初夏の琵琶湖の山を旅する。近江・金勝アルプスと湖上の有人島、沖島ハイキング

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イラストレーターで登山ガイドの橋尾歌子さんが、初夏の金勝(こんぜ)アルプスにプチ遠征。琵琶湖を見下ろすご当地アルプスを縦走し、その足で琵琶湖最大の島・沖島(おきしま)に渡航した。琵琶湖の島暮らしをちょっと拝見しつつ、もちろん島の山にも登って離島気分を満喫。初夏の低山を巡る旅のルポ。

写真・文=橋尾歌子

関東から人気のご当地アルプスへプチ遠征!

「テレビで放映されていた金勝アルプスに登ってみたい」とお客さまからのリクエスト。金勝アルプスは琵琶湖西南、滋賀県大津市と栗東市の間にある小さな山塊で、鶏冠山(とさかやま、491m)、竜王山(りゅうおうざん、605m)などの山々の総称。日帰りでハイキングを楽しむことができる。徒渉や奇岩の上り下り、史跡などがぎゅっと詰まった場所だという。関東に住む私たちが遠征するのであれば、もうひとつなにか楽しみたいと考え、前から気になっていた琵琶湖の中にある沖島(おきしま)のハイキングとセットで向かう計画にした。沖島は琵琶湖最大の島で、日本で唯一の人が暮らす淡水湖の島。島の中にケンケン山(けんけんやま、178m)から尾山(おやま、220m)を歩くハイキングコースがある。沖島唯一の民宿、湖上荘を営むゆかりさんに尋ねると「ケンケン山いいですよ。琵琶湖の中から琵琶湖を見ることができますよ」と言われた。

金勝アルプスにはいくつかのルートがあるが、今回は大津市桐生(きりゅう)の一丈野(いちじょうや)駐車場から落ヶ滝(おちがたき)線を歩き、鶏冠山に寄ってから稜線散歩するコースを歩いた。季節は2024年4月の大型連休前半、一緒に歩いたのは、言い出しっぺの“みこママ”、私と同い年の“かがびー”、それと唯一関西から“薮ちゃん”。山登りも岩登りも大好きな3人だ。

広い駐車場でハイキングマップをもらい、沢沿いの登山道を進む。駐車場にも登山道にも人がいっぱいでびっくり。徒渉を繰り返して30分ほどで分岐に到着し、3段18mの落ヶ滝に寄り道をした。水量は少ないが、花崗岩の岩肌を流れる美しい滝だ。滝を見た後は分岐に戻り、滝の右岸を高巻くように岩尾根を登っていく。

落ヶ滝
落差18mの落ヶ滝。登山道は左から巻きながら登り、ちょうど滝の落ち口に出る

滝の落ち口から緩やかなナメを遡りながら登っていく。流れを外れてロープのついた一枚岩のスラブを上り切ったところで尾根に出た。

尾根の分岐から北側の鶏冠山を往復。やや急な登山道で、北側の登山道から登ってきたグループに会った。鶏冠山の山頂は展望がなく、三等三角点が置かれていた。分岐に戻り尾根を南に向かうと、次第に展望が開けてきた。尾根上はところどころで花崗岩の岩場があって、その岩場を登ったりくぐったりと、まるで障害物競争のよう。尾根の先にそびえる天狗岩がだんだんと近づいてきた。

尾根上に点在する奇岩
尾根上のあちらこちらに奇岩が点在。遊びながら登っていく
天狗岩遠景
だんだん近付いてくる天狗岩

天狗岩の下はちょっとした広場になっていて、ちょうどお昼時間とあって、ベンチに座ってお昼ごはんを食べる登山者でにぎわっていた。ベンチがいっぱいなので、先に天狗岩を探検することにした。

天狗岩
天狗岩を探検。ロープがついている所もある

天狗岩はけっこうな傾斜の登り降りやチムニークラック(!)なんかがあるが、ロープが付けられ、クライミング未経験者でも登ることができる(とあるが、実は見ているのが怖かった)。岩場のてっぺんからは、琵琶湖湖南の端とその向こうに比叡山(ひえいざん)、さらに右手に比良(ひら)山脈が広がり、奥に京都北山の山々がかすんでいる。登山口方向にこんもりとした森が広がっていて、そのあちらこちらに丸い岩場が点在している。ポポッポポッとツツドリの鳴く声が聞こえてきた。

岩場から降りるとベンチが空いていたので、お昼ごはんを食べ、午後の部のスタート。耳岩を過ぎたころ、団体さんとすれ違った。どうやら地元のボランティアの方々の案内ツアーがあるようだ。振り返ると先ほど登った天狗岩の向こうに鶏冠山が……。もうあんなに遠くなったのか。花崗岩の砂礫の登山道はざらざらと滑りやすく、階段のついたところを登り切ると白石峰(しらいしみね)。そこから左に折れ、茶沸観音(ちゃわかしかんのん)を過ぎると竜王山の山頂だ。山頂には麓の金勝寺八大竜王(こんしょうじはちだいりゅうおう)の小さな祠と、四等三角点が置かれていて、琵琶湖の湖畔と近江富士が見えるように枝が剪定されていた。

