移住する前に知っておきたい、長野県の冬の暮らし
北アルプスの山々は雪化粧をしていますが、里の方は積雪が少なく、今冬はまだ一度も雪かきをしていません。私が長野県に移住した10年前に比べても雪の降る日は少なくなっています。その一方で、温暖化の影響で年々気温は上がっているとはいえ、長野県の冬はやっぱり寒い。一年のなかで寒い時期が長いため、長野県への移住を考えるならば、冬の寒さ対策とそれなりの覚悟が必要です。今回は長野県の冬の暮らしについて紹介します。
文・写真=鈴木俊輔
‟しみる” 長野県の冬
「長野県の冬はね、しみるんだよ」。
移住した年に、借りていた家の大家さんから言われた言葉です。「しみる」は長野県の方言で、漢字では「凍みる」と書きます。これは文字通り「凍てつくような寒さ」のこと。私の日課は犬の散歩から始まるのですが、冬の晴れた日の朝は皮ふがピリッとするような寒さで、まさに凍みるという言葉がしっくりきます。
寒さのピークは1月と2月で、最低気温がマイナス10度を下回る日も。長野県内でも地域によって気温や降雪量はかなり異なります。私が住んでいる北アルプス地域内でも降雪量は大きく変わり、5市町村のなかで池田町、松川村、大町市の南部は雪が少なく、大町市の北部、白馬村、小谷村は豪雪地帯です。取材などで北のほうに出かけると、雪の多さに驚かされます。長野県への移住を考える場合は、積雪量なども確認しておきたいところ。住む地域によっては、屋根の雪下ろしが必要なところもあります。
長野県の冬の暮らしの工夫
十分な防寒対策をしないまま迎えた移住して最初の冬は、「なるほど、これが凍みか…」と身を持って感じました。毎年少しずつ工夫することで、だんだんと快適に過ごせるようになってきました。私の冬の暮らしの工夫をいくつか紹介します。
① 防寒対策
築年数の浅い家やアパートであれば断熱がしっかりしていますが、中古住宅(特に古民家)はそうでない場合が多いです。石油ストーブやファンヒーターを使っていても、断熱性能が低い家では熱が逃げてしまうため効率がよくありません。初期投資は必要ですが、長期的に見れば二重サッシに替えたり、床や天井に断熱材を入れたりしたほうが光熱費がかからず経済的です。暖かさの点では、前回の記事で紹介した薪ストーブが圧倒的です。
② 水道管の凍結対策
真冬は水道管が凍ってしまうので、凍結防止帯の装着は必須です。24時間通電すると電気代がかかるので、一定の温度まで下がると自動的に通電する節電装置を使っています。しかしながら、凍結防止帯を巻いていてもカバーできない箇所もあるので要注意。特に冷え込む日は、洗濯機やトイレの給水管が凍って水が流れないことも。昨年、わが家のお風呂場の水栓が凍結で故障して、交換に5万円もかかり痛い出費になりました。
③ 冬の交通手段
長野県に移住してから日常生活での交通手段は車がメインで、冬場はスタッドレスタイヤが必須です。例年、12月から4月まで着用しています。スタッドレスタイヤを履いていても、氷の上でブレーキを踏むと滑ることがあり、これまでに何度か冷汗をかきました。こちらでは雪道での運転が不安な人のために、雪道の運転講習を行なっている教習所もあります。
また、寒さで車のフロントガラスが凍って視界が悪くなったり、停車中に雪が積もったりすることがあるため、車にはスノーブラシを常備。寒さでワイパーのゴムがフロントガラスに凍りつくため、出かける前の晩に立てておくのが習慣になりました。
電車については、雪の多い路線では遅延や運休も珍しくありません。電車での通勤や通学を考えている場合は注意が必要です。
地域の冬の伝統行事
私の住む地域では、小正月に子どもたちの三九郎(どんど焼き)と自治会での新年会があります。三九郎は田んぼで火を焚いて、正月飾りを燃やして年神様を見送る伝統行事。着火すると同時に勢いよく炎が燃え上がる様子は圧巻。おき火になると、参加者たちは持参したモチを焼いて楽しんでいます。
新年会では、道祖神のわらぶき屋根を住人たちで一緒にふき替える作業が恒例です。近くの田んぼに集まって、稲わらを編んで「おやす」という正月飾りを作ります。そして、皆で作ったおやすを屋根ふき名人たちが仕上げていきます。わらぶき屋根が完成すると、皆で道祖神様に手を合わせて1年の無事を祈ります。
長野県ならではの冬のアクティビティ
寒い場所に住むことの苦労もありますが、長野県ならではの冬の楽しみもたくさんあります。
① 温泉巡り
環境省の令和元年温泉利用状況によると、長野県内の温泉地数は205カ所で、北海道に次いで全国第2位とのこと。わが家から車で20分圏内にいくつか日帰り入浴ができる温泉があり、時々温まりに行きます。料金は500円〜1000円と手頃で、露天風呂やサウナがあるところもあり、地元にいながら観光気分。熱い湯に浸かりながら、深々と降る雪を眺めるのは至福のひとときです。
② 食
寒い日に食べる温かい料理は格別です。わが家では薪ストーブを使って煮込み料理を作ったり、炉内で手作りのピザを焼いたりして、地酒やワインと一緒に楽しんでいます。年によっては、みそ作りのワークショップに参加して、地元産の大豆を使って自家製みそを仕込むことも。一度に大量に作るので1年では消費しきれず、発酵が進むと風味が変わって旨味が増してきます。
③ 雪遊び
大雪が降ると一夜にして辺りが銀世界に。見慣れた景色が幻想的に様変わりして非日常感を味わえます。雪が積もると子どもは大はしゃぎで、一緒に庭で鎌倉や雪だるまを作ります。近くの公園では傾斜を使ってそり遊びも楽しめます。わが家はウィンタースポーツをしませんが、いちばん近いスキー場まで子どもと雪遊びに行くことも。スキー好きの人は、リフトの年間パスポートを買って楽しんでいるようです。
いちばん寒い季節に行ってみる
長野県や寒い地域への移住を考える場合は、あえていちばん寒い季節に訪れてみることをおすすめします。登山が好きな人であれば夏に訪れることが多いと思いますが、冬に民宿やゲストハウスに宿泊して生活目線で滞在してみる。宿のオーナーに積雪量などを聞いてみると参考になります。また、真冬の寒さを体感しておけば、心の準備ができて少し安心です。いまが冬真っ只中、気になる移住候補地の寒さを体感しに足を運んでみてはいかがでしょうか。
プロフィール
鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)
長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。
山のある暮らし
都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム
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