ツエルト、ザックの肥やしになっていませんか? ベテラン登山者が教えるツエルト活用法

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もしもの時のためにツエルトの携行は推奨されていますが、購入以来、一度も使ったことがないという人もいるかもしれません。緊急時だけではなく、ツエルトはさまざまな場面で便利に使える装備です。

文・写真=長野県山岳総合センター


必要だと思って購入したものの一度も使ったことがない、そんな登山装備ありませんか? その上位に君臨すると思われるものに、ツエルトを挙げる人は多いのではないかと思います。

「実際、どんなシーンで使うの?」
「ビバークの時にしか使えないのでは?」
「テントを持って行くときもツエルトは必要?」

最近では、テントとツエルトの中間のような「自立式ツエルト」というものも登場していて、テントとして利用している人も散見されますが、テントとはなにが違ってどう使い分ければいいのかなど、ツエルトに関する疑問・質問を長野県山岳総合センターの職員3人で話し合ってみました。

 

所持率100%!! 25年前のツエルトも登場  

集まってもらった3人に、早速直球の質問。「ツエルトを持っていますか? 」という質問には

K所長: もちろん持っています。自立式ツエルト(底なし)も持っています。
職員A: 1人用と、2人用を持っています。
職員K: 2~3人用のものを持っています。

さすが山岳センターの職員。全員がツエルトを持っていて、2人が複数所持。山行人数に応じて複数のツエルトを使い分けて、より軽量化を図っている人や、1人で登山する場合でには積極的なツエルト泊をする際の居住の快適性を考慮して、敢えて2~3人用を選択する職員もいました。

そして、気になるのが所長の「底なしの自立式ツエルト」なるものです。25年ほど前に購入したそうで、このタイプのツエルトを現在はショップで見かけたことはなく、とても珍しいということで、早速見せてもらったのがこちら。

これが噂? の「底なし自立式ツエルト」。25年前に購入したものだそう

文字通り「床のないテント」という印象です。しっかり固定しないと強風下ではまるっと飛ばされてしまったり、壁全体が動いて安定感に欠いてしまったりするデメリットはあるそうです。しかし、比較的風の影響を受けにくい場所での宿泊であれば、ツエルトやタープを張るより楽に、かつ場所を選ばずに設営できそうです。

空間を確保できるのでオープンビバークよりも保温性も期待できます。当時では画期的なアイデアギアだったのではないでしょうか?

続いての質問は、「登山のときは毎回必ずツエルトを持っていきますか?」というもの。気になる回答を確認すると――。

K所長: 夏の時間的にもルート的にも厳しい日帰り登山、冬の日帰り登山やアタック行動がある場合には必ず持って行きます。
職員A: 基本的には、個人装備として日帰り・小屋泊の場合は必ず持参します。テント泊の場合は山行形態によりますが、アタック行動の有無などで決めます。
職員K: 単独小屋泊、日帰りなら持って行きますが、単独テント泊の場合は持って行きません。複数人で登山する場合はテント泊でも日帰りでも全体で複数個のツエルトを用意します。実際のところ、地元の低山ハイク程度であれば持って行かないこともあります。

という回答でした。テント泊での縦走など、常にテントを背負っている場合には、ツエルトと役割が重複する部分もあるので持って行かない選択をすることがある、という意見でした。一方、小屋やテント場から山頂アタックをするときにはツエルトをアタック装備に入れるようです。

 

気になるツエルト利用頻度は?

次の質問は「過去にどんな場面でツエルトを使用したことがありますか?」というもの。一度も使ったことがないという人も散見される中で、山岳センターの職員は?

K所長: かつては軽量テントがなかったため、軽さを求めてツエルトを積極的に使った宿泊の登山をしていました。最近は積雪期、無雪期問わず、コンディションがよくないときの休憩時に利用します。スキーのシールをツエルトの中で貼ったこともあります。
職員A: 沢での宿泊や雪洞の入口などのよくある利用法以外では、1人用のツエルトはポンチョとしても使えるので、同行者が雨の中寒さを訴えたときに雨具の上からかぶらせて歩いたこともありました。
職員K: 無雪期の北アルプスの稜線でとても風が強く、休憩をする時に風を避けられる場所がなかったので、ツエルトを出して包まりました。

ツエルトというと「緊急ビバークのためのお守り」的なイメージが強いかもしれませんが、職員の間ではむしろ、悪天をやり過ごしたり、強風下で休憩するときに即席で被るというような、一時的な使い方をしているようです。実際、山岳救助現場では、ヘリや応援が来るまでの間の要救助者をツエルトでくるんで保温する道具としても積極的に活用しています。

悪天候のときに一時的にツエルトを被ってやり過ごすという使い方ができる

山岳救助現場では、要救助者をツエルトでくるんで保温するような使い方もしている

もちろん、K所長のように軽量登山のために積極利用をする人もいます。沢泊などではタープとしても使えるので、職員の間での用途は一時的な使用だけに限らないようです。

最後に「初めてツエルトを買うなら、従来の非自立式ツエルトかインナーポールが付属する自立式ツエルト、どちらを選びますか?」という質問です。すでにツエルトを所持し、利用している3人はどういう選択をするでしょうか?

K所長: テントが無ければ自立式ツエルト、テントを持っていたら従来のツエルトかな。
職員A: やはり従来のツエルトを買います。登山頻度、登山形態にもよると思いますが、自立式ツエルトとはいえ、従来のツエルトの軽さ、小ささ、安さに敵う商品にはまだ出会っていないです。
職員K: 従来のツエルトです。日帰り登山が圧倒的に多いから。どんな場所でもさっと出してかぶれる、軽くて、色々な使い方が出来る従来のツエルトが結局良さそうです。

職員の中では従来のツエルト派が多数となりました。両者ともにメリット・デメリットがありますが、従来のツエルト特有の携行性や汎用性は、やはり選択には大きなポイントとなるようです。一方、この汎用性を最大限に生かすには、用途に応じた使用方法を学ぶ必要があります。いわゆる「分かりやすさ」の観点でいえば自立式ツエルトの使い方は一目瞭然でしょう。

ツエルト選択は職員によっても意見が分かれるところで、「これが正解!」と言えないのが実態です。山行スタイル、自分や仲間の体力レベル、山のコンディションやリスクなどなど、さまざまな要素を考慮する必要があるでしょう。そして一つの装備のチョイスについて考え抜く……。そのプロセス自体が登山の楽しさでもあり、登山者として成熟していくカギになります。

ぜひこの機会に、袋の中に詰め込まれたまま眠っているツエルトを引っ張り出して、設営してみたり、かぶってみたり、広げてみたりして、ちょこっと仲を深めてみてください。

とはいえ、一人で現地でツエルトを設営するのは不安だと思います。サポートのある中でツエルト泊を経験してみたいという方のために、長野県山岳総合センターでは定期的にツエルト泊が経験できる講座を実施しています。

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プロフィール

長野県山岳総合センター

長野県大町市にある長野県立の施設。「安全で楽しい登山」の普及啓発を主目的に、「安全登山講座」と動植物・地形地質をはじめ山の自然を総合的に学べる「野外活動講座」を、年間約60講習開催。講習参加者のうち、長野県外の方が約6割を占める。

⇒長野県山岳総合センター
⇒Youtube

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