竜王山山頂
竜王山山頂。金勝寺、八大龍王の祠があり、山頂から琵琶湖湖畔と近江富士が見られる

下山は磨崖仏を見ながら。その足で沖島へ

白石峰まで戻り、狛坂(こまさか)線を下る。下り初めてすぐに2つの岩が重なった重岩(かさねいわ)、次いで国見岩(くにみいわ)がある。重岩には風化し薄くなった阿弥陀如来像が刻まれていた。

重岩
重岩。うっすらと阿弥陀如来像が見える

樹林帯の中を下っていると、みこママが「なんかさ、視線を感じない?」……どうやら登山道まわりをびっしりと覆うシダがその正体。シダの若芽は測ったように同じ方向を向き、律儀な兵士たちのようだった。

シダ群生
じっと同じ方向を見つめるシダたち

やがて樹林の中に狛坂磨崖仏が現われる。巨石の中に如来座坐像、その両脇に菩薩立像などが配されている。周囲にもたくさんの石仏。奈良時代のものとも言われるこの磨崖仏たちは、金勝寺が女人禁制であった時代にあった狛坂寺の跡だ。

狛坂磨崖仏
狛坂磨崖仏。この他にもたくさんの石仏が点在していた

第二名神道路のトンネルをくぐると林道となり、「逆さ観音」、「オランダ堰堤」と進んだ。明治時代に造られたオランダ堰堤のそばはキャンプ場になっているらしく、水遊びをする子どもたちやバーベキューを楽しむ家族でにぎわっていた。それにしてもこの日は夏のように暑かった。私たちもここでじゃぶじゃぶ水に入って遊びたいもんだ……。このオランダ堰堤を造る際に足りなくなった石材を削ったところ、バランスを崩した石仏が逆さまに転がったのが「逆さ観音」だそうだ。

オランダ堰堤と逆さ観音
オランダ堰堤と逆さ観音。みごとな転がりっぷり!

駐車場に戻り、やれやれとゆっくりしたいところだが、この日の宿は沖島の中。船に乗るために近江八幡市の堀切港へ急いだ。

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 5時間24分
行程:上桐生・・・鶏冠山分岐・・・落ヶ滝・・・北峰縦走線出合・・・鶏冠山・・・北峰縦走線出合・・・天狗岩・・・耳岩・・・白石峰・・・竜王山・・・白石峰・・・狛坂磨崖仏・・・桐生辻分岐・・・水晶谷出合・・・逆さ観音・・・上桐生
総歩行距離:約11,200m
累積標高差:上り 約763m 下り 約763m
コース定数:21
アクセス:公共交通 JR琵琶湖線草津駅(帝産湖南交通バス「上桐生」行き、約30分、1時間に1本程度運行)上桐生
マイカー 新名神高速道路、草津田上ICから約15分、一丈野駐車場に駐車。7月下旬〜10月末とその他の時期の土日祝は森林環境整備推進協力金を支払う。普通車、軽自動車500円。カーナビは「特別養護老人ホーム桐生園」にセットするとよい。
金勝アルプス(近江湖南アルプス)ハイキングマップ
金勝アルプス(近江湖南アルプス)ハイキングマップは、大津市桐生の一丈野駐車場などに置いてある
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この記事に登場する山

滋賀県 / 金勝山地

竜王山 標高 605m

草津川上流に位置する花崗岩質の山。北に位置する鶏冠山などとと合わせて金勝アルプス(こんぜあるぷす)と呼ばれる。 周辺山域は、その名の通り標高以上に登りごたえがあり、折り重なっている鋭い岩峰はアルプスらしい景観となっている。 奈良時代に開かれた寺院や磨崖仏などが山中に点在しており、史跡を巡るのも楽しい。

滋賀県 / 金勝山地

鶏冠山 標高 490m

滋賀県草津市にある山で、草津川上流に位置する花崗岩質の山。南側にある竜王山などと合わせて金勝アルプス(こんぜあるぷす)と呼ばれる。 鶏冠山の山頂は、その名の通りトサカのような小ピークが重なっていて、スリルある急登が待っている。 登山の際には、オランダ堰提や逆さ観音、落ヶ滝などの史跡も訪れたい。

プロフィール

橋尾歌子

イラストレーター、登山ガイド。多摩美術大学大学院修了。(有)アルパインガイド長谷川事務所勤務、(社)日本アルパイン・ガイド協会勤務を経てフリーに。2004年、パチュンハム(6529m)・ギャンゾンカン(6123m)連続初登頂。(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅢ。UIMLA国際登山リーダー。バーバリアンクラブ所属。

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