花の宝庫の白山へ
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは石川県と岐阜県にまたがる白山(はくさん、2702m)へ。初夏に訪れ、たくさんの花に出会えました。市ノ瀬(いちのせ)を起点に歩きます。
文・写真=こう
日本三名山の一つに数えられる加賀の白山。山が開かれたのは1300年以上も前で、古くから信仰の対象として数多の人に登られてきた山だ。また、花の宝庫としても知られており、冬は名前のとおり白い山だが、夏はクロユリやハクサンコザクラを主としてたくさんの花で彩られる。さらに火山らしい荒々しい山容と、火山活動によってできた池が多いのも特徴で、お池巡りコースなるものも楽しめる。
花と火山の魅力を味わうべく、白山室堂(はくさんむろどう)に小屋泊で御前峰(ごぜんがみね)、大汝峰(おおなんじみね)をめざした。
1日目:砂防新道(さぼうしんどう)から御前峰、大汝峰を登頂、白山室堂に宿泊
市ノ瀬(いちのせ)には、一般駐車場と宿泊者専用駐車場があったが、いずれも朝早い時間から埋まっており、朝5時半で宿泊者専用駐車場は満車になっていた。登山口のある別当出合(べっとうであい)まではシャトルバスに乗り15分ほどで着く。今回は登りは砂防新道、下りで観光新道を使用する。
登山口のすぐそばにある吊り橋を渡ると、整備された歩きやすい登山道によって森へと誘われる。はじめはゆるやかな道も、次第に傾斜を増していくが、丁寧に積まれた石の階段は段差が小さく、苦労せずに進むことができた。
砂防新道の途中で足元にちらほら花が現われてきた。花の宝庫とうたわれるだけあり、多様な花が登山道を彩っていた。山頂まで距離があり比較的ロングコースではあるが、花が途切れることがないため、終始楽しみながら歩くことができた。ルート上には中飯場(なかはんば)や甚之助避難小屋(じんのすけひなんごや)があるが、いずれもトイレは使用不可となっていた。
甚之助避難小屋から先は視界が開け、左手に遠く日本海があり、後ろを見ると別山がそびえる。道幅が狭くすれ違うのが困難な箇所が多く、下山してくる人と譲り合いながら進んだ。
観光新道との合流地点にある黒ボコ岩へは急登を詰めていった。黒ボコ岩はたくさんの人であふれていた。休めそうな岩を見つけてはそこに座り、景色を堪能しつつ足を休ませた。
黒ボコ岩からすぐ近くの弥陀ヶ原(みだがはら)には木道があり、非常に歩きやすい。白山室堂手前から急な登りになるが、さほど距離はなかった。
白山室堂に着くと、ビジターセンターがお出迎えしてくれる。この日は太陽の日差しが強く、屋外にいると暑くてたまらなかったが、ビジターセンター内は風が通り、涼しくて快適だった。売店の品ぞろえが充実していて、驚くことにアイスまで販売されていた。標高2500mにある山小屋でアイスを食べられるとは思わず、とてもうれしかった。
白山室堂でアイスと昼食を食べた後は、御前峰と大汝峰をめざした。立派な鳥居をくぐり登山道に出ると、すぐに花畑が広がる。目を引くのはミヤマキンポウゲの明るい黄色だが、目を凝らすと緑の中にポツポツと黒が混じっているのがわかった。夏の白山を代表する花であるクロユリだ。白山室堂付近で見られることは知らなかったので、思わぬ出会いによろこびがあふれた。
室堂から見ると、なだらかで優しい形に見えた御前峰であったが、近づくにつれて傾斜が増し、想定していたよりも登り応えがあった。ちょうど白山の真上にある太陽が煌々と輝いており、暑さで体力を奪われていたのも苦戦した理由の一つだった。背後には絶景が広がっており、登るのに疲れたら立ち止まって後ろを振り返り、その景色に癒やされた。
御前峰への最後の九十九折りを曲がったところで、白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)の奥宮が正面に見えた。その奥には山頂と大汝峰の絶景が待っていた。しばらく景色を楽しんだ後で、下りはお池巡りコースを進むことにした。白砂の稜線を歩いて分岐へと向かい、そこから斜面を下る。砂で滑りやすいので、バランスを崩さぬように注意したい。
斜面を下りきったところからは、油ヶ池(あぶらがいけ)と紺屋ヶ池(こんやがいけ)の間を通り、次の池をめざす。青空を切り取ったような紺碧の池があり、それが翠ヶ池(みどりがいけ)だった。景色の抜けがよく、青空や奥に立ち並ぶ北アルプスの山々とともに楽しむことができた。
池の反対方向に登山道が延びており、そちらではイワカガミとアオノツガザクラの群落が見られた。背後にそびえる剣ヶ峰、御前峰の赤茶けた斜面があり、ここが日本であることを忘れてしまうような特別な景色であった。
