魅力にあふれた朝日連峰の秘峰。晩秋の障子ヶ岳を1泊2日で周回
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは朝日連峰の障子ヶ岳(しょうじがたけ)と天狗角力取山(てんぐすもうとりやま)へ。
文・写真=こう
東北の二大縦走路のひとつに数えられる朝日連峰。主稜線は広大でたおやかな優しい道が続き、まさに東北の山といった景色を望むことができる。そんな朝日連峰において、荒々しくも美しいスラブ状の岩壁を持つ山がある。それが障子ヶ岳だ。朝日連峰の主峰である大朝日岳の真北に位置するこの山は、日本百名山はおろか二百、三百名山にも選ばれておらず、主稜線からも外れているため、登山者が非常に少ない。ただし、魅力は充分で、前述した岩壁に加え、歩き進むごとに姿を変える山容、稜線に秘められた湿原、朝日連峰の山々を一望できる眺めなど、ほかの山では味わえないよさがある。さらに秋には紅葉もみごとで文句なしだ。
今回は、紅葉のピークはとうに過ぎているが、障子ヶ岳の秋を雰囲気だけでも味わえればと思い、足を運んだ。
1日目:登山口〜紫ナデ〜障子ヶ岳〜天狗角力取山避難小屋
登山口から紫(むらさき)ナデまでの道を登りで使いたいことに加え、2日目の天気予報が芳しくなかったことから、1日目のうちに障子ヶ岳を通り、天狗角力取山避難小屋をめざすことにした。障子ヶ岳登山口をスタートして、まずは林道歩きを楽しむ。道の脇に立ち並ぶ広葉樹はまだ葉をまとっていたが、色は抜けて、葉が地面に落ちるのを待つばかりだった。しかし、カラマツがその順番を待っていたかのように黄葉のピークを迎え、陽を浴びて、金色に輝いている姿が印象的だった。途中、葉を落とした木立の奥に、障子ヶ岳の威風堂々とした姿が確認できた。
登山道を進んでいくと、一度沢へと下る箇所がある。足元がザレているが、ロープはなく、慎重に下る必要がある。秋で水量が少ないためか、徒渉は容易に行なえた。川を渡り切ると、そこから急登が始まる。少し登ったところで後ろに目をやると、向かい側の斜面がカラマツの黄葉で染まっていた。
靴底を地面に擦るようにして、道を覆う落ち葉につま先を潜り込ませながら進む。毎週のように秋の山へと足を運んでいたため、落ち葉の道も慣れたもので、順調に標高を稼ぐことができた。
木々が目線の高さより少し下にきたあたりで、ようやく障子ヶ岳を眺めることができた。奥に見える障子ヶ岳は色が抜け落ちていたが、手前の斜面にはまだ色づきがあった。ザレ場やスラブの急登があったが、設置されたロープの力を借りつつ、安全に通過することができた。今回は登りで使用したため滑る心配は少なかったが、ザレ場の下りで滑るようなことがあれば、そのまま谷に滑落しかねないため要注意だ。
あと一息で紫ナデというところで、障子ヶ岳の山頂が雲の中に隠れてしまった。周囲の山や東側に立ち並ぶ奥羽山脈を見ても、同様に山の上部のみが雲で隠れていた。
紫ナデの山頂は広くないものの、数人程度であれば休憩できるスペースがあったので、晴れることを期待してしばらく足を休めたが、結局全容を拝むことはできなかった。
紫ナデから一度大きく下った後で、アップダウンのある道を進むが、息が上がるような登りはないため、余裕をもって景色を楽しむことができる。切れ落ちた左側には、障子というよりは壁と呼ぶほうがふさわしいであろう灰色の岩壁が存在感を放っている。依然として、山頂を覆うガスがとれる気配はなかったが、巨大な岩壁を間近で見ることができ、山頂直下の急登を目前にして気持ちがたかぶった。
真正面に見えていたいちばん高いところまで登り切れば山頂だと思っていたが、そこからまだ少し距離があり、最後は緩やかな道を歩いて山頂へと向かった。登頂時の視界は足元付近しかなかったが、勢いよく吹く風のおかげで、西側の山々や日本海を見ることができた。さらなる展望を期待し、風に耐えながら待っていたが、それ以上よくなることはなかったので、先へ進むことにした。
