山小屋に泊まりたい! 泊まる前に知っておくべきこと・やるべきこと。山岳ガイドに教わる“登山 はじめの一歩”(4)

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山小屋について知りたい

質問:この夏、友人に誘われて北アルプスの槍ケ岳に登ります。槍ケ岳の場合、どうしても山小屋で最低一泊、普通は二泊すると言われました。実は山小屋泊まりの登山は初めてで、どんな所に泊まるのか、登山以上に心配になってしまいます。ズバリ、山小屋って、どんな所ですか?

 

山小屋は形態もルールもさまざま。事前の情報収集を

山小屋とひとくちに言っても、全国各地にはさまざまなタイプの山小屋が存在します。ホテル並みのサービスを提供する場所がある一方で、厳しい立地条件に立つケースがほとんどなので、受けられるサービスは限られています。電気・ガスはもちろん、水も十分に提供されないケースも珍しくありません。

以上のような条件を理解したうえで、山小屋を大いに活用して登山を楽しんでください。

 

Q1 山小屋の規模は? 雪の季節でもやっていますか?

山小屋には5人くらい入れば一杯になってしまう避難小屋から、1000人が宿泊できる白馬岳頂上付近の山荘のような場所まで、規模はさまざまです。

また、丹沢や奥秩父の雲取山、大菩薩嶺や北八ヶ岳周辺、西穂高などのように通年で営業している山小屋がある一方で、多くの山小屋は期間営業となっています。だいたいゴールデンウィーク前後から小屋開けして、本格的な降雪のある11月前後には閉める場合が多いです。

また、規模の小さい山小屋では、「予約があったら入山する」山小屋もあります。利用を予定している場合、営業期間は実際に山小屋に問い合わせて確認したほうがいいでしょう。

日本最大規模の山小屋“白馬山荘”。
3つの宿泊棟と本格的なレストランや売店の入った棟がある。収容人数は、800人程

白馬山荘の夕食。標高2,832mでの食事とは思えないほど豪華だ

Q2 お風呂に入れますか?

温泉の湧く場所の近くで営業してる山小屋や、豊富な水源の横にある山小屋では、入浴が可能な場合もありますが、これは、極めて珍しい例外と考えてください。

お風呂どころか、食事に関する水でも天水(雨水)に頼っている小屋も数多く存在します。天水でなくてもポンプを使って谷から水を汲み上げている小屋もあります。

そんな山小屋では、飲み水も有料で購入するようになっていて、当然、流れる水で顔を洗うこともできません。都会では蛇口をひねれば出てくる水ですが、山では限りある大切な物です。少しでも清潔・快適にしたい場合は、ウエットティッシュを使うなど、工夫が必要になります。

 

Q3 布団はありますか? 食事は出ますか?

かつては山小屋泊まりでも「シュラフ(寝袋)持参」「食事は自炊」が当たり前でしたが、現在では――特に質問の槍ヶ岳周辺では、宿泊者は山小屋が準備した布団で寝て、夕食・朝食は、小屋で食べる場合がほとんどです。頼めばお昼のお弁当も作ってくれます。

かつては、どこの山小屋でも判で押したように、夕食は連日カレーだったものですが、現在の山小屋では多くが、なかなか豪華な食事です。ご飯や味噌汁は「お代わり自由」な場所も多いです。

寝具については、山小屋によって様々なタイプがあります。通常の敷布団と毛布・掛布団という組み合わせのところもあれば、封筒型のシュラフ(寝袋)を人数に合わせて置いている場合もあります。

かつては、十分に乾燥していない布団で不愉快な思いをした経験を持つ方もいるようですが、現在では寝具の質も管理も相当に良くなっていると思います。

尾瀬国立公園 会津駒ケ岳にある「駒の小屋」。素泊まりのみだが、暖かい蒲団が用意されている

Q4 山小屋は予約する必要はありますか?

かつては山小屋の多くが予約の必要はありませんでしたが、今では予約がないと泊まれない山小屋がほとんどです。小規模の小屋では、予約があった場合のみに小屋番が入るところもあります。

また一時期の過剰な「詰め込み」への厳しい批判などから、収容人数で予約を打ち切り、それ以上は「お断り」の場合も見られます。そんな事情から予約は必ず行う必要があります。

予約は単に必要だから・・・というだけではありません。予約の際には、自分の予定しているコースの状況(残雪の有無など)、注意点、見どころ、花の開花状況などを、併せて尋ねる習慣をつけたいです。

また、天候や体調で山行が中止になったり延期になったりした際には、必ず連絡する必要があります。来る予定の登山者が来なかった場合、遭難の可能性が疑われるためです。

 

Q5 山小屋で眠れない場合がよくあります。どうしたらいいの?

環境が変わり下界とは空気の濃度も違うので、山小屋で自宅の布団と同様にグッスリ眠れるのは、むしろ少数派です。

睡眠は神経や脳の休息にとっては不可欠ですが、身体自体はきちんと食事をして水分を摂って、横になって一定時間過ごすだけで休息の効果があります。まずは「十分に眠れない」ことをあまり気にしないことが大切です。

実際には「全く一睡もできない」場合は、ほとんどありません。ウトウトしていた時間や夢を見ていた時間が必ずあるはずです。慣れないうちは、それで十分と考えましょう。

「眠れないから」という理由で睡眠剤を利用する人もいますが、普段から使用しているなら別ですが、あまり使った事もない薬を山で使用するのは勧められません。「どうしても」と言う場合は医師に相談してから使用してください。

また、布団の匂いが気になるという場合は、襟元に日本手ぬぐいをかけたり、枕に枕カバーをかけたりなどを試すことで十分な効果がある場合もあります。

★関連リンク:山で安眠する方法をいろいろ考えてみた

 

Q6 混雑した山小屋で布団一枚に三人で寝かされて以降、山小屋を使っていません。混雑を避けるには?

予約の段階で混雑状況を具体的に聞いておきましょう。本当に確実に混むことがわかっていたら、予定を変えてみるのも1つの方法です。

例えば同じ山域でも、山頂に近いほうが混雑、食事に定評があるほうが混雑、日の出がキレイなどの評判のある小屋が混雑、というケースもあります。少し条件の悪い小屋では、ガラガラなんてこともあります。

また、「紅葉期に見事な紅葉で有名な場所にある小屋に行く」ケースや、「2泊以上しなければ行けない場所にある山小屋に三連休の時に行く」などの際は、混むのは当然です。混雑期を避ける工夫も必要となります。

★関連リンク:山のデータブック・山の宿泊施設 [営業小屋385件、無人小屋259件を掲載中]

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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