丹沢でも雪山登山ができる! 雪景色の塔ノ岳を登る

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

読者レポーターより登山レポをお届けします。東武さんは雪の丹沢・塔ノ岳(とうのだけ、1491m)へ。これから融雪が進みそうですが、まだ雪山チャンスはあるでしょうか。

文・写真=東 武


珍しく東京にも雪の降る日が続きました。都心では積もりこそしませんでしたが、丹沢の山々にはうっすらと雪が積もっているのが遠目にも見えました。

「このタイミングで登れば低山でも雪山気分を味わえるかも知れない」と思い立ち、塔ノ岳の登山を計画。登山当日の朝、最寄りの渋沢駅に降り立つと、期待通り丹沢の山々は真っ白に雪をかぶっています。

真っ白に雪をかぶった丹沢の山々
駅から眺めても山が白いのがわかります

渋沢駅から登山口のある秦野戸川(はだのとかわ)公園まではバスで15分。バスを下りて準備を整えたら、登山開始です。

塔ノ岳 大倉尾根の登山口
大倉尾根の登山口から、山頂までは6.4km

歩き出してすぐに「大倉の清水」と名付けられた水場があるので、行動中に飲む水を水筒にくみました。

「大倉の清水」で汲める水は秦野市内の水道水と同じものですが、秦野は昔から名水の採れる地として有名です。神奈川で唯一の盆地なので、丹沢山地や渋沢丘陵にしみ込んだ水が豊富な地下水として蓄えられているのだとか。環境省の選定した名水百選の総選挙でも、秦野の水はおいしさの部門で1位に選ばれています。

そんな秦野の水ですから、水道水もとてもおいしいです。

塔ノ岳 大倉の清水
大倉の清水

登り始めてしばらくはゴロゴロと石の転がる道が続きます。歩きづらい箇所はほとんどありません。最初はゆるやかな登りですが、ウォームアップは終わりと言わんばかりに見晴茶屋を過ぎたあたりで急勾配に変わります。

塔ノ岳 大倉尾根の急勾配
見晴らし茶屋を過ぎたあたりから、急勾配が増えていきます

樹上や登山道の外れた場所には雪が少しはありましたが、それほど多くは残っていません。人の歩くような所ではほとんど雪が解けています。

「雪山気分が楽しめるかと思ったけど外れたなぁ」などと落胆していましたが、堀山の家を過ぎると状況が一変します。

塔ノ岳 雪が積もった登山道
一気に雪景色になりました

標高の高い地点では雪が解けずにたくさん残っていました。景色が急に雪山のように変わりました。湿った解けかけの雪で非常に滑るので、慌ててチェーンスパイクを履きます。

堀山の家から山頂までは約2.3km。距離としては行程の半分以上を過ぎていますが、堀山の家から先の勾配が塔ノ岳のいちばんキツいところだと私は思います。傾斜はどんどん急になり、ひたすら登りが続きます。

ただ、この日は低山では滅多に見られない雪景色。チェーンスパイクで雪をざくざくと踏みしめて歩く感触がおもしろくて、疲れはするものの楽しく歩けました。

塔ノ岳 雪が積もった登山道
木の枝にも雪が積もっています

周囲の木々には枝の上に雪が積もっていて、まるで雪の花が咲いているように見えます。積もった雪が風に乗って枝から飛び、空は快晴なのに雪が降っているかのようでした。

塔ノ岳 雪が積もった登山道
山頂に近付くほど、雪は深く残っていました

急登を登り終え、花立山荘から山頂まではあと一息。最後の登りを前に休憩したいところでしたが、ベンチにも雪が積もっていたので休まず山頂をめざします。

道筋の中でいちばんキツい登りは終えているはずですが、「あともう少しで山頂!」と意識してしまうと、余計に登りがつらく感じられます。なんとか息を整えながら最後の階段を登り、山頂に到着しました。

塔ノ岳 雪がたっぷりと残った山頂
雪がたっぷりと残った山頂の様子

麓から眺めて期待した通り、山頂はすっかり雪景色です。

景色を楽しみながら一息入れたいところでしたが、山頂のベンチも雪が積もって休めそうな場所はあまり見当たりません。シートを敷いて雪の上に座ったもののすぐに身体が冷えたので、早々に下山を開始します。

登りよりも下りの方が大変で、履き慣れないチェーンスパイクを石に引っ掛けて転ばないように気を付けて進みます。積もった雪の中を歩くのは気持ちがいいですが、雪が日差しを照り返すので目が痛くなりました。サングラスを持ってくるべきでした。雪への不慣れを痛感します。

