西日本最高峰の景色と岩登りを楽しむ石鎚山

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読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは石鎚山(いしづちさん、1982m)へ。

文・写真=こう


西日本最高峰の石鎚山。雑誌やSNSでよく見かけるのは石鎚山の3つのピークの内の弥山(みせん)から見る天狗岳(てんぐだけ)の姿が多く、ほかにどんな景色を秘めているのだろうかと、かねてから興味を抱いていた。

また、古くから修験の山として歩かれている石鎚山には、ほぼ垂直に近い岩壁に長い鎖が架けられた、スリリングな鎖場が存在する。己の力でよじ登り、その先に待つ達成感と絶景を味わいたいと思い、石鎚山に挑戦することにした。

定番ルートのひとつである成就社(じょうじゅしゃ)ルートの登山口に向かうため、まずは石鎚山ロープウェイに乗って、一気に標高を上げた。この日は祝日だったが、そこまで混雑しておらず、快適な空中散歩を楽しむことができた。

ロープウェイを降り、はじめにめざすのが石鎚神社成就社だ。木立に囲まれた道には日差しがよく入って明るかったが、そのぶん風もよく吹き込み、涼しいを通り越して肌寒く感じる気温だった。

石鎚神社付近まで行くと、大きな鳥居が出迎えてくれた。その奥には建物が並んでおり、街のような雰囲気となっていた。鳥居をくぐり、石鎚神社にご挨拶して、石鎚山へと向かう門の手前で登山届を提出した。ここから本格的な登山となる。

石鎚神社の大きな鳥居
石鎚神社には大きな鳥居があった

登山開始早々いきなり長い下りとなり、どこまで下ることになるのだろうかと不安になった。次第に傾斜がゆるやかになり、平らになったのも束の間、階段が現われて、そこから登りが始まる。段差は低かったが段数が多いところや急なところがあり、それなりに体力を消耗した。

登山道を彩るアケボノツツジ
アケボノツツジが登山道を彩る

しばらく進んだところで分岐が現われた。大きな岩に「試しの鎖」と書いてあり、見るからに重量感のある長い鎖があった。かなりの急登なので、巻道を進むより時短になるだろうと踏んだが、名前のとおり鎖場を登れるか試すだけの場所だったようで、岩の上部から景色を楽しんだ後は、別の鎖から元の道に下ることになる。

今回のルート後半に待ち受ける鎖場は、下りで怖くなっても巻道を使い下ることができるが、こちらは登ってしまったら鎖場を下るしかなくなるため、鎖に挑戦したいが不安があるという人には、比較的短く巻道もある一の鎖がよいと思われる。

試しの鎖の下り
試しの鎖の下り

試しの鎖を下ったところに休憩所があり、休む人が多いようだった。そこから再び急な登りとなるが、ほどなくして道はなだらかになり、夜明(よあかし)峠に至る。見上げると、目の前には巨大な絶壁が立ちはだかっており、稜線上の盛り上がった2箇所が弥山、天狗岳というのはわかったが、どこから登ればそれらの頂にたどり着くのか判然としなかった。しばらく目を凝らして眺めていると、右側のピークの直下に木が切り開かれて一直線になっている箇所を見つけ、そこが三の鎖なのだと知り、あまりの長さに驚きを隠せなかった。

夜明峠から見る石鎚山
夜明峠から見る石鎚山

岩壁が近づくにつれてその迫力は増す。先ほどより鮮明に鎖場の状況が見えるためか、楽しみという感情の隙間にじわじわと緊張感が広がっていくのがわかった。土小屋(つちごや)ルートと合流したところからすぐ近くに小屋があるので、休憩しつつ装備を整えた。

二の鎖元小屋
二の鎖元小屋
二の鎖元小屋から歩いてきた道と瀬戸内海
二の鎖元小屋から歩いてきた道と瀬戸内海を一望

小屋から少し登ったところに二の鎖、その先に三の鎖が現われる。前述したとおり、巻き道があるので岩登りが苦手な人はそちらから登るとよい。

岩壁には鎖が2本垂らされており、下から見て左側が上り専用、右側が下り専用となる。通常の鎖と違って重くて太いため、複数人が同時に登っても前後の人に影響は少なかったが、あまりに近すぎると揺れるため、ゆとりを持った距離感で登るように注意したい。等間隔で付けられた三角形の足場は、足の置きどころがないつるっとした岩場において非常に助けられた。

三角形の鎖
三角形の鎖は、足の置き場として非常に役立った
三の鎖の巻道
三の鎖の巻道
三の鎖
三の鎖を見下ろす

三の鎖を登り切ると、達成感と同時に、石鎚山を象徴する景色が現われる。鋭く尖り、片側が断崖絶壁となっている天狗岳は迫力満点だ。

瓶ヶ森(かめがもり)や伊予富士(いよふじ)、笹ヶ峰(ささがみね)、堂ヶ森(どうがもり)などの山々も見渡すことができ、石鎚山脈の広大さを知ることができた。

弥山から見た天狗岳
弥山から見た天狗岳
石鎚山脈の山々
瓶ヶ森など石鎚山脈の山々
堂ヶ森へと延びる稜線
堂ヶ森へと延びる稜線

弥山の山頂で満足することなく、天狗岳をめざす。歩き出してすぐに鎖場があるため、備え付けられた鎖をつかみ、慎重に進んだ。その後、鎖場やロープ場はないが、切り立った断崖絶壁の稜線を歩くので、バランスを崩さぬよう注意しながら進んだ。