粟畑(あわばたけ)に向かって歩き出すと、進行方向のガスがとれ、歩く稜線が明瞭になり、行く先に立ちはだかる粟畑への登りはなかなかつらそうに見えた。次第に朝日連峰の主稜線も現われ、その眺めに目を楽しませながら歩いたが、道のすぐ左は崖になっているため、そちらへの注意は怠らなかった。
一度崖から離れて、木々が繁茂する方へと進むことになるが、その先には湿原があった。短い急登を登りだしてすぐのところで振り返ると、障子池と障子ヶ岳をセットで望むことができる。周りを取り囲む雲の演出もあって、そこはまさに天空の箱庭だった。
粟畑までは、道幅の狭いザレ場や足の置き場に困る一枚岩があったが、注意しつつ登り切ることができた。そこから望む障子ヶ岳は、紫ナデから見た岩壁とはうって変わり、ピラミダルな山容とメリハリのある稜線が美しいのだが、またもやガスに隠れてしまい、見ることは叶わなかった。
粟畑から天狗角力取山方面へ進むと、途中に分岐があり、左に進んでいくと、天狗角力取山避難小屋がある。非常にきれいな小屋で、夏山シーズンには管理人がいることもある。水場は小屋からすぐ近くにあり、トイレは冬季用が一つ使用可能だった。小屋の名前にも入っている「天狗」だが、階段には大きな天狗のお面が飾られており、何度行っても驚いてしまう。 夕食の前に、天狗角力取山へと向かい、夕日を眺めることにした。小屋からは10分もかからずに登頂可能だ。
夕日が沈む方角には以東岳が鎮座しており、太陽そのものは見えなかったが、あたたかい色がじんわりとにじんでいく空が美しかった。
2日目:天狗角力取山避難小屋〜粟畑〜登山口
2日目は、予報通り朝から雲が空を覆っていた。期待していなかったため、山頂へは向かわずに小屋で朝食をとり、冷えた体を温めるためにココアをすすっていた。飲み終えたタイミングで急に外が明るくなったため、窓を覗き込むと、雲間から太陽の光があふれ出していた。天から降り注ぐ光芒が、蔵王連峰に光のベールを被せ、山形の街を覆う雲海を温かな色に染め上げており、予想していなかった神秘的な景色に息をのんだ。しばらく景色を楽しみ写真に収めた後で、帰り支度を行ない、小屋を出た。
前日の天気予報を信じる限り、朝から雲に包まれると思われたが、実際には遠くの景色も見ることができそうだったので、天狗角力取山に寄り道してから帰ることにした。小屋の裏手から急登を登り、分岐を左へと進み、天狗が相撲を取ったと言われている石で囲われた土俵を抜け、少し登ればすぐに山頂だ。
前日よりも朝日連峰がくっきりと見え、その反対側には三角形の障子ヶ岳も見えた。満足するまで景色を眺めた後で、下山を開始した。粟畑の分岐を右に曲がり、登山口へと向かう。左には深く切れ込んだ谷があり、その谷に向かって障子ヶ岳が長い尾根を延ばす。
登山口までは、木々に囲まれた道を進むので、夏山シーズンは視界が限られているのだが、葉が落ちたこの時期は枝のブラインド越しに景色を楽しむことができる。今まで見たことのない角度から見た障子ヶ岳は、またもや姿を変えていた。その分、道は落ち葉に覆われており、下りは上りよりも慎重に歩いた。
何度か訪れた通り雨を凌ぎながら急な尾根を下ると、緩やかな道になり、黄葉のカラマツ林がしばらく続く。雨雲が消え、すっかりご機嫌になった空からは、カラマツの落葉が金色の雨となって降り、なんとも幻想的な光景だった。終わりかけの秋もわるくない、そう思わせてくれる山行だった。
(山行日程=2024年11月16日)
MAP&DATA

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
プロフィール
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全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。
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