池巡りの途中ではあったが、コースからそれて大汝峰をめざした。なだらかな道を進むと急登の手前にベンチがあったので、そこにザックをデポして登った。手を使って登る岩場もあったが、空身で来たおかげでスムーズに登ることができた。20分ほど登ると山頂にたどり着く。山頂からは御前峰方面の景色が抜群で、歩いてきた道のりを俯瞰して眺めることができる。御前峰と違ってあまり人が多くないのもうれしいポイントだった。
ずっと見ていたい景色だったが、日が暮れる前に室堂に戻る必要があるため、下ることにした。ベンチ脇にデポしていたザックを拾い、お池巡りコースへ戻る。百姓池(ひゃくしょういけ)付近にはお花畑が広がっていた。終始花に彩られた登山道を歩くことができ、ハクサンコザクラの姿も目にすることができた。一日中歩いて体力的には疲れていたのだろうが、百花繚乱の美しい道に気分はずっと高揚したままだった。
小屋で受付を済ませて、夕食までの待ち時間は生ビールを片手に御前峰を眺めながら過ごした。日帰りでは味わえない小屋泊ならではの至福の時間を、心ゆくまで満喫した。
夕食後は、夕日を見るために御前峰方面へ少し登り、赤く染まりゆく景色を眺めながら充実の1日を締めくくった。
2日目:お花松原を堪能し、観光新道から下山
山頂から御来光を見られることを期待して、まだ星が出ているうちから歩き始めた。御前峰へと向かう登山者のヘッドランプで光の道ができていたが、我々はその列から外れ、最短ルートで大汝峰をめざした。途中に雪渓があり、まだ寒い朝のうちは雪が固く締まっていた。軽アイゼンやチェーンスパイクがあると安心して歩けるだろう。
大汝峰の登りに差し掛かるころには、東の空が赤く染まり始めていた。急いで山頂に向かい、どうにか日の出前に到着することができた。大汝峰山頂には我々の他に単独行者1名のみだったが、御前峰はたくさんの人が並んでいる様子が見えた。
日の出はもちろん美しかったが、朝日に照らされて赤く燃える御前峰と剣ヶ峰が非常に美しく、大汝峰で朝日を迎えてよかったと心から思った。太陽が雲に隠れると凍えるほど寒かったため、夏だからといって油断せず、手袋や防寒着を持っていくと寒さに震えることなく、朝日を堪能できると思う。
大汝峰から分岐に戻り、そこから室堂とは逆方向の中宮道(ちゅうぐうみち)を下り、お花松原(おはなまつばら)をめざした。時期になると、クロユリやハクサンコザクラの大群落が見られるらしい。
急坂を下り、軽アイゼンを装着して雪渓を渡った。なだらかな道を進むと、お花松原と書かれた道標が現われるが、アオノツガザクラが咲いているだけで、クロユリやハクサンコザクラの姿はなかった。どうやら雪が多かった今年は咲く時期が遅いようで、クロユリの株はたくさんあったがまだ咲いていなかった。
骨折り損のくたびれもうけにはなってしまったが、白山室堂に戻っている途中、行きでは気づかなかったキヌガサソウ、クロユリを見つけることができた。また、白山室堂と逆方向から見る白山はまた違った印象を受け、花がなくともお花松原に来てよかったと思えた。
大汝峰の直下まで戻り、ベンチに腰をかけ弁当を食べた。絶景を眺めながらおいしいものを食べることで、この上なく幸せな気持ちになれた。白山室堂に戻って少し休憩を挟み、観光新道を使って下山を開始した。こちらの道も景色がよく花が豊富で飽きずに下山できる登山道であった。ただし、景色がよい分、直射日光は避けられないため、暑さ対策は充分に行ないたいところだ。
別当出合に戻ると、ちょうどシャトルバスが来ていたので乗り込む。花と絶景に出会えた山行に満足し、その余韻に浸りながら帰路についた。
(山行日程=2025年7月19〜20日)
MAP&DATA
【2日目】9時間55分
市ノ瀬・・・越前禅定道分岐(湯の谷林道)・・・指尾・・・剃刀窟・・・別当坂分岐・・・別当出合・・・中飯場・・・別当覗・・・甚之助避難小屋・・・南竜道分岐・・・黒ボコ岩・・・エコーライン分岐(砂防新道合流点)・・・白山室堂・・・御前峰・・・お池めぐり分岐・・・大汝峰下の分岐・・・大汝峰・・・大汝峰下の分岐・・・お池めぐり分岐・・・白山室堂
【2日目】
白山室堂・・・お池めぐり分岐・・・大汝峰下の分岐・・・お花松原・・・大汝峰下の分岐・・・お池めぐり分岐・・・白山室堂・・・エコーライン分岐(砂防新道合流点)・・・黒ボコ岩・・・殿ヶ池避難小屋・・・別当坂分岐・・・剃刀窟・・・指尾・・・越前禅定道分岐(湯の谷林道)・・・市ノ瀬

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
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