ゴジラの背中をよじ登る。北穂高岳東稜

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読者レポーターより登山レポをお届けします。小白直樹さんは北穂高岳(きたほたかだけ、3106m)東稜へ。クライミング技術が必要になるバリエーションルートです。

文・写真=小白直樹


今年の夏山は刺激的な山行がしたいという仲間からの提案で、北穂高岳へのバリエーションルート、北穂東稜(通称ゴジラの背)に4人の仲間と共にチャレンジした。海の日三連休とあって山小屋はすでに予約一杯なので涸沢でテント泊の計画となり、久々の重荷にちょっと不安なスタート。穂高方面は16年ぶりだったが、以前より道が整備されていて歩きやすくなっていた。涸沢に到着すると、テン場はかなり埋まっていたが、なんとか2張りテントを設営できた。

涸沢カールのテント場
涸沢カールはテントの花盛り

寝床は石がゴツゴツして寝心地が悪く睡眠不足気味だったが、未明の降るような星空から、次第に紅く染まっていく山肌を見たら眠気は吹っ飛んだ。

満天の星空
未明の涸沢で仰ぐ満天の星空
夜明けの山
頂稜から次第に紅く染まる夜明けの山

北穂への南稜コースを登ってクロユリスラブを通過し、北穂沢のモレーンを越える辺りで登山道はガレの中を登るようになる。登山道が左へ曲がった先に鎖場が見える辺りが東稜への取付だ。ここで南稜コースから右へ逸れて、北穂沢のガレに足を踏み入れた。

北穂沢
右奥のルンゼをめざして北穂沢を渡る

大きく広がる雪渓の下側を回って行くと幅20m位の小さい雪渓があり、チェーンスパイクを着けてこれを渡った。その先は傾斜のあるガレルンゼに入って行くが、浮き石だらけなので落石を起こさないよう慎重に登った。草付の中が比較的安定している。

浮き石だらけの登山道
不安定なガラガラの岩を踏んで慎重に登る

さらに右上のルンゼの側壁と雪渓の間を登って、雪渓の上部から右手の岩場を登ると東稜のコルに到着。この辺りはミヤマダイコンソウ、シナノキンバイ、ハクサンイチゲなどのお花畑が広がっている。緩やかな尾根を登っていくと槍ヶ岳(やりがたけ)が姿を現わし、振り返れば前穂北尾根のギザギザの稜線がかっこいい。

シナノキンバイのお花畑と前穂北尾根
シナノキンバイのお花畑と前穂北尾根

踏み跡を進んで行くと、大小取り混ぜた岩を無作為に積み上げたようなゴツゴツした岩尾根になる。ここは浮き石に注意しながら、なるべく尾根の頂点に近いところを登っていった。ハイマツが生えているところは比較的岩が安定している。

岩尾根
気が抜けない不安定な岩尾根

岩尾根を進むと小ギャップの先にピナクル(小岩塔)が突き出している箇所があり、ここから東稜の核心部が始まる。ゴジラの背中のギザギザした背ビレの部分だ。ここからはトップがロープを着けて、途中の突き出た岩で中間支点を取りながら登っていった。ラストは残置ハーケンを使ってトップをビレイする。セカンド以下は張られたロープにプルージックを掛けて自己確保しながら越えて行った。技術的にはそれほど難しくないが、ピナクルへ登る取付のところで、北穂沢へスパッと切れ落ちた絶壁の上に体がせり出すので、今回のルートの中で一番スリリングな場面だ。

核心部のピナクル
核心部のピナクルへの登り

その先はナイフリッジを左から右へ乗り移って越えて行くので、ここも続けてロープ確保して核心部を無事通過した。

ナイフリッジ
高度感満点のナイフリッジを渡る

間もなくゴジラの頭に到着。懸垂下降用の残置ロープとカラビナがあるが、今回は右下の踏み跡から傾斜が緩む辺りまで巻いてクライムダウンした。

ゴジラの頭
ゴジラの頭からクライムダウンする

ゴジラのあごにあたる鞍部からは、北穂山頂に向けて200mほどの最後の登りが待っている。はっきり踏み跡がわかるところもあるが、安全に登れそうなルートを探りながら登っていった。やがて北穂高小屋が頭上に見えてきて、石垣に設置されたハシゴを登って小屋の前に出た。石段を登るとすぐに北穂高岳の山頂に到着した。

北穂高岳山頂
北穂の山頂に到着。「やったね!」

たどって来た東稜を振り返りながらゆっくり休憩した。安曇野の方は雲が湧いて来ているが、こちらはまだ快晴が続いている。贅沢な山岳展望を満喫してから南稜コースを下山して涸沢に戻った。

東稜の核心部
南稜から見た東稜の核心部

今夜は平らな地面でゆっくり眠りたいので横尾まで下ることにして、テントを撤収して下山。横尾のテン場で飲むビールはいつにも増しておいしく感じられた。

(山行日程=2025年7月19~21日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム:【1日目】6時間
【2日目】12時間
【3日目】3時間
行程:【1日目】上高地・・・横尾・・・涸沢
【2日目】涸沢・・・北穂東稜・・・北穂高岳・・・涸沢・・・横尾
【3日目】横尾・・・上高地
総歩行距離:約34,300m
累積標高差:上り 約2,003m 下り 約2,004m
小白直樹(読者レポーター)

小白直樹(読者レポーター)

丹沢山地の麓、神奈川県相模原市緑区在住。自然と酒をこよなく愛する仲間たちと共に山歩きや釣りなどのアウトドア活動にいそしみ、日々アクティブな隠居生活を送る自由人です。

この記事に登場する山

長野県 岐阜県 / 飛騨山脈南部

北穂高岳 標高 3,106m

 北穂高岳は穂高連峰の最北端にそびえる。東は涸沢谷、西は蒲田川右俣からの支流、滝谷によって壮絶な岩壁になっている。主稜線は南北に起伏し、南は岩を踏んで涸沢岳へ、北は大キレットを隔てて南岳、中岳、大喰(おおばみ)岳、槍ヶ岳へと続いている。  この山のよさは、西面の滝谷に尽きる。日本でも超一流のロッククライミングのゲレンデである。かつて、名案内人といわれた上條嘉門次が「鳥も止まれねえ」と嘆かせた悪絶な岩壁で、初登攀は大正14年(1925)。早大の四谷龍胤(りようすけ)、小島六郎パーティとR.C.Cの藤木九三(くぞう)、ガイドの松井憲三パーティが、同じ8月13日に挑み、成功している。  滝谷は中間の合流地点からA沢~F沢が分かれ、B沢~D沢の間のルンゼや岩稜、岩壁が主な登攀対象になり、日本を代表する優れたクライマーたちを育ててきた。  北穂高岳は北峰と南峰に分かれている。北峰に三角点があり、直下に北穂高小屋があるので、普通、北穂高岳頂上とは北峰を指す。  登山道は涸沢カールから南稜の急登をがんばれば、3時間で山頂に立てる。上高地からは8時間30分の道のり。

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