鳥海山南麓・ブナの若葉に覆われた鳳来山を訪ね、山麓の湿原で憩う

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東北の名峰・鳥海山(ちょうかいざん、ちょうかいさん、2236m)。南麓には鳥海高原ラインが、湯ノ台(ゆのだい)コースの滝ノ小屋登山口へと延びています。一方、鳥海高原ラインとは別に、鳳来山(ほうらいさん、858m)を経由して滝ノ小屋登山口に至る、忘れられたような静かな山道もあります。ブナ林に包まれた道を歩けば、思いがけない出会いが待っていることでしょう。

写真・文=斎藤政広 トップ写真=心字池からの鳳来山

豊かなブナの森

今回は湯ノ台コースの最下部、開拓登山口から鳳来山を登るコースを紹介しましょう。開拓登山口は、家族旅行村の下方、猛禽類保護センター・イヌワシみらい館の近くにあります。アクセスは、マイカーかタクシーとなります。登山口から入り、湯ノ沢にかかる丸太橋を渡っていきます。丸太橋が滑りやすく不安を感じるようであれば、数メートル下流にある橋を渡って登山道に入ることもできます。

丸太橋を渡る箇所
丸太橋を渡る箇所

しばらく歩き、山の斜面につけられた勾配のある山道へと入って行きます。ミズナラやホオノキが目につく稜線に出てやや緩い山道を登っていくと、目印となるダケカンバが現われ、ブナの大木が周囲に見られるようになります。

ブナの大木
ブナの大木

炭焼き窯跡を過ぎ、すぐ先にある南高(なんこう)ヒュッテの水場にもなっている小さな沢を渡ります。南高ヒュッテを過ぎて旧道と交わる分岐を経れば、湯ノ台道となります。気持ちのよいブナ林の道で、このときには羽化したばかりらしいヒグラシが、下草の葉にとまっていました。

気持ちのよいブナ林の道
気持ちのよいブナ林の道

分岐に出て、トラバース道を離れて山頂への道に入ります。ゴロゴロした岩が所々に現われ、まもなくで三角点のある山頂です。展望は東方向に出羽の山並みが望めます。山頂を後にして下るとまもなく横堂(よこどう)で、ここで少しゆったりと休憩を入れます。

横堂からの下り道はやや急なので、ゆっくりと高度を下げていきましょう。沢にかかる橋を渡ると、沢追分に出ます。さらに進んで家族旅行村上部にある心字池(しんじいけ)へ。周辺に広がる湿原散策の時間を楽しみ、山道か車道を使って開拓登山口まで戻ります。

湿地の植物、昆虫などが観察できる心字池
湿地の植物、昆虫などが観察できる心字池

ブナの森と湿原探索の後は、開拓登山口の近くにある猛禽類保護センター・イヌワシみらい館に立ち寄って有意義な一日を締めくくります。鳥海山に棲息する猛禽類が展示されており、猛禽類の生態や自然環境について学びが深められることでしょう。

(山行日程=2018年6月15日)

山歩きで出会えた花や昆虫たち

ブナの森から湿原へとたどるこのコースでは、花や植物、昆虫など、たくさんの小さな生き物たちに出会えました。新緑が美しいこの時期、ゆっくりと流れる時間に身を任せて自然に触れ、生きものたちを見つめてみてください。

ウゴツクバネウツギ
ウゴツクバネウツギ
キブシの実
キブシの実
ユキザサ
ユキザサ
ギンリョウソウ
ギンリョウソウ
ヒメアオキの実
ヒメアオキの実
ヒグラシ
ヒグラシ
サカハチクロナミシャク
サカハチクロナミシャク
ヒメウラナミジャノメ
ヒメウラナミジャノメ
エゾイトトンボ
エゾイトトンボ
ヒメアカタテハ
ヒメアカタテハ
モリアオガエルの卵塊
モリアオガエルの卵塊

MAP&DATA

鳳来山

コースタイム:開拓登山口・・・南高ヒュッテ・・・鳳来山・・・横堂・・・開拓登山口:約2時間20分

鳳来山付近の位置を確認する

この記事に登場する山

山形県 / 出羽山地

鳥海山・新山 標高 2,236m

 山形県と秋田県境にそびえる成層火山で、東北を代表とする高山である。秀麗な山容から出羽富士、秋田富士の名で親しまれている。  山は中央火口丘の新山(最高峰)を中心に、行者岳、伏拝岳、七高山の比較的新しい東鳥海火山と、火口湖だった鳥ノ海(鳥海湖)、中央火口丘の鍋森を中心とする、笙ヶ岳、月山森、扇子森の西鳥海火山、および山腹に付随する寄生火山からなる複式火山である。  有史以来度重なる噴火活動が人々の畏怖の的となり、山そのものが火を吹く荒ぶる神としてあがめられ、山岳宗教が発達した。山頂には、大物忌神を祭る「大物忌(おおものいみ)神社」がある。ところが、修験道の発達とともに山上の奉仕権と嶺境の争いへと進み、江戸幕府裁定で決着を見るという、人間臭い一面を今に残す山である。  日本海から山頂部まで、わずか約15kmの独立峰で、冬の季節風をまともに受けるため、山の方位によっては積雪や風に大きな違いが見られる。そのためチョウカイフスマ、チョウカイアザミ、チョウカイチングルマなどの鳥海山特有の植物をはぐくみ、植生を規制してきた。  1673年から数回、幕府の命によって、採薬登山が行われている。また、イギリスの登山家、ジョン・ミルンが1879年に登山し、わが国で初めて氷河問題の口火を切った山でもある。純粋な意味での登山は、朝日連峰、飯豊連峰に遅れをとり、大正末から昭和初期に始まった。  そして、昭和22年(1947)には、県立自然公園の指定を受け、国民体育大会開催(1952年)、国定公園指定(1963年)、さらには山岳観光道路「鳥海ブルーライン」開通などにより、山岳観光地として全国的に脚光を浴びるようになった。なかでも、スキー登山の地として人気が高く、ゴールデンウィークなどは全国から集まる愛好家で賑わっている。  かつて熊が爪跡を残し、ヤマヒルが巣くったという百宅口のブナも乱伐が進み、痛々しい変容ぶりである。昭和49年(1974年)には、153年ぶりに火山活動も見られた。しかし、宗教登山からスポーツ登山へと変わっても、日の出の力強い陽光を浴びた鳥海山が日本海上に写し出される「影鳥海」や冬の外輪山の内側の岩肌を飾る「岩氷」などは、単なる美しさを通り越して、今でも充分に神々しい。  鳥海山は、山岳信仰の息吹を残しつつ、東北の山特有の落ち着いた雰囲気と温もりのある山である。  登山道は、かつての登拝路を中心に山形・秋田両県から数多く整備されており、山頂まで約5時間。

山形県 /

鳳来山 標高 858m

鳥海山南麓、湯ノ台コースの下部にある。ブナ林が美しい。開拓登山口から鳥海高原家族旅行村まで、周遊できるコースがある。

プロフィール

斎藤政広(さいとう・まさひろ) 

横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。

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