豪雪地帯に輝く宝石のような低山を訪ねて。4月に登るべき越後の残雪三山
冬の間は登山の対象になりにくい豪雪地帯・越後の低山だが、春になれば残雪をつないで登るハイグレード・ハイキングが楽しめる。40年以上にわたってこのエリアの低山を歩く打田鍈一さんが厳選した、4月に登るべき三低山を紹介しよう。
文・写真=打田鍈一 トップ写真=残雪とブナの新緑がまぶしい方丈山
雪解けに咲くカタクリに会いに行く 霧ヶ岳(きりがたけ)
上越市浦川原区/507m
霧ヶ岳を知ったのは『新潟日帰りファミリー登山』(新潟日報事業社)だ。日本百名山・霧ヶ峰の兄貴分のような山名ながら、標高は507m。日帰り温泉跡からゆあみコースを登り、小谷島(こやじま)コースを下って周回できる。初めて登ったのは前年の7月だが、暑さとクモの巣に閉口し、山頂のヤマユリだけが好印象ながら、夏はオフシーズンだと悟った。しかし豊かな樹相、やや緊張する急峻なヤセ尾根の登下降、山頂の大展望は、季節を変えて再訪したい。役場で毎年5月5日が山開きと聞き、カタクリがすごいそう。だが23年は全国的に開花が早く山開きでは遅すぎないかと、1カ月早めて妻と出掛けた。
4回目の霧ヶ岳だが、ゆあみ登山口の大駐車場はいつもながらガラ空きだ。けれど登山口からいきなりカタクリ、ショウジョウバカマ、アズマイチゲが現われたのにはびっくり。鉄塔を過ぎると傾斜が増して、固定ロープの急斜面には「胸突八丁」の道標が。ヤセ尾根の急登が和らぐとユキツバキが路傍を飾り「さえずり広場」で小休止。少し上で背後に尾神岳(おかみだけ)を望み、4株立ちのブナから登山道は尾根を西に外れる。これまでの尾根はそのまま山頂へ突き上げるのだが、このコースを開削した塩崎直二(しおざきなおじ)氏はコースに変化をつけるため、水場に下って隣の尾根を登り肩の峰に出るようにしたとのこと。霧ヶ岳山頂には薬師如来が祭られ、山麓からは小谷島コースの往復でお薬師様に登拝していた。しかしゆあみコースで周回可能となり、開削者への敬意で塩崎新道とも呼ばれている。
尾根を西に外れると沢へ斜めに下るのだが、路肩は雪でならされ不安定だ。とても滑りやすいが沢には残雪があるので、スリップしても大事にはならないだろう。西の尾根に出ると傾斜は緩み、「緑の回廊」を過ぎて肩の峰に登り着く。直江津方面の街と海を見渡せた。山頂へは東へわずかに下って登り返す。登山口で出会ったカタクリは時折大群落となって山頂を越えても続く。ひと月早めは大正解だった。
石の覆堂に薬師様が祭られる霧ヶ岳頂上は270度の大展望。米山(よねやま)、刈羽黒姫山(かりわくろひめさん)、越後三山、巻機山(まきはたやま)、信越トレイルのある関田山脈、妙高山(みょうこうさん)、火打山(ひうちやま)などが周囲を囲んでいた。
小谷島コースの下りは鞍部までロープが張られるヤセ尾根の急下降。しかし鞍部には大雪原が広がっていた。行く手に米山、尾神岳を眺め、かかとに体重を掛け、前かがみでザックザックと下る。爪先重心の通常の下り方と真逆だが、残雪期の醍醐味だ。雪解けの水場で小休止。杉林を抜けると用水池に出た。農道はフキノトウを摘みながら。車の激しい国道歩きで出発点に戻る。今日も一人も会わなかった。
初回で納得した直江津のホテルセンチュリーイカヤに泊り、吉祥亭で海の幸。霧ヶ岳はこのパターンが定着した。しかし吉祥亭の店主は霧ヶ岳を知らず、尾神岳なら地元で有名と。登る山がまた増えてしまった。
<2023年4月9日 山行時76歳>
MAP&DATA
プロフィール
打田鍈一(うちだ・えいいち)
1946年鎌倉市生まれ東京・中野育ち。埼玉県飯能市在住。低山専門山歩きライター。群馬県西上州で道なき薮岩山に開眼。越後の山へも足を延ばし、マイナーな低山の魅力を雑誌や書籍などで紹介している。『山と高原地図 西上州』(昭文社)を平成の30年間執筆。著書に『薮岩魂―ハイグレード・ハイキングの世界―』『続・薮岩魂 いつまでもハイグレード・ハイキング』『分県登山ガイド10 埼玉県の山』(いずれも山と溪谷社)、『晴れたら山へ』(実業之日本社)、『関越道の山88』(白山書房)のほか、『関東百名山』(山と溪谷社)など共著多数。
(プロフィール写真=曽根田 卓)
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標高こそ低くても、低山には多彩な魅力がある。四季折々の表情を見せてくれる低い山々をめぐるハイキングにでかけよう。
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