スリルある岩場にハラハラし、愛らしいフクジュソウにほっと癒された四阿屋山ハイキング

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読者レポーターより登山レポをお届けします。上町嵩広さんは秩父・四阿屋山(あずまやさん、772m)へ。訪問時は2月末なので、フクジュソウとセツブンソウはさらに開花が進んでいるようです。

文・写真=上町嵩広


初っ端からトラブル発生です。秩父鉄道・三峰口駅発の路線バスに間に合わせるために、西武線特急ラビューを利用したのですが、乗り心地が快適だったせいか西武秩父駅でぼんやりしてしまい・・・乗り替えの電車が目の前を走り去る事態に。

西武線特急ラビュー
西武線特急ラビュー

慌ててタクシーに乗り込み、電車を追跡するように三峰口駅へ急ぎます。タクシーの運転手さんの機転で近道を走っていただき、なんとかバス発車時刻までに三峰口駅に到着しました。運転手さんに感謝です。

あらためて、今回はそろそろセツブンソウとフクジュソウが咲き始めそうだなと思い、秩父の四阿屋山へ行ってまいりました。前半は緊迫感が走る岩場・鎖場のヒヤヒヤの登り、後半はフクジュソウなどの花に心和むのんびりハイキングでした。

可憐なセツブンソウ
可憐なセツブンソウ

三峰口駅から小鹿野町の町営バスに乗り、小森バス停で下車。堂上節分草園までしばらく歩きます。セツブンソウはまだまだ咲き始めたばかり。広い園内にほんの数輪が花を開かせていましたが初めて見ることができて満足です。今度は満開で園内いっぱいに広がったときに再訪したいと思います。

つつじ新道入口の警告
つつじ新道入口の警告
節分草園を後にして来た道を大堤バス停まで戻ります。バス停そばが四阿屋山への登山道、つつじ新道の入口です。入口には「上級者コース」との警告が掲示されています。もちろん事前に把握のうえでのルート選択でしたが、想像以上にスリルあるルートで肝が冷えました。
初心者迂回の看板
初心者迂回の看板

最初から急傾斜の道が続きます。針葉樹の森は薄暗くちょっと寂しい雰囲気。登った先に再び「初級者は迂回」との警告です。今回はそのまま岩場・鎖場へ進むと、いきなり直立した岩壁にぶち当たります。上部からは長い一本の鎖が垂れ下がっていました。

第一の岩場・鎖場は切り立った岩壁に取り付く
第一の岩場・鎖場は切り立った岩壁に取り付く

「登りますよ」と一声かけてから取り付きます。しかし、思いのほか確かなステップやホールドがとぼしい。あっても小さいので、どうしたものかと考えあぐねます。あまり気乗りはしませんが、やむをえず鎖を頼りに垂直にも感じられる岩をなんとか攀じ登ります。

小石や落葉が堆積しているところもあり、足が滑りそうです。落石を起こさないように慎重に上がっていきます。滑落したら数十メートルどころか数百メートル下に真っ逆さまでしょうか。ビビリの私に心の余裕は1ミリもありません。時間にして5分程度ですが、正直な感想は「やべぇところに来ちまったな」。

岩場・鎖場を登り切ったところから南西方面(雲取山や甲武信ヶ岳などの奥秩父主脈縦走路か)を望む

おそらくこの第一の岩場が最大の核心部になるのでしょうか。このあと第二、第三の岩場もありますが、この第一の岩場ほどは手こずりませんでした。とはいっても要注意です。第一の岩場を越えるとヤセた岩尾根を通過し大岩の脇を擦り抜けるように進んでいきます。

四阿屋山の山頂直下の岩場

第三の岩場が終わると福寿草園からのルートと合流です。ほっとひと安心。その先は四阿屋山の山頂直下の岩場となります。つつじ新道の岩場と比較すれば、歩きにくさは多少あるものの危険度は低そうです。

