眼福の極み! 北アルプス・双六岳の絶景を語る【山と溪谷7月号】

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月刊誌『山と溪谷』2025年7月号は、「知る、歩く。北アルプス」。いつものコースガイドとは一味違った視点で、双六岳の魅力をカメラマンの三宅岳さんに教えてもらいます。双六岳の眼福の絶景の理由とは。

文・写真=三宅 岳


双六岳(すごろくだけ)は標高2860m。北アルプス主稜線上の槍ヶ岳(やりがたけ)と三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)の間に位置している。新穂高温泉(しんほたかおんせん)から小池新道(こいけしんどう)をたどって登るのが一般的。鎖やハシゴなどがなくアルプス初心者でも歩きやすい、手入れのよい道だ。

双六岳頂上から東に向けては穏やかで開放的な斜面が広がっている。船津花崗岩類(ふなつかこうがんるい)という地質で風化しやすくかつ構造的に安定していたため、急峻な岩稜ではなくなだらかな山頂となったようだ(※)。この緩やかさを重ねたような頂稜部のかなたに、凸凹ギザギザとした迫力ある岩の山、槍ヶ岳や穂高岳(ほたかだけ)が控えている。

この景色。飽きることがない無条件絶景と思っていたが、編集部からその理由を示せとお題をいただいた。そこで勝手にそのすばらしさを分析してみよう。

(※)出典:一社「飛騨山脈ジオパーク推進協会」
黒部源流の奥深き山々
双六岳山頂から黒部源流の奥深き山々を望む
頂稜の緩斜面
頂稜の緩斜面はまるで天上の楽園

理由その1

適度な距離感が立体感ある風景を際立たせる。独特のとんがりが風景を引き締める槍ヶ岳。この双六岳から槍ヶ岳までは直線距離で6㎞強。近すぎず遠すぎずの絶妙な距離である。しかも双六岳と槍ヶ岳の間には視界を惑わすピークなし。つまり風景に邪魔の入る余地がないのもすばらしい風景のもとになっている。

双六岳の稜線は広々。点在する植物が不思議なパターンを生み出す

理由その2

双六岳をめざす多くの登山者は、すでに槍・穂高を眺める眼福を体感している。 例えば、鏡平では山上の池に映し鏡となる槍・穂高の姿を堪能しているはずだ。

鏡平の池槍・穂高投影。鏡平は第一級の槍・穂高展望台である

そして弓折乗越(ゆみおりのっこし)では、岩峰の連なりとして、ワイドに広がる槍・穂高にその視線を釘付けにしてきたはずなのだ。しかし、双六小屋付近まで来ると槍・ 穂高の感涙を呼ぶ姿は、樅沢岳(もみさわだけ)の山陰となりすっぽりと隠れてしまう。 そこで、再度絶景を我が目に、と双六岳の急登に挑むわけである。息荒く汗を流してたどり着いた山上台地。そこで振り返れば、これぞ眼福!の極みである。 柔らかな曲線の台地には、槍・穂高という名峰が再びそろっているではないか。 まあ、理由はともかく、こればかりは一見にしかず。ぜひとも双六岳をめざしていただきたい。自分の目で確かめてもらうのが、いちばんの答えとなるはずだ。

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム: 14時間
行程:新穂高温泉・・・小池新道登山口・・・鏡平山荘(泊)・・・双六小屋・・・双六岳・・・双六小屋(泊)・・・小池新道登山口→新穂高温泉/2泊3日
総歩行距離:約28,200m
累積標高差:上り 約2,157m 下り 約2,157m
コース定数:57
アドバイス:双六岳は槍・穂高連峰の西側に位置するので、夕暮れ時になると槍・穂高もきれいに焼けることがある。ただし小屋泊の場合、夕食時間にかぶる可能性が高い。槍・穂高の展望が 目的なら機沢岳山頂からの眺めも捨てがたい。 余裕があれば2日目に 三俣蓮華岳まで足を延ばすのもよい。新穂高温泉からの左俣林道は、土砂崩れの発生により、 5月30日現在通行止め。 復旧時期は未定。

山と溪谷2025年7月号より転載)

この記事に登場する山

長野県 岐阜県 / 飛騨山脈北部

双六岳 標高 2,860m

 双六岳は双六谷の源頭にあたり、ゆったりした高原状をなして北の三俣蓮華岳へと続く。  この双六岳と樅沢岳の鞍部に双六小屋があり、三俣蓮華岳方面、槍方面、笠方面からの縦走路の会する所で、北アルプスの要衝となっている。小屋の下にある双六池は常に水をたたえ、池畔は快適なキャンプ場である。  双六岳へは、昔は金木戸川から双六谷をつめて登るのが唯一のルートであったが、昭和30年、当時の双六小屋経営者、小池義清氏によって、ワサビ平から大ノマ乗越経由の小池新道が開発され、その後さらに、秘境鏡平経由の道が整備され、これが本ルートとなっている。新穂高温泉から鏡平、双六小屋経由で8時間。  双六岳の山頂へは、双六小屋からハイマツの急坂を登ることになるが、縦走路から外れているためいつでも静けさを保っている。

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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