日差しの強さもあって、下山するころにはかなり融雪が進んでいました。

塔ノ岳 雪が積もった登山道
花立山荘を過ぎるころにはだいぶ雪が消えています

足元の雪は解けかけているものの、ところどころ残ってはいるのでチェーンスパイクを脱ぐタイミングに迷いました。石を踏むとバランスを崩すし、かといって雪が残っているところでは履いたまま歩きたい。

そんなふうに足元ばかり気を付けていたら頭上がおろそかになり、枝からドサドサ落ちる解けかけの雪を何度も浴びました。

慣れない雪で疲労もありましたが、低山で雪山気分が味わえた楽しい一日でした。

(山行日程=2025年3月7日)

立ち寄り情報
「秦野戸川公園」

秦野戸川公園
登山口にある秦野戸川公園では河津桜が楽しめます。満開の木もあれば七分咲き、八分咲きの木もあり、まさに見頃といったタイミングでした。秦野戸川公園から渋沢駅までのバスは1時間に2、3本あるので、下山後にバスを遅らせて河津桜を眺めていくのもおすすめです。

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 6時間55分
行程:大倉・・・観音茶屋・・・雑事場ノ平・・・駒止茶屋・・・小草平・・・茅場平・・・花立山荘・・・金冷シ・・・塔ノ岳(往復)
総歩行距離:約131,000m
累積標高差:上り 約1495m 下り 約1495m
コース定数:32
東 武(読者レポーター)

東 武(読者レポーター)

晴れた日は山に出没し雨の日には本を読む、そんな暮らしにあこがれる文系山男。文学サークル・ペンシルビバップを主宰している。山と文学と相模原市を愛してやまない。

この記事に登場する山

神奈川県 / 丹沢山塊

塔ノ岳 標高 1,491m

 表丹沢の中心に位置し、丹沢で最も人気のある山。秦野(はだの)市、山北町、清川村の境にある。昔は山頂一帯がうっそうとしたブナ林であったというが、今は全くその面影もない明るい山頂になっている。天気のよい休日ともなれば、多くの登山者が赤土と石ころの山頂で、車座になって休んだり昼食をとっているが、これなど塔ノ岳山頂の見慣れた風景である。  昔は山頂の北側に尊仏岩という高さ3丈、約9mほどの大岩があったと記録されている。そのためこの山は尊仏山とか孫仏山とも呼ばれた。山麓の人々は尊仏の大岩を「お塔」と呼んで信仰の対象とし、特に雨乞いの神としてあがめていた。そのためこの山を「お塔の山」と呼び、それが「塔ノ岳」になったという。その意味からすると、一般に使われている塔ヶ岳より、塔ノ岳が正しいことになる。  塔ノ岳のお祭りは毎年5月15日に行われ、近在の農民が登ってきては大いに賑わい、お塔の大岩の下の土を掘っては田畑にまいて豊作を祈願したという。このお塔の大岩は大正12年(1923)の関東大震災のときに、北西の大金沢に崩れ落ちてしまったという。  また祭りの日の山頂は賭場が開帳され、関東一円から親分、子分が登ってきたという。そしてこの賭場は、なんと第2次大戦後の昭和25年ごろまで続いていたというから驚きである。  山頂には尊仏岩にちなんだ尊仏山荘があり、通年営業している。山頂からの展望はすばらしく、丹沢山塊の全貌が眺められ、さらに富士山から南アルプスにかけての大展望、また相模湾と伊豆の島々など欲しいままの展望が得られる。  登山コースは各方面から整備されているが、その代表に大倉尾根経由のコースがある。小田急線渋沢駅からバス大倉下車で3時間で塔ノ岳に達するが、このコースはあまりにも多くの人に歩かれているため、赤土の登山道が崩れたり、深い堀割状になってしまい、そのため登山道全体が階段状に補修されている。なるべくなら塔ノ岳へは、大倉尾根以外のコースを利用することをお勧めしたい。  まず、表尾根は秦野駅からバスでヤビツ峠下車、三ノ塔を経て4時間で塔ノ岳。政治郎尾根は大倉から戸沢出合を経て表尾根の行者岳へ出る。大倉から行者岳まで3時間30分、行者岳から表尾根を経て塔ノ岳まで1時間20分、合計約5時間。訓練所尾根コースは大倉から四十八瀬川沿いの林道を歩き、二股の少し先の尾根を経てブナの美しい小丸へ約3時間30分、小丸から塔ノ岳へは40分で合計4時間強。このほかに玄倉からユーシンを経る静かなコースもある。

プロフィール

山と溪谷オンライン読者レポーター

全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。

山と溪谷オンライン読者レポート

山と溪谷オンライン読者による、全国各地の登山レポートや、登山道具レビュー。

編集部おすすめ記事