天狗岳
天狗岳をめざす
左側は崖になっている天狗岳山頂への登山道
左側は崖なので転落しないように注意する

天狗岳山頂で記念撮影をした後は、その先にある南尖峰まで足を延ばしてから、弥山山頂へと戻った。

石鎚山からの下山は鎖場を使わずに、巻き道を使って下った。巻き道にある階段は下りやすいが、谷側に手すりがついていないため、転落しないように注意が必要だ。

石鎚神社直前の八丁坂は、終盤にはつらい登り返しとなるが、そこを過ぎればロープウェイ乗り場まで下るのみとなる。ロープウェイに乗車し、窓から見える景色を楽しんでいると、あっという間に山麓駅へと着いた。

スリリングな鎖場で己の力試しをして達成感を味わい、西日本最高峰からの雄大な景色を楽しめる、すばらしい山だった。

天狗岳から石鎚山までの道
天狗岳から石鎚山までの道

(山行日程=2025年4月29日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 5時間34分
行程:山頂成就駅・・・石鎚神社成就社・・・八丁鞍部・・・休憩所・・・夜明峠・・・二ノ鎖・・・石鎚神社・・・天狗岳・・・石鎚神社・・・二ノ鎖・・・夜明峠・・・休憩所・・・八丁鞍部・・・石鎚神社成就社・・・山頂成就駅
総歩行距離:約8,600m
累積標高差:上り 約1,098m 下り 約1,098m
コース定数:24
アドバイス:ロープウェイ山麓下谷駅付近に有料駐車場あり。普通車は1日500円。550台程度駐車可能。伊予西条駅からロープウェイまでバスあり(片道1,020円)。
こう(読者レポーター)

こう(読者レポーター)

山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。

この記事に登場する山

愛媛県 / 四国山地西部(石鎚山地)

石鎚山 標高 1,982m

 愛媛・高知県境を東西に連なる石鎚山脈の主峰で、徳島県の剣山とともに四国を代表する山である。愛媛県西条市と久万高原町の境界に位置する。  山頂は細長い岩稜で中央部に石鎚神社頂上社のある弥山(みせん、1974m)、南寄りに西日本最高峰天狗岳が天にそびえる。周囲は目もくらむような断崖絶壁で、安山岩の柱状節理がほぼ垂直に立つ。三角点は弥山北西の標高1921mの地点にある。  石鎚山は見る方向によって山容がさまざまに変化する。南の石鎚スカイラインからは、先端のとがったピラミッド型、西の面河方面からは、ギザギザの岩峰がそそり立ち、東の瓶ガ森付近からは、どっしりとした重厚な姿を見せる。  山頂の岩峰の形が山名の由来とされるが、石之霊(いしづち)(ツは「之」の意、チは霊力をもつ神や物を意味する古代語)という説もある。また、『古事記』には石土毘古命(いわづちひこのみこと)、『日本霊異記』には「石槌」などの名が記され、万葉の歌人山部赤人が「伊豫の高嶺」と詠んでいる。日本七霊山の1つに数えられる石鎚山は、石土毘古命を神とし、古くから御神体山として崇拝されてきた。奈良時代、役小角が開山して蔵王権現を祭ったと伝えられ、以後修験道場として栄え、青年期の空海も修行している。平安期には熊野修験の影響を受け、近世に入って一般庶民の登拝が盛んになり、このころに岩場に鎖がかけられた。明治維新の神仏分離令により石鎚山は権現号を廃止し、神社となった。頂上社、成就社、土小屋遥拝殿、山麓の本社の4社を総称して石鎚神社と呼ぶ。  毎年7月1日~10日までがお山開き大祭で、智仁勇を象徴する3体の御神像が頂上に安置され、各地の信者をはじめ、一般の登山者数万人で賑わう。頂上では、白装束の信者が御神像を体にこすりつけて無病息災を祈願する。  石鎚山の植物は暖帯から亜高山帯まで分布し、土小屋付近のウラジロモミ、山頂付近のシコクシラベなどの純林は見事である。また、ハクサンシャクナゲ、ミヤマダイコンソウなどの貴重な高山植物も見られる。  西条側の登山道を表参道、面河側を裏参道という。西条側にロープウェイ、面河側にスカイラインが開通してからは、西之川下谷と土小屋が新登山口となった。ルート上の岩場には一ノ鎖、二ノ鎖、三ノ鎖などの鎖がかかっており、巻き道もある。表参道はロープウェイ終点から成就社を経て山頂まで3時間30分。土小屋から山頂は2時間。  山頂からは360度のパノラマが展開し、瀬戸内海や太平洋から、はるか九州の阿蘇山、中国山地の大山までも望める。

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