
世代を超えて伝わる山岳の魅力。写真絵本『山に登る』
幼少期から今に至るまで、山を登り続けている山岳写真家の星野秀樹さん。山の美しさや緊張感、登山をする魅力が詰まった写真絵本『山に登る』(アリス館)が出版されました。厳選した言葉で山のすばらしさをつづり、大人にも刺さる一冊の紹介です。
文・写真=星野秀樹
山がある、山がある。どこまでも、はてしなく。
これは、山のことを思い描きながら目を閉じたとき、まず初めに僕の頭の中に浮かんでくる情景です。歩いても歩いても、越えても越えても尽きることのない山の連なりが、ずうっとどこまでも浮かんでくる。すると心の深いところがなんだかジーンとしてきて、「ああ、山に行きたいなあ」と思うのです。
この「山に登る」は小学生でも読めるように作った写真絵本です。大小の写真と、短めの文章で構成されているので、長い読み物が苦手な大人の方も、きっと最後まで読み切れるはず。いや、読みきれなくてもいいんです。ページをめくって気になる写真で立ち止まって、なにか心にひっかかる言葉を見つけて、そしてなんとなく、「ああ、山に行きたいなあ」と思ってもらえたら。
僕が初めて山に登ったのは5歳の時。家族登山で、上高地から西穂独標(にしほどっぴょう)への日帰り往復山行でした。ほとんど記憶には残ってないけれど、しかしよく歩けたなあ、と自分のことながら感心します。それ以降、毎夏家族で、主に北アルプス南部への登山を繰り返すのですが、今回この「山に登る」を書くにあたって思い浮かべたのは、そんな子ども時代の登山のことでした。
あのころ、僕は山でなにを見てきたんだろう。
なにを考えながら山を歩き続けたんだろう。
どうして僕は、山を好きになったんだろう。
なぜ僕は、あれからずっと山を登り続けてきたんだろう…。
そんな自らへの問いかけと、回答。それを形にしたのが「山に登る」です。人類が抱える究極の問いである「なぜ人は山に登るのか」について、自分なりの答えを出してみた、なんて言ったらえらく大袈裟ですが。とはいえ、これで僕が山に登る理由をすべて言い切れたわけではありません。考えれば考えるほど、山に登れば登るほど、もっとさまざまな、あんなことやこんなことが、僕を山へと引き込むのですから。この本を読まれた方も、きっともっといろんなことを思われるのではないでしょうか。自分なりの、人それぞれの「山に登る」がある。この本が、そんなことへ思いを馳せる一助にでもなったらいいな、と思います。
この「山に登る」は、僕にとって5冊目の児童書です。最初の本は、黒部の阿曽原温泉小屋(あぞはらおんせんこや)をテーマにした『黒部の谷の小さな山小屋』(アリス館)でした。雪害から小屋を守るため、毎年秋に取り壊し、翌年の初夏に建て直す阿曽原温泉小屋を舞台に、オーナーの佐々木泉さんと黒部(くろべ)の自然や下ノ廊下(しものろうか)などを紹介しています。それから「暮らしを支える乗り物シリーズ」(新日本出版社)として、山小屋へ荷上げをするヘリコプター、作業ごとに活躍する田んぼの機械、雪国の除雪車の話を、ライターの池田菜津美さんと共著で作りました。槍ヶ岳山荘(やりがたけさんそう)や、僕の地元である飯山(いいやま)のみなさんに協力してもらい、暮らしとつながりのある乗り物を紹介する内容です。どれも写真絵本ですが、子どもの本を作ることで、今まで以上に言葉の大切さを感じさせられました。より丁寧に、わかりやすい言葉で伝えること。そんなことをこれら数冊の児童書作りの中で学ばせてもらっています。
「山に登る」に続いて、今度は「森」の話を作りたいと思っています。「山」とは別に「森」をテーマに撮影を始めて20年ほどになりました。今僕が暮らす北信州飯山の「森歩き」の魅力を、大人はもちろん、子どもたちにも伝えられたらいいな、と思っています。

山に登る
| 著 | 星野秀樹 |
|---|---|
| 発行 | アリス館 |
| 価格 | 1,760円(税込) |
プロフィール
星野秀樹(ほしの・ひでき)
写真家。長野県飯山市在住。剱岳や黒部源流域、上越・信越などの山を中心に活動。近著に『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)、『黒部の谷の小さな山小屋』『山に登る』(アリス館)、『雪のくに移住日記』(信濃毎日新聞社)、共著に『飛べ! 山小屋ヘリコプター』『がんばれ! 田んぼマシーン』(新日本出版社)など。『森を歩くと』(仮題・アリス館)を2026年3月に出版予定。
関連記事
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他




