東京で宇宙と植物の世界を旅する。国立天文台と神代植物公園(東京都)

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休日にどこかへ行きたいけれど、1泊でいくほど時間もない。あるいは、休日にうっかり寝坊したけど、外は晴れていて家でただのんびりするのはもったいない。そんな日には、半日で楽しめる徒歩旅行がおすすめ。今回は国立天文台から神代植物公園への小さな旅。

文・写真=佐藤徹也、トップ写真=神代植物公園

宇宙の壮大なスケールと、植物の多様性をくらべる旅へ

子どものころから図鑑が好きで、本棚にはボロボロになって本の体裁をなさなくなった図鑑が何冊も並んでいた。なかでもボロボロ具合がひどかったのが植物図鑑と天文図鑑。植物図鑑は身近に生えている植物の素性を知ることができるのがうれしかったし、天文図鑑は、宇宙への憧れから図鑑に描かれた星々の絵を模写して、それでお手製の『宇宙の星カード』を作ったりもしていた。そんな僕にとって天文台と植物園をハシゴできる今回の徒歩旅行は、人並みならぬワクワク感にあふれるコースだ。

起点はJR中央線の武蔵境駅。駅から延びる「かえで通り」をまっすぐ南下していく。交通量の多い道だが、車道と歩道、そして自転車道もしっかり分離されていて歩きやすい。東八道路にぶつかったら右折して、そのまま天文台通りへ入ってもよいが、車道歩きもちょっと飽きたので、天文台通りと併走している手前の細い道を左へ。すると風景は一変。住宅街と畑がモザイクのように混在した街並みが続く。

地図を眺めながら、このへんだろうとあたりをつけて右に曲がってみると、正解。国立天文台の正面に飛び出した。緑に埋もれるように立つ正門。そしてその脇に建つ木造三角屋根の守衛室が歴史を感じさせる。

ありがたいことに見学は無料だ。守衛室で申し込みをすると見学者用のワッペンをくれるので、それをわかりやすいところに張っていざ天文台へ。

天文台といっても、ただ単に例のドーム型をした建物がポツンとあるわけではない。広い敷地内には、世界最先端の観測施設が整備されており、まさに日本の天文観測の中枢ともいえる場所なのだ。もちろんそのすべてを一般人が見学できるわけではないが、それでも見学可能な場所については僕たちにもわかりやすく解説をしてくれている。

まず向かったのは天文台最古の建造物にして、国の登録有形文化財にも指定されている「第一赤道儀室」。天文台のイメージそのままの形をしたこれは1921(大正10)年に完成、太陽黒点の観測に活躍したものだそう。ちなみに内部にある望遠鏡はドイツのカール・ツァイス製! カール・ツァイスという響きにわけもなくグッとくるのは、僕だけか。

国立天文台 第一赤道儀室
天文台といえばこのドーム状の建物が象徴的だ。1921(大正10)年に建設された第一赤道儀室は、口径20cmのカール・ツァイス製望遠鏡を内蔵し、60年にわたり太陽の黒点観測を行った
国立天文台 ツァイス製赤道儀
第一赤道儀室に収められているツァイス製赤道儀。これを用いて1998(平成10)年まで太陽黒点のスケッチ観測が行われていたという

そこからは太陽系ウォークと呼ばれる、実際の太陽系の惑星間距離を140億分の1に縮尺、歩くことでその距離感を実感できる小径を通り、アインシュタイン塔と呼ばれる塔状の観測施設や、最新の観測結果がまとめられている展示室を巡っていく。132億光年先の銀河だとか、人間の視力に換算すると視力6000に匹敵する解像度を持った望遠鏡とか、あまりにも現実離れしたスケールに圧倒される。宇宙は好きだったけれど、そちら方面の仕事に就かなかったのは正解だった。そもそもそんな理系脳もないけど。

国立天文台を後にして、次は神代植物公園へ。この間は歩いて15分ほどの距離だが、こまごまとした住宅街を抜けるとあってちょっと迷いやすい。僕も道を少し行きすぎてしまい、地元の老夫婦に正しい道順を教えてもらった。

