八ヶ岳連峰阿弥陀岳で発生した滑落遭難、救ったのは登山計画書だった ~長野県・山岳遭難の現場から
2024年4月17日、八ヶ岳連峰阿弥陀岳で発生した単独登山中の滑落事故は、最悪の結末を回避するための貴重な教訓を提示している。特に、単独での山行を志す登山者にとって、この事案は深く考察すべき事例といえるだろう。
登山計画書がつないだ命
今回の事例は、冬でも岩肌がむき出しの八ヶ岳の稜線で約100m滑落しながらも、雪のおかげで致命的な負傷を免れたという「運」に助けられた側面が大きい事案とも言えますが、携帯電話を紛失し、連絡手段を失ったAさんの窮地を救ったのは、出発前に家族に残した計画書だったと言えるでしょう。
前日の夜に残された計画書に基づいた家族からの具体的な通報がなければ、翌早朝のヘリ捜索や地上部隊の投入はできませんでした。そうなればAさんの発見は遅れ、南沢で一人動けないままさらに深刻な状態に陥っていたかもしれません。
スマートフォンの地図アプリ、登山者用発信器、衛星通信を利用した小型GPS通信機器など、近年の通信技術の進歩に伴って登山中の現在地を知らせる機器やシステムは急速に発達し、普及しています。実際の遭難救助活動においても、それらが有効に活用され、早期発見、救助に繋がった事例も多数あるのも事実です。
しかし、そのような機器やシステムも今回の事例のように滑落によってスマートフォンを紛失すれば、まったく効果を発揮しません。機器の故障やシステムトラブル、バッテリーの消耗などのリスクもゼロとは言い切れません。
Aさんは日頃から登山に行くときは紙媒体の登山計画書を家族に託し、登山口のポストに投函して入山したそうですが、昨今はインターネットで手軽に提出できるようになっています。専用のポストが設置されていない登山口もあるため、長野県ではインターネットで提出し、印字したものを家族や友人に託すといった活用方法を推奨しています。
登山のリスクに向き合う
この春、長野県内では単独で入山したまま行方不明となる事案が相次いで発生しています。捜索の結果、遺体となって発見されたケースもあれば、入山から数日、場合によっては数週間後に届出がなされ、有効な手掛かりに乏しくいまだに発見されないケースもあります。メディアやSNSで喧伝される山の美しい景色やすばらしい体験の裏側には、そのような厳しい現実があることをどうか忘れないでください。
また、そのような「最悪の事態」がご自身にも降りかかる可能性があることをどうか忘れずに、登山計画書の提出、共有、地図アプリの活用などできる対策を万全にして、登山を楽しんでいただきたいと思います。
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