今夏の山岳遭難、全国では減少も長野県は増加。北アルプスではなにが起きていたのか
文=大関直樹
全国では減少も、長野県では過去10年で最多
雲上の高山でも暑さを感じることがあった今年の夏山シーズンも終わりを迎えたが、9月13日に警察庁生活安全局生活安全企画課から「令和6年夏期における山岳遭難の概況」が発表された。
同概況によると、今年の7~8月における全国の山岳遭難件数は660件で、昨年同期と比べて78件減少。遭難者数は736人で、昨年同期比で73人減少した。また、死者・行方不明者も52人で、昨年よりも9人少なくなっている(数字は速報値)。過去5年間は、発生件数及び遭難者数ともに増加傾向にあったが、今年は、昨年、一昨年よりも減少した。
発生件数等の推移
その一方で、日本アルプスを擁する長野県では、遭難件数が昨年よりも15件増加し116件、遭難者も24人増加し125人となり、最近10年間では、遭難件数は2番目に多く、遭難者数は最多となった。山域別では、登山者に人気の北アルプスが116件中67件と約6割を占めた。
そこで、山と溪谷オンラインでは、登山者たちに人気の北アルプス南部エリアの槍ヶ岳山荘と北部エリアの白馬山荘に、今シーズンの山の様子や登山者の傾向などについてお話をうかがった。
槍ヶ岳山荘・穂苅大輔さんに聞きました

槍ヶ岳山荘(やりがたけさんそう)
槍ヶ岳の山頂直下に立つ、北アルプス南部では最大規模の山小屋。収容人数は400人(写真=渡辺幸雄)
「近年、暑さがますます厳しくなっている。コースの下調べを入念に」
――今夏の槍ヶ岳の登山者数は、いかがでしたか?
穂苅さん昨年はコロナ明けということもあり、多くの登山者にお越しいただきましたが、今年は少し落ち着いた印象でした。8月下旬のノロノロ台風の影響もあったかもしれませんが、全体の人数としては、昨年より若干減少したと思います。
――今夏の山岳遭難の傾向について、気がついたことはありますか?
穂苅さん持病だったり疲労遭難だったりと原因はさまざまですが、60~70代のご年配の方の遭難が多いように感じました。
――今夏の山の様子はいかがでしたか?
穂苅さん最近の夏山は、ひと昔前よりも暑くなっていると感じます。たとえば槍ヶ岳のメインルートである槍沢は、午前中から歩き始めて森林限界に達すると、ずっと太陽に照りつけられます。夏の暑さが年々厳しくなっているなか、熱中症対策に対する私たちの考え方もアップデートする必要があると感じました。
――遭難者数が過去最多となりましたが、登山者たちの様子はいかがでしたか?
穂苅さん登山者の方は山に登る前に下調べをすると思うのですが、それが充分でない方も増えているようです。たとえば、ルート上の地名やエスケープルートを把握していない方もいらっしゃいました。ほかにも、登山系SNSに掲載されているひとつの活動記録だけを見て、「ここは行ける!」と思いこんで来てしまったりとか。個人の活動記録は、技術や体力に個人差があるので複数を比較し、情報を取捨選択する必要があると思います。ひとつの情報だけを鵜呑みにしないようにお願いしたいです。
白馬山荘:熊岡潤さんに聞きました

白馬山荘(はくばさんそう)
北アルプス・白馬三山の主峰である白馬岳山頂南側直下に位置する日本最大級の山小屋。収容人数は800人(写真=菊池哲男)
「無理のない登山計画と装備の見直しを」
――今夏の白馬岳の様子はいかがでしたか?
熊岡さん昨年に続き、メインルートである白馬大雪渓がクレバスや雪解けによって通行止めになり、登山者数は減少しました。大雪渓の雪解けが早くなっている傾向にあるので、情報発信をしていますが、登山者のみなさんも事前の下調べを充分に行なっていただきたいと思います。
――今夏の登山者を見ていて、印象に残ったことはありますか?
熊岡さん登山前にコースタイムを確認せずに登ってきて、到着が夕方遅くになる方が多かったように思います。なかには21時くらいに山小屋に到着する方もいました。白馬山荘へは、メインの大雪渓ルート以外だと栂池ルート(所要時間6時間30分)と鑓温泉ルート(同10時間40分)がありますが、コースタイムがそれなりにかかります。登山前にはコースタイムと天気予報を必ずチェックして、無理のない計画を立てていただきたいと思います。
――ほかになにか気づいたことはありますか?
熊岡さん最近は、容量が小さめのザックを使って、サイドにコップなどの小物をぶら下げている登山者が増えている印象です。小物を外付けすると、樹林帯などで引っ掛けてしまって危険です。容量に余裕のあるザックを選び、できるだけ外に物をぶら下げない方がよいでしょう。また、特に女性登山者に多く見られたのですが、雨天時にレインジャケットだけを着てパンツをはかない方も目立ちました。下半身が濡れると足の筋肉の動きが悪くなるので、雨のときはパンツも着用することをおすすめします。
山岳遭難ファイル
多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。
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