思わぬ風景に出合えた晩秋の荒船山。国道沿いの食堂で正統派の定食を味わう
晩秋、展望を求めて訪れたのは西上州・荒船山(あらふねやま)。予想外の景色を満喫し、昭和を感じる食堂で定食を。「正統派下山メシ」で山行を締めくくった。
写真・文=西野淑子
山の上は真っ白く、木々が霧氷に覆われていた。
11月の終わり、ガイドブックの取材で荒船山を歩いた。
タクシーで内山(うちやま)峠登山口に向かう道中、山頂付近が真っ白い雲に覆われているのが気になってはいたのだ。晴れ予報を信じて来てみたものの、登山口に着いたとき、空は灰色の雲に覆われていた。すっかり葉を落とした樹林のなか、よく整備された道を歩いていくと、目の前に見えている山の上部が白い。木々にびっしりと霧氷がついていた。いやあ、美しいな。
山頂が近づくにつれて、少しずつ青空が見えてきた。霧氷をまとった真っ白い木々が陽光を受けてきらりと輝く。まだ冬じゃないんだけどな、こんなすてきな景色に出合えていいのだろうか。こういうのを「ギフト」っていうんだよ。うれしくてニヤニヤしながら歩く。艫岩(ともいわ)展望台に立つと、見えるはずの山々は厚い雲に覆われていた。目の前に大きく浅間山(あさまやま)が見えるはずなのだが、まあいい、絶景は次回歩くときのお楽しみということで。
MAP&DATA
やさしく、力強く体に染み渡る肉入り野菜炒め定食
山麓の紅葉を楽しみながら、相沢(あいざわ)登山口に下山。遅いお昼ご飯を食べて帰ろう。
バスを待つ時間に荒船の湯で温泉とお昼ごはんと思っていたのだが、閉館したとタクシーの運転手さんが教えてくれた。「国道沿いに食堂がある」との情報をもとに、お店を探してみることにした。幸か不幸か、バスの時間までにはまだ余裕がある。
お腹すいたなあ、入りやすい、いいお店があるといいなあ。
ポクポクと国道を歩いていくと、「荒船の里 大竹」と書かれた昭和を感じさせる看板と、赤い屋根の建物を発見。入口に「お食事処」ののれんがかかっている。小走りで店の前に向かう。すでに14時を過ぎているけど、中休みになっていないだろうか・・・。祈るような気持ちで入店。どうぞと言われてホッとする。
テーブル席につく。メニューを見ると、とんかつなどの定食、麺類、カレーなどがあり、下仁田名物のこんにゃくの一品料理もいくつか。とんかつがおすすめなのかな、もつ煮とライス、ラーメンのセットメニューもあるのか。どれも魅力的で悩ましい、どうしようかと考え、壁に貼られている「肉入り野菜炒め定食」の貼り紙に目がいく。おお、いいね。
「すみません、肉入り野菜炒め定食、ご飯は少なめでお願いします」
テーブル席と小上がり、明るいガラス張りの店内。昭和の雰囲気の店構えだったが、店内も昭和があふれている。おすすめメニューの貼り紙、飾り棚の上には折り紙の花や絵はがき、天然石などが置かれている。壁にかかっている風景画は、よくみたらジグソーパズルだった。ああ、子どものころによくやったなあ・・・。待っている間に、炒め物のジャッ、ジャッ、という音が聞こえてくる。いいにおいがしてきた。
「今日は荒船山ですか?」
女将さんが尋ねてくれる。「はい、内山峠から歩いて相沢登山口へ」
「寒かったでしょう?うちから荒船山が見えるけど、明け方は雲がかかっていましたよ」
ああやっぱり。山の上には霧氷がついていました・・・と、女将さんに山で撮った霧氷の写真を見せびらかす。
女将さんが奥に入り、料理を持ってきてくれた。
たっぷりの肉入り野菜炒め、ご飯と味噌汁、お漬物、小鉢はもやしの和え物。思い切り正統派の「定食」だね。ご飯少なめでお願いしたけど、どんぶりメシで案外に量が多い。普通盛りじゃなくてよかったな。
まずご飯と肉入り野菜炒めを一口。シナシナとシャキシャキのバランスがちょうどいい野菜。噛み締めると野菜の甘みもいい感じ。肉は豚肉、野菜炒めにはうまみが強くて味わい深い豚肉がいいよねえ・・・うふふ。野菜や肉のうまみを生かすような、濃すぎないシンプルな味が私にはちょうどいい、好きだなあ。
お漬物はたくあんと白菜。塩気が効いた白菜の漬物はなんだか懐かしい。白いご飯によく合うよね・・・。もやしの和え物はピリ辛。ああこれもまたご飯によく合うじゃないの。ご飯があっという間になくなっちゃうね、普通盛りでよかったかもしれないな。味噌汁にミツバが入っていて、ふんわりと風味がいいのも好ましい。どの料理も、洗練され過ぎていない家庭料理を思わせる味。疲れた体にやさしくじわりと染みる。下山後に食べたい定食ってこういうのだなあ・・・と思いながら食べ進める。
この肉野菜炒め、ビールにも合いそう。ビールを注文したくなったけど、今日はまだ帰宅するまでが長い。慣れないバスや電車に乗るのに寝落ちはできないから我慢我慢。
がっつり歩いてペコペコになったお腹が、しっかり満たされた。ごちそうさまでした。
天気がよいときを選んで、山頂からの景色を楽しむために荒船山にまた来よう。下山したらこのお店が待っていてくれるんだもの。今度はがっつり揚げ物の定食にしようか、お店のおすすめらしい「もつ煮」も食べたいな。

荒船の里 大竹
下仁田町、国道254号沿いに立つ食堂。トンカツやいかフライなどの定食や、麺類、カレーなど定番のメニューがそろう。
| 電話 | 0274-84-2647 |
|---|---|
| 住所 | 群馬県甘楽郡下仁田町大字南野牧7246-1 |
| アクセス | しもにたバス三ツ瀬バス停から徒歩約10分 |
プロフィール
西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)
初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。
下山メシのよろこび
登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他