八ヶ岳連峰阿弥陀岳で発生した滑落遭難、救ったのは登山計画書だった ~長野県・山岳遭難の現場から
2024年4月17日、八ヶ岳連峰阿弥陀岳で発生した単独登山中の滑落事故は、最悪の結末を回避するための貴重な教訓を提示している。特に、単独での山行を志す登山者にとって、この事案は深く考察すべき事例といえるだろう。
計画書を頼りに捜索開始
Aさんが自力での下山を試みている中、Aさんの家族は日帰りで下山するはずのAさんから夜になっても連絡がなく、家族からの電話にも一向に応答がないことから、Aさんの身になにかあったのではないかと判断。Aさんが家を出発する前に自宅に置いていった計画書を頼りに、21時55分に八ヶ岳を管轄する茅野警察署に通報しました。
計画書によれば、4時に自宅を出発、6時に赤岳山荘駐車場出発、行者小屋、赤岳、地蔵の頭、行者小屋を経て、16時に下山予定となっていました。通報を受けて茅野警察署が確認したところ、赤岳山荘駐車上にAさんの車が駐車されていることが判明しました。
茅野警察署ではAさんがなんらかのアクシデントに遭遇し、下山できなくなっている可能性が高いと判断しました。翌日の天候が下り坂であったことから、警察本部と協議し、翌早朝からヘリによる捜索と地上部隊による捜索を同時進行で行なうこととしました。
雪上に残されたトレースと血痕
翌朝6時20分に県警ヘリ「やまびこ1号」が松本空港を離陸、6時32分に現場上空に到着して捜索を開始しました。捜索を始めて間もなくして阿弥陀岳山頂南側の雪の斜面上に滑落痕を発見、同時に滑落痕の下部からコルへ向けて登り返すトレースと所々に残された血痕が確認されました。
トレースと血痕を追跡すると中岳を経て文三郎道へと続き、やがて樹林帯に隠れてしまいました。「やまびこ1号」は燃料の残量が少なくなったことから捜索を切り上げ現場を離脱しましたが、「トレースと血痕を発見」との情報は、時を同じくして付近を行動中の地上部隊にも共有されました。
地上部隊が行者小屋付近を検索すると、小屋の付近にも血痕が確認され、南沢を美濃戸口方面に向かうトレースも確認されました。トレースは蛇行を繰り返し、時折膝をついているような痕跡が見受けられました。
地上部隊はトレースと血痕を追跡し、7時55分に登山ルートから外れた雪上に座り込んでいるAさんを発見しました。発見時のAさんは全身が濡れており、負傷した左足はズボンが裂け、大きく裂けた傷口からは血がにじみ出ている状態でした。救助隊員に対する応答も曖昧で、一見して危険な状態にあることは明らかでした。
後日、Aさんにこの時の状況について聞いたところ、「寒くて体の震えが止まらなかった。意識はあり、なんか言っているのはわかったが、具体的な発語ができなかった」と振り返るように、長時間行動の末、着の身着のままでオープンビバークをしたことで深刻な低体温症に陥っていたことが推測されます。
隊員らは直ちに負傷部位の止血などの応急処置を行うとともに、折りたたみ式の水筒を使った応急的な湯たんぽでAさんを加温し、お湯を飲ませるなどして回復に努めました。しばらくすると徐々に受け答えもできるようになり、ほどなくして発見の知らせを受けて再度フライトした「やまびこ1号」が上空に到着。8時52分、Aさんを収容し、松本市内の病院に搬送して救助活動が終了しました。
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