草もみじに囲まれた東北の秘境へ。秋の鳥海山・千畳ヶ原を日帰りピストン【紅葉レポート】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

読者レポーターより紅葉登山レポをお届けします。こうさんは鳥海山(ちょうかいさん)へ。ピークは行かずに千畳ヶ原(せんじょうがはら)の草もみじを満喫しました。

文・写真=こう


東北には、紅葉で有名な山がたくさんあるが、あまり知られていないのが鳥海山の千畳ヶ原。広大な草もみじが圧巻だが、人は少なく静かに楽しめる秘境のような場所である。

今回は千畳ヶ原が目的だったため、最も楽に行ける鉾立(ほこだて)登山口からのルートを選択した。もし鳥海山の山頂も合わせて行くのであれば、湯の台口から登るのがよいだろう。

登山口では、霧雨で視界が限られていたが、晴れ予報を信じて登り始めた。観光客でも歩けるほどに整備された道を少しばかり歩くと、展望台に着く。

晴れていれば鳥海山、稲倉岳(いなくらだけ)、奈曽渓谷(なそけいこく)がきれいに見える。ここより先に進むといよいよ登山道となるが、この先も整備が行き届いており非常に歩きやすい。急な登りも石のステップがあるため、足の置き場には困らなかった。

足を置きやすい石のステップ
足を置きやすい石のステップ

途中、ガスが抜けて青空が広がった。左側に目を向けると、稲倉岳の姿があった。例年の同時期に比べて、紅葉はあまり進んでいないようだ。

賽ノ河原(さいのかわら)に着くと最初の分岐がある。千畳ヶ原に行くには、右手に進む必要がある。一見わかりづらいが、よく見るとケルンやピンクテープがある。こちらのルートは登山者も少なく快適に歩くことができる。

少しだけ姿を見せた稲倉岳
少しだけ姿を見せた稲倉岳

大平(おおだいら)登山口からのルートと合流するあたりで、再びガスに視界がさえぎられたが、千畳ヶ原に向かう下り坂に差し掛かったところでガスが抜け、目的地を視認することができた。紅葉の遅れが心配されたが、オレンジ色の草原が広がっており安心した。

下り切るとなだらかな道になるが、岩や泥で足元が悪いところがある上に、道がわかりづらいポイントがあるので注意して進みたい。

大平ルートと合流した後の登山道
大平ルートと合流した後の登山道
鳥海湖を過ぎて千畳ヶ原へと下る
鳥海湖を過ぎて千畳ヶ原へと下る

岩がゴロゴロしていて足場が悪い区間を抜けると、木道の歩きやすい道になり、進むにつれて草もみじが広がっていく。先を急ぎたくなる気持ちを抑え、登り坂に差し掛かったところで後ろを振り返ると、足元から扇子森(せんすもり)まで続く草もみじを見ることができる。あくまで推測だが、ここに退避できる木道があるのは、いい撮影スポットだからだろう。

扇子森まで続く草もみじが美しい
扇子森まで続く草もみじが美しい

そこからほどなくして千畳ヶ原に着く。千畳ヶ原は見渡す限りの草もみじで、どこに目をやっても絶景であるため、シャッターを切る指が止まらなかった。木道は二方向に向かって道が続いているが、いずれも一本道で狭いので、それぞれある程度のところまで進んで写真に収めた後は、分岐まで戻って休憩した。

千畳ヶ原から鳥海山の外輪山
千畳ヶ原から鳥海山の外輪山
二ノ滝口方面から見た千畳ヶ原
二ノ滝口方面から見た千畳ヶ原
月山森方面から見た千畳ヶ原と庄内平野
月山森方面から見た千畳ヶ原と庄内平野

休憩していると、日本海側から上がってきたガスに取り囲まれて、あっという間に真っ白になってしまったため、戻ることにした。登山口に戻るためには一度登り返す必要があり、急登で息が上がった。登り切ったところに分岐があり、左に進むと鳥海湖、右に進むと鳥海山に近づくことができる。

ちょうどガスが抜けて視界が晴れてきたので、鳥海山をより近くで眺めるために、右手の木道に向かうことにした。

草もみじと鳥海山
草もみじと鳥海山
鳥海湖
鳥海湖

御田ヶ原(おだがはら)分岐から、御田ヶ原に登り返し、御浜小屋へと向かった。今シーズンは既に小屋閉めされているが、開いていれば中で休んだり、外にあるトイレを使うことも可能だ。

