岩海と紅葉を楽しむ里山ハイク。三吉山、葉山を日帰りピストン【紅葉レポート】
読者レポーターより紅葉登山レポをお届けします。こうさんは山形県・三吉山(さんきちやま)へ。標高574mの地元に愛される低山です。
文・写真=こう
冬が近づき、標高の高いところは白く染まり、ようやく街まで紅葉が降りてきた。街を囲む里山がいっせいに色づき始め、なんともにぎやかな季節である。山形県には、アクセスが簡単で手軽に登れる低山が多く、晩秋の山選びには困らない。
その中で今回登ることにしたのは、三吉山である。地元の人たちから“さんきっつぁん”の愛称で親しまれているこの山は、小学校の遠足登山で登ることもあったり、近年は上山(かみのやま)市が推進する「クアオルト」のコースにも認定されているため、県内外から登山者が訪れたり、ご年配の方も登られたりと、老若男女たくさんの人に楽しまれている。
コースタイムは片道1時間程度であるため、初心者のトレーニングにはちょうどいいし、山に慣れた人であれば、あっという間に登りきってしまうので、余った時間で観光やかみのやま温泉を楽しむのもよいだろう。
もう少し長く歩きたいという人には、三吉山山頂から尾根伝いに歩くことができる葉山(はやま)まで足を延ばすのがおすすめだ。
駐車場のすぐ目の前に鳥居があり、そこをくぐれば登山開始となる。登山道を進むとすぐに開けた斜面が現われる。初夏にはニッコウキスゲが咲き乱れるが、今の時期はススキや乾いた色のねこじゃらしが揺れていた。下界では度々目にするねこじゃらしだが、思えば山で見かけることは少なく、なにか貴重なものに出合ったような感覚になった。
開けた斜面の先には、森が広がり、道は階段になっている。階段のステップにはウッドチップが敷かれており、足の負担を減らす工夫が凝らされていた。階段を過ぎ、左手に進むと見晴らし台があり、そこからは上山市の街並みを眺めることができる。
見晴らし台から山頂をめざして進むと、足元には枯葉が隙間を埋めるように落ちていたが、上を見上げても、色づいた葉が空を覆っていた。そこにある木のいちばん高い枝がちょうど見頃を迎えた頃なのか、その下の枝にはまだ緑色の葉も残っており、これからも紅葉が楽しめそうだ。
中腹まで進むとベンチと水場があり、休むことができる。残念ながら時期が遅く、水場は枯れていた。苔むした石にカラマツの落葉がデコレーションされており、ここでも秋を感じることができた。
高い針葉樹の森に囲まれ、光が入らず暗く感じたが、その先には日差しを浴びた紅葉があり、針葉樹の森の薄暗さと対比され、一段と輝いて見えた。
つづら折りが終わりを迎えた頃、三吉山名物の岩海(がんかい)が現われた。三吉山は、山全体が木に覆われているが、ここ一帯だけは岩に埋め尽くされており、視界がひらけて展望がよい。紅葉を挟んだその奥には、上山市の街並みが広がる。江戸時代から続く信仰のおかげか、岩の斜面に明瞭かつ安定した道が切られており、非常に歩きやすい。眼下に広がる景色を楽しみながら、岩の海をゆったり通過した。
岩海を抜けると、山頂までは再び紅葉の森へと入る。オレンジを主とした色の中に、所々淡い黄色が混ざっていた。木の間隔がまばらなので、日差しがよく入り、とても暖かった。
順調に標高を稼ぎ、三吉山山頂に到着した。山頂には、秋田県太平山(たいへいざん)にある三吉(みよし)神社から分霊を受けた三吉神社がある。神社の手前には大きな釣鐘があり、それをつくと、麓の住宅街まで響いて聞こえるらしい。釣鐘の脇にはベンチがあり、そこから西に目を向けると、紅葉した低山の奥に白く染まった大朝日岳の姿があった。南西には、三吉山とともに上山市のシンボルとなっているスカイタワー41という超高層マンションが見え、その先に赤く染まった山がいくつも並んでいるのが見えた。
また、三吉神社の裏もビュースポットとなっており、天気がよければ山形盆地と月山(がっさん)を眺めることができる。すぐ近くには、数年前から、三吉山登山者の間で話題になっているゴジラのような松があったが、年々形が変わってきている。ゴジラの顔から離れてきてしまっていることに一抹の寂しさを覚えたが、それと同時に、自然が生きていることをあらためて実感した。
山頂の景色をしばらく楽しんだ後は、奥にある葉山をめざすことにした。冒頭に述べた通り、葉山には尾根伝いで行くことができる。はじめに一度下るが、そこからは緩やかな道となる。このあたりの紅葉も鮮やかで目が奪われてしまい、おのずと歩くペースがゆっくりになった。途中、右側に木がなく開けた一帯があり、麓に目をやると、田んぼが行儀よく並んでいた。
歩きやすかった緩やかな道が突然終わりを告げ、代わりに上部まで長く延びるロープが現われた。急傾斜に加え、足元が滑りやすいので登るのに苦労した。あたりの紅葉はところどころ残っている程度で、日差しと風がよく入ってきた。
山頂は深緑の木々に囲まれており、薄暗い空間に祠と木で守られた温度計、登山ノートの保管箱があるのみで、景色は望めなかった。少し離れたところにある三角点まで寄り道してから、三吉山に戻ることにした。
来た道を戻り、三吉山へと向かったが、三吉山に着く頃には雲が増えて、神々しく光を放っていた大朝日岳もどこかへ消えてしまっていた。登りで楽しんだ紅葉を下りも眺めながら歩いていたが、あっという間に登山口まで戻ってきてしまった。下山後は、街の食堂で英気を養い、別の里山へと向かい、そこでも紅葉狩りにいそしんだ。手軽に登れる里山ならではの楽しみ方で、短い秋を思う存分味わった一日だった。
(山行日程=2024年11月24日)
MAP&DATA

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
この記事に登場する山
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