心が少なく、お弁当を広げているすぐ横に止まってくれることもあります。 そして石砂山からは、いったん菅井下に下り、峰山に縦走します。峰山からは歩いてきた石砂山が良く見えるでしょう。峰山からは北へ進路を取り、やまなみ温泉に下ります。

 

峰山から振り返って見る石砂山

 

これならば、日の長くなった春の一日、山もギフチョウも楽しむことができます。やまなみ温泉まで来たら、藤野へのバス便がありますので、バスの時刻を確認したうえで、汗を流して帰るのがよいでしょう。

 

やまなみ温泉からはバスで藤野駅に戻ろう

 

なお、藤野駅に降り立つと、まず目に付くのが、山の斜面に見える大きなラブレター。これは旧藤野町の「ふるさと芸術村構想」の1つの作品で、「緑のラブレター」と言います。自然と人間の共存、をイメージして作られているそう。藤野町全体で30作品のオブジェが点在し、アートに興味があるなら、ここも歩いて見てもいいでしょう。 桜花爛漫、春の一日を楽しんでください。

 

※編集部注:石砂山では、5月になると、ヤマビルも増えてくるので注意が必要です。

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いかがでしたか? 4月の山というとサクラの山かなと思ったら、こんな貴重な生物に出会える山があるのですね。スプリング・エフェメラル…、こんなテーマで小さな花や希少な生物に出逢う低山を探すのも、山の楽しみが広がるでしょう。

 

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プロフィール

渡邉 明博

1957年、東京都生まれ。中学時代に写真を始め、1976年から商業カメラマンとして写真を仕事とする傍ら、「山上から富士山を撮る」をテーマに山岳写真家としても確立。「低山フォトグラファー」として中央線沿線の低山にくまなく通い四季折々の風景を撮影。のべ150日に渡る実踏取材を元に『高尾山と中央線沿線の山』(山と溪谷社)を2016年に上梓。白籏史朗賞日本山岳写真コンテスト入選ほか受賞歴多数。山岳写真ASA会長。(写真=水谷和政)

低山フォトグラファーの気ままな山歩き

冬場はもちろん、真夏であっても、低山には見どころがたくさんあります。 ガイドブック『高尾山と中央線沿線の山』の著者で、「低山フォトグラファー」の渡邉明博さんに、季節季節のおすすめ低山情報を聞きました。

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