御浜小屋付近から見下ろした鳥海湖
御浜小屋付近から見下ろした鳥海湖

鉾立登山口に向かって下ると、右手に稲倉岳の姿があり、日本海や草もみじとセットで見ることができる。

終始絶景を見ることができ、最後まで登山者を飽きさせないすばらしいルートだと、あらためて感じた山行だった。

日本海と稲倉岳
日本海と稲倉岳
鉾立登山口へ戻るときの景色
鉾立登山口へ戻るときの景色

(山行日程=2024年10月6日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 7時間22分
行程:鉾立・・・六合目賽ノ河原・・・河原宿・・・御田ヶ原方面分岐・・・仙人平・・・千畳ヶ原・・・仙人平・・・御田ヶ原方面分岐・・・御田ヶ原分岐・・・御浜・・・六合目賽ノ河原・・・鉾立
総歩行距離:約11,000m
累積標高差:上り 約878m 下り 約878m
コース定数:26
アドバイス:鉾立登山口へ向かう鳥海ブルーラインは、10月25日から夜間通行止めとなり、11月5日から全面通行止めとなる。駐車場は鉾立山荘前の駐車場のほかに、鳥海ブルーライン沿いに登山者用駐車場あり。
こう(読者レポーター)

こう(読者レポーター)

山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。

この記事に登場する山

山形県 / 出羽山地

鳥海山・新山 標高 2,236m

 山形県と秋田県境にそびえる成層火山で、東北を代表とする高山である。秀麗な山容から出羽富士、秋田富士の名で親しまれている。  山は中央火口丘の新山(最高峰)を中心に、行者岳、伏拝岳、七高山の比較的新しい東鳥海火山と、火口湖だった鳥ノ海(鳥海湖)、中央火口丘の鍋森を中心とする、笙ヶ岳、月山森、扇子森の西鳥海火山、および山腹に付随する寄生火山からなる複式火山である。  有史以来度重なる噴火活動が人々の畏怖の的となり、山そのものが火を吹く荒ぶる神としてあがめられ、山岳宗教が発達した。山頂には、大物忌神を祭る「大物忌(おおものいみ)神社」がある。ところが、修験道の発達とともに山上の奉仕権と嶺境の争いへと進み、江戸幕府裁定で決着を見るという、人間臭い一面を今に残す山である。  日本海から山頂部まで、わずか約15kmの独立峰で、冬の季節風をまともに受けるため、山の方位によっては積雪や風に大きな違いが見られる。そのためチョウカイフスマ、チョウカイアザミ、チョウカイチングルマなどの鳥海山特有の植物をはぐくみ、植生を規制してきた。  1673年から数回、幕府の命によって、採薬登山が行われている。また、イギリスの登山家、ジョン・ミルンが1879年に登山し、わが国で初めて氷河問題の口火を切った山でもある。純粋な意味での登山は、朝日連峰、飯豊連峰に遅れをとり、大正末から昭和初期に始まった。  そして、昭和22年(1947)には、県立自然公園の指定を受け、国民体育大会開催(1952年)、国定公園指定(1963年)、さらには山岳観光道路「鳥海ブルーライン」開通などにより、山岳観光地として全国的に脚光を浴びるようになった。なかでも、スキー登山の地として人気が高く、ゴールデンウィークなどは全国から集まる愛好家で賑わっている。  かつて熊が爪跡を残し、ヤマヒルが巣くったという百宅口のブナも乱伐が進み、痛々しい変容ぶりである。昭和49年(1974年)には、153年ぶりに火山活動も見られた。しかし、宗教登山からスポーツ登山へと変わっても、日の出の力強い陽光を浴びた鳥海山が日本海上に写し出される「影鳥海」や冬の外輪山の内側の岩肌を飾る「岩氷」などは、単なる美しさを通り越して、今でも充分に神々しい。  鳥海山は、山岳信仰の息吹を残しつつ、東北の山特有の落ち着いた雰囲気と温もりのある山である。  登山道は、かつての登拝路を中心に山形・秋田両県から数多く整備されており、山頂まで約5時間。

プロフィール

山と溪谷オンライン読者レポーター

全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。

山と溪谷オンライン読者レポート

山と溪谷オンライン読者による、全国各地の登山レポートや、登山道具レビュー。

編集部おすすめ記事