
きのこで満腹?それとも中毒?|きのこライターのヒヤリハット体験談
秋の足音が聞こえてきました。山の秋の味覚と言えば“きのこ”。登山道の近くでも目にすることがありますし、採集のために山に入る人も多いのではないでしょうか? ただし、一筋縄ではいかないのが「きのこ狩り」というもの。「きのこライター」としておなじみの堀博美さんも例にもれずヒヤリハットを持っているようで・・・。
文=堀 博美、トップ写真=山と溪谷オンライン(写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません)
トラブルと隣り合わせのきのこ探し
きのこを求めて山へ行った時の失敗談は数知れません。
私自身は、たとえば、滑落、迷子、カメラの紛失・・・想していたきのこがまったく見られない経験(いわゆるボウズ)もしています。
スズメバチに追いかけられたこともありました。その時、黒いリュックサックを背負っていたのがいけなかったようです。リュックを捨てて目をつぶって(黒い瞳も攻撃の的です)ゆっくり後ずさりして難を逃れました。そして、スズメバチが去ったのを確認した後でリュックを回収しました。
それらのなかでも「きのこならではの失敗」というのは,やはり食中毒でしょう。
食欲に負けて・・・
20年ほど前。そのとき、私は貧乏しておりました(今でもお金はありませんが)。
自宅から山を超えた某市で、非常勤講師として小学生に図工を教えていました。その日も図工の授業を終えて、愛車のカブで家に帰る途中、「それにつけてもカップ麺はもうたくさんだ、まっとうな食事、できればなんというか、リッチな感じのある食事をしたい」。そんなことを考えて林道を走っていたと思います。
そこに白い丸いものが目に入りました。ホコリタケかな? と思ったのですが、カブを止めて見ると、明らかにそれより大きいです。よく見ると基部がある。オニフスベの線はない。ノウタケ? にしてはとても白いな、と思いながら、触ってみると、良い感じにふかふかしています。
この手のきのこに毒はないといいます(実はそんなことないのですが)。割ってみたら内部は白い。これはオニフスベやホコリタケやノウタケあたりかな?それなら食べごろです。
それを持ち帰り、鶏がらスープで煮込んで食べました。ふかふかで、スープを吸って、今思い出してもおいしかったです。
でも、そのときよりは研鑽を積んだ今では、どう見てもスミレホコリタケ(食毒不明)に見えます。完全なる同定ミス。もし中毒になっていたら、そして、もしあれが毒きのこだったら・・・と考えると、いまさらながら背筋が寒くなります。
というか、比較的レアなきのこを食べてしまってよかったのかという問題も。
とうとう訪れた“そのとき”
そんなことをしているうちに、とうとう本格的に“当たって”しまいました。
あるとき、グループできのこ観察をしていたところ、白くて大きいきのこがありました。「オオイチョウタケだ」と誰かが言って、みなうなずきました。大ベテランの人も「オオイチョウタケだね」と言っています。
そのきのこ、誰もいらないとのことで、もらって帰ることに。オオイチョウタケはとてもおいしいきのこだと聞いています。どんな味なのか、好奇心をおさえきれませんでした。
帰宅して、さっそくきのこを素焼きとクリームシチューにして食べてみる。
・・・が、そんなにおいしくない・・・。こんなのがおいしいきのこ? まあいいか、と完食しました。
翌日はなんともなかったのですが、食べてから3日目。私は1時間おきにトイレに駆け込む羽目になってしまいました。マーライオンを想像してみてください。(腹痛はありませんでした)
「これはおかしい、きのこ中毒ではないか?」と思って、ようやく病院に行きました。幸い、食当たりのお薬を飲んで済みましたが、これもゾッとした経験です。
のちに岩出菌学研究所がオオイチョウタケの栽培に成功。サンプルを食べてみたところ、とてもおいしくて、前に食べた(当たった)ときのと全然違うわと思いました。
ちなみに私が誤食したのは、状態の悪いオオイチョウタケか、もしくはムレオオイチョウタケ(毒)だったのではないか、と考えられます。
一度食べられても、二度目はないかも? 毒きのこには要注意
わからないきのこは食べない。少しでも怪しいと思ったら、食欲に負けない。それで少なくとも最悪の失敗は避けられます。
死に至る毒きのこがたくさんあるのは案外知られていないようです。最近では、カエンタケの凄まじい死亡事例が話題になってから、怖いきのこの存在がクローズアップされて来たように思います。でも、毒々しいきのこだから毒、とも限りません。地味でおいしそうな猛毒きのこもあります。
きのこマニアの間に伝わるこんな格言があります。
「どんなきのこでも一度は食べられる」
よく読むと「あ,なるほど」と思う言葉です。意味はたとえおいしそうでも、おいしくても、生きていなければ二度目はない、という意味です。
あるとき、野生きのこを食べたがっている若い方に同じことを言ったところ、こういう返事が返ってきました。
「一度は食べられるんですね! がんばってみます!」
いや、待って。
プロフィール
堀 博美(ほり・ひろみ)
1971年神戸市生まれ。きのこに魅せられミニコミ誌やグッズを作るなどしてきのこにはまる。2009年よりフリーのきのこライターとして活動。著書に『きのこる キノコLOVE111』(山と溪谷社)、『ときめくきのこ図鑑』(山と溪谷社)など。
関連記事
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他