四阿屋山頂上からの両神山の眺望
四阿屋山頂上からの両神山の眺望

四阿屋山の山頂からは両神山のギザギザの稜線がよく見えました。山頂は狭く、福寿草園からの登山者が続々と上がってきたので早々に退散です。つつじ新道との合流点に戻り、福寿草園へのルートを下りていきます。

福寿草園への急斜面の登山道を下る
福寿草園への急斜面の登山道を下る

こちらは岩場ではありませんが、急傾斜の階段道で道幅は細く、また落ち葉で滑りやすくて歩きづらかったです。階段の材木も荒れてしまっている部分もあります。両神神社奥社まで下れば道は格段に歩きやすくなります。

フクジュソウはまだ咲き始め
フクジュソウはまだ咲き始め

針葉樹の林の中を下り、展望休憩舎の方へ進みます。さらにその先で山居広場へ向かえばロウバイが姿を現わします。その斜面を下っていくと、地面にフクジュソウが花を咲かせていました。こちらもまだ咲き始め。冬の大地から目覚め始めたように小さく蕾から開いています。

それまで色の乏しかった森のなかで開く黄色の花はひときわ鮮やかに感じられ、冬の終わりと春の訪れを予感させるかのようです。フクジュソウのなかでもオレンジ色の秩父紅にお目にかかることはできなかったのが残念です。

道の駅「両神温泉薬師の湯」に併設された農産物直売所
道の駅「両神温泉薬師の湯」に併設された農産物直売所

福寿草園から舗装道路を進み、駐車場の先で右手に折れて薬師堂コースに入ります。道標に記された薬師の湯へ向かって森の中を下りていきます。森を出て住宅が見えてくれば、すぐ左手に「両神温泉薬師の湯」そしてバスターミナルがあります。今回はここがゴールです。

四阿屋山は硬軟二面性のある山でした。南側斜面からのつつじ新道はスリルある岩場・鎖場です。一方で東側の薬師堂コースはほとんど里山に近いような穏やかな道のりでした。つつじ新道の強面が嘘のようなのんびり気分のハイキング。ギャップが激しすぎます。

つつじ新道はクライミング経験者ならば造作もないかもしれません。「初級者は迂回」という警告は過剰とは言えないと感じました。個人的には八海山(はっかいさん)と少し似ているかな?という印象です。岩場の修練が必要だなぁとあらためて思い直した山行でした。

(山行日程=2025年2月24日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 3時間3分
行程:大堤バス停・・・山居分岐・・・四阿屋山・・・両神神社奥社・・・山居・・・駐車場・・・車道・・・分岐・・・道の駅両神温泉薬師の湯
総歩行距離:約3,600m
累積標高差:上り 約522m 下り 約550m
コース定数:12
上町嵩広(読者レポーター)

上町嵩広(読者レポーター)

登山歴は15年ほど。普段は奥多摩や丹沢周辺に出没し、八ヶ岳や北アルプスにも出張ります。好きな山は八ヶ岳の編笠山。山の抱負は「ちょっとだけ背伸びした山を登ってみる」。

この記事に登場する山

埼玉県 / 北秩父

四阿屋山 標高 772m

四阿屋山を最初に記録したのは、江戸期の人、斉藤鶴磯の『武蔵野話』ではないかと考えられる。また河田罷の『武蔵通志(山岳篇)』の両神山の項に「四阿屋山(あずまやさん)高七百二十尺山腹に薬師堂あり頂上に両神社あり」と記している。  昔に比べ、山中の様子ががらりと変わってしまった。地方自治体による自然破壊なのか、リゾート法によるものなのか、フクジュソウの花を人工的に作付けしたり、山頂直下に登山道が造られたりしている。もちろん山中での転落事故は絶対にあってはならないが、登山道を整備しても事故の減少は図られないものである。  それに花の咲くころには、フクジュソウなどの盗掘が多いともいわれている。  コースタイムは小森から山頂まで往復して、約2時間30分。

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