神代植物公園は、もともとは都内に植える街路樹などを育てるための苗園だったものを、1961(昭和36)年に唯一の都営植物公園として開園。園内には、バラ園やツツジ園、シャクナゲ園など、多種多様な植物がブロックごとに植えられている。お目当ての花があるのなら、開花状況を確認しておくのがお勧めだ。

今回僕が目指したのは、2016(平成28)年にリニューアルオープンしたばかりの大温室。ここには熱帯植物や食虫植物、多肉植物などが数多く育てられており、その異形ともいえる姿には目が釘づけだ。地球にはこんなにも多彩な植物がいるのか。先ほど国立天文台では宇宙における地球のちっぽけさを痛感したばかりだというのに、今度はそのちっぽけな地球にはこんなにも多くの植物が生きているというギャップに衝撃を受ける。

神代植物公園
神代植物公園
なんというか、この怪獣的な姿が多肉植物やサボテンの魅力のひとつでもある。とくに下写真の植物は、「キソウテンガイ」というまさに奇想天外な標準和名をもつことで知られている

もうマクロだかミクロだかわからない状態でちょっと頭が混乱してくるが、そんなときでも腹は減る。神代植物公園から深大寺へ向かって、名物の蕎麦をいただくことにしよう。ダンドリのよいことに、神代植物公園には深大寺門と呼ばれる出口があり、そこから出るとすぐ目の前が深大寺なのだ。

門前に並ぶ店の一軒に入り、まずは蕎麦を食べたうえでお参りへ。門前の店は閉まるのが早いので、この順番は間違ってない。深大寺は厄除け祈願でも知られている。ここからは三鷹通りを南下すれば、京王線布田駅まで30分ほどだ。

(2018年4月探訪)

神代植物公園
季節の花や温室だけでなく、広い雑木林を有するのも神代植物公園の魅力のひとつ。コナラやクヌギなどの森を抜けて、隣接する古刹・深大寺へ抜けることができる
深大寺そば
深大寺といえばやっぱり蕎麦が有名だ。門前にはお蕎麦屋さんがいくつも並んでいるのでお好みに応じて。ただしどこも閉店時間が早い。少し歩けばソバ畑も広がっている
深大寺
奈良時代に開創されたと伝えられる深大寺。毎年3月に行われる「だるま市」には多くの人が訪れるほか、門前の店が供する深大寺そばも有名。神代植物公園も、もともとは深大寺の寺領だった

DATA

モデルプラン:JR中央線武蔵境駅・・・国立天文台・・・神代植物公園・・・深大寺・・・京王線布田駅
歩行距離: 約9,000m
歩行時間:約3時間
アクセス:起点の武蔵境駅へは中央線快速で新宿駅より約22分。終点の布田駅からは、京王線を途中で急行に乗り換えて新宿駅へ約30分
立ち寄り
スポット情報:
  • 国立天文台=三鷹市大沢2-21-1。TEL0422-34-3600。10時〜17時。年末年始休
  • 神代植物公園=調布市深大寺。TEL042-483-2300。9時30分〜17時。月曜(祝日の場合翌日)、年末年始休
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佐藤徹也
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プロフィール

佐藤徹也(さとう・てつや)

アウトドア系旅ライター。徒歩旅行家。国内外を問わず徒歩を手段にした旅を続け、サンチャゴ・デ・コンポステーラ巡礼路中「ポルトガル人の道」「ル・ピュイの道」を踏破。近年はアイスランドやノルウェイなど北欧のクラシック・トレイルを歩くほか、地形図をにらみながら国内近郊の徒歩旅スポットも開拓中。著書『東京発 半日徒歩旅行』シリーズ(ヤマケイ新書)は京阪神版、名古屋版など計5冊を数える。最新刊は『完本 東京発半日徒歩旅行』(ヤマケイ新書)。

半日徒歩旅行のすすめ

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