豪雪地帯に輝く宝石のような低山を訪ねて。4月に登るべき越後の残雪三山

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冬の間は登山の対象になりにくい豪雪地帯・越後の低山だが、春になれば残雪をつないで登るハイグレード・ハイキングが楽しめる。40年以上にわたってこのエリアの低山を歩く打田鍈一さんが厳選した、4月に登るべき三低山を紹介しよう。

文・写真=打田鍈一 トップ写真=残雪とブナの新緑がまぶしい方丈山

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小さくも魅力満載のトンガリ山 山伏山(やまぶしやま)

中越地方・津南町/903m

新潟と長野の県境を画す関田(せきた)山脈。その東端近くに主稜線から南へ突出する鋭鋒が山伏山だ。山伏が修行したことが山名由来といわれ、山頂には石仏や明治28年の石祠が祭られる。信濃川に足滝沢川(あしだきさわかわ)が流入する辺りでは、はるか谷奥にその三角錐が神々しい。山麓には薬師湖(やくしこ)を中心に山伏山森林公園が整備され、無印良品津南キャンプ場となっている。

山伏山は『新潟の里山』(新潟日報事業社)で知った。30年近く前の本だが、その後の地元ガイドブックでも見かけない。しかし短時間で登れるトンガリ山とは魅力的だ。キャンプ場は営業前だがもう雪はおおむね消えているだろうと、妻と孫娘のココとで向かった。

国道117号から「山伏山森林公園」の案内看板で上郷橋を渡り林道を登る。キャンプ場に近づくと、雪崩跡が林道へ押し出し車が通れない。スコップは持っていないが、雪塊はわずかなので、倒木をテコに足で雪を蹴り崩し、無事通過。薬師湖に登り着くと本での印象をはるかにしのぐ絶景が広がっていた。残雪に縁どられた薬師湖を前景に、小さいながら凛々しく立ち上がる山伏山。新緑とサクラもみごとだ。

デブリを崩して車を通した
デブリを崩して車を通した
薬師湖を前景に、山伏山は小さいながら堂々と立ち上がる
薬師湖を前景に、山伏山は小さいながら堂々と立ち上がる

駐車場のすぐ先が登山口で、はじめの急登がやわらぐと雪が現われ、妻と私はアイゼンを付ける。ココは鋲付長靴なのでそのままだ。登山道は雪の下だが読図と勘で雪原へ。

雪が現われゴキゲン
雪が現われゴキゲン
板状節理を見上げる所は休憩によい
板状節理を見上げる所は休憩によい

右にカーブすると陽当たりがよく、雪のない幅広い登山道が現われた。左へのヘアピンカーブで、柱状節理を横倒しにしたような板状節理を見上げて小休止。雪の重みで倒れた灌木を踏み越え、天水山(あまみずやま)を背後にすると傾斜はゆるむ。展望台に立ち寄るとキャンプ場を足元に、苗場山(なえばさん)から鳥甲山(とりかぶとやま)の大観がすばらしい。山頂はすぐ先だった。

展望台から苗場山(左)、鳥甲山(右)方面。足元にキャンプ場が広がる
展望台から苗場山(左)、鳥甲山(右)方面。足元にキャンプ場が広がる
石仏と大展望の山伏山頂上。いつも独占だ
石仏と大展望の山伏山頂上。いつも独占だ
山伏山頂上の大パノラマ
山伏山頂上の大パノラマ。右端の越後三山から左へ、毛猛山塊、浅草岳、守門岳などの白い山々が広がる
山頂にはイワウチワがそこら中に
山頂にはイワウチワがそこら中に

石仏が迎える山伏山頂上は樹林中ながら東に開け、越後三山や毛猛(けもう)山塊、浅草岳(あさくさだけ)、守門岳(すもんだけ)の大展望に目を見張る。一面イワウチワのすき間でゆっくり休み、帰りは風穴方面へ。西面は穏やかな雑木林だが、北面に変ると雪の大斜面。夏道を推測しつつ下ったが、ブナ林に入ると尻セードにうってつけの急傾斜が広がる。ビビる妻をロープでビレイするが、ココは「滑ってもいい?」。大斜面の下に夏道はあるので「いいよ」。動画のとおりとなった。

急な雪斜面は妻をビレイして。ココはすでに谷底へ
急な雪斜面は妻をビレイして。ココはすでに谷底へ
枝が跳ねないよう、滑落後もココは妻をガードした
枝が跳ねないよう、滑落後もココは妻をガードした

ブナの根開きに姿を消したココが気になるが、妻を放って駆け下るわけにもいかない。口の小さなケガで済んだが、長靴の中は雪がギッシリ。口を雪で洗い「冷たくて痛い」と騒ぐ氷漬けの足を長靴から引っ張り出し、予備の靴下に替えるとじき復活した。雪に埋もれた風穴はスルーし、雪の沢沿いに下るがココはビビり続ける妻のサポート役となる。フキノトウを摘み、JR津南駅の駅ナカ温泉で温まり、塩沢の回転寿司で、日帰りの山旅はめでたく完結した。

風穴は、世界遺産の荒船風穴と同じ養蚕卵保管施設
4月に雪に埋もれていた風穴は、世界遺産の荒船風穴と同じ養蚕卵保管施設。冷風が岩間から吹き出すが、崩壊危険で立入禁止。秋に撮影
信濃川近くの段丘上に「大地の芸術祭」の作品が。遠く山伏山が気高く、もしかして遥拝所だったかも。撮影は秋
信濃川近くの段丘上に「大地の芸術祭」の作品が。遠く山伏山が気高く、もしかして遥拝所だったかも。撮影は秋

山伏山はその後夏と秋に行き、4月にパスした風穴を見物。3回訪れたがいつも登山者は私たちだけ。ブナの美しい登山道は歩きやすく整備され、短時間で展望よく、登山口のキャンプ場はにぎわっているのにと、不思議感の残るもったいないほどよい山であった。

<2023年4月23日 山行時76歳>

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム:約2時間30分
行程:無印良品津南キャンプ場9:50→10:25板状節理10:29→10:55山伏山11:45→13:15キャンプ場(全行動3時間25分)
アクセス:関越自動車道湯沢ICから国道353号、国道117号、県道539号経由で約1時間20分。無印良品津南キャンプ場は、登山口手前の広い路肩などに駐車できる。
注意:風穴は世界遺産の荒船風穴と同様に養蚕卵保管施設で、夏には冷風が岩間から吹き出すが、崩壊の危険があり立入禁止。上から見物するだけだ。
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プロフィール

打田鍈一(うちだ・えいいち)

1946年鎌倉市生まれ東京・中野育ち。埼玉県飯能市在住。低山専門山歩きライター。群馬県西上州で道なき薮岩山に開眼。越後の山へも足を延ばし、マイナーな低山の魅力を雑誌や書籍などで紹介している。『山と高原地図 西上州』(昭文社)を平成の30年間執筆。著書に『薮岩魂―ハイグレード・ハイキングの世界―』『続・薮岩魂 いつまでもハイグレード・ハイキング』『分県登山ガイド10 埼玉県の山』(いずれも山と溪谷社)、『晴れたら山へ』(実業之日本社)、『関越道の山88』(白山書房)のほか、『関東百名山』(山と溪谷社)など共著多数。
(プロフィール写真=曽根田 卓)

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