遭難するかどうかは、登る前に決まってしまう!? 山岳遭難事例にみる、SNS・ネット情報の落とし穴

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

多くの山岳遭難は、準備不足が原因となっている。2025年7月に刊行された『あなたはもう遭難している 本当にあったびっくり遭難に学ぶ登山の超基本』の著者・羽根田治さんに、SNSやネット情報に起因する山岳遭難について聞いた。

聞き手・構成=西村健(山と溪谷オンライン)

羽根田 治さん
羽根田 治さん(はねだ・おさむ)
1961年、さいたま市出身、那須塩原市在住。フリーライター。山岳遭難や登山技術に関する記事を、山岳雑誌や書籍などで発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆を続けている。主な著書にドキュメント遭難シリーズ、『ロープワーク・ハンドブック』『野外毒本』『パイヌカジ 小さな鳩間島の豊かな暮らし』『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(共著)『人を襲うクマ 遭遇事例とその生態』『十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕』などがある。近著に『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(平凡社新書)、『これで死ぬ』(山と溪谷社)など。2013年より長野県の山岳遭難防止アドバイザーを務め、講演活動も行なっている。日本山岳会会員。


――羽根田さんといえば山岳遭難ルポの第一人者ですが、私にとってはアウトドアライターのイメージが強いんです。学生のときに初めて読んだ著書は鳩間島を描いたエッセイ『パイヌカジ』(1997年/山と溪谷社)でした。そんな羽根田さんが山岳遭難に取り組むことになったきっかけは?

岐阜県警の山岳警備隊への取材がきっかけでした。富山県警山岳警備隊の方が書かれた『ピッケルを持ったお巡りさん 登頂なきアルピニストたちの二十年』(1985年/山と溪谷社)という本があったんですが、次に岐阜県警の山岳警備隊の本を出そうということになって、編集をお手伝いしたんです。それが『山靴を履いたお巡りさん: 北アルプス飛騨側を護る山男たちの手記』(1992年/山と溪谷社)という本です。それまで、山岳遭難というとテレビや新聞などで報道されるくらいで、概要くらいしかわからなかった。でも、実際に山岳警備隊員に話を聞いてみると、さまざまな思いをもって救助に当たっていて、それが興味深くて、ひかれたのが始まりですね。

――取材執筆だけではなく、長野県の山岳遭難防止アドバイザーとして活動されていますね。

そうそう、アドバイザーの活動のなかには講演なんかも含まれるんですが、そうしたときは長野県に資料を出していただいています。あるとき資料の中に「入山前遭難」という言葉が出てきたんですよ。もともとは長野県で山岳遭難防止に長く関わっておられた丸山晴弘さんが書いた『遭難のしかた教えます 安全登山のための辛口レクチャー』(1985年/山と溪谷社)に出てきた言葉のようですが、その言葉が非常に興味深いなと思っていました。この『あなたはもう遭難している』の担当編集者も同じように長野県警の山岳遭難救助隊員が講演で話したこの言葉を印象深く覚えていて、そのことが企画のコンセプトになりました。

準備不足に起因する遭難「入山前遭難」(写真=PIXTA)

――なるほど、入山前の準備不足に対する警鐘というのはかなり早くからあったわけですね。では、すこし新刊の本文を抜粋してみたいと思います。

NEXT 登山のメンバーをSNSで募集
1 2 3

この記事に登場する山

東京都 / 関東山地

三頭山 標高 1,531m

 三頭山は自然豊かな美しい山。山頂付近は3つのピークからなる。主要登山口は「都民の森」として、登山者のみならず観光客も多く訪れる。  日帰りも可能であるが、できたら山麓の数馬に1泊してみたい。都民の森から登るコースのほか、笹尾根の西原峠から尾根通しに三頭山に登り、西にある鶴峠に下るコースもお勧め。そこには美しいブナ林が残っている。

長野県 / 木曽山脈

木曽駒ヶ岳 標高 2,956m

 中央アルプスの最高峰である駒ヶ岳は、伊那谷では西駒ヶ岳と呼び、東駒ヶ岳と称される甲斐駒ヶ岳と区別している。一方、木曽谷の人はこの山を木曽駒ヶ岳と呼び、現在はこの名が一般的になっている。山名の由来は、全国の駒ヶ岳がそうであるように、晩春に中岳から将棊頭山の山腹にかけて現れる駒の雪形によっている。  この山は山岳宗教の山として古くから登られており、天文元年(1532)に木曽上松の徳原春安という人が山頂に駒ヶ岳神社を建てたと伝えられている。近代登山の対象として登られたのは明治24年(1891)8月のW・ウエストンの登山で、友人とともに上松口から登頂、その著書に紀行を載せている。  山頂一帯はハイマツの緑のジュウタンが敷きつめられ、花崗岩砂の白さと見事なコントラストを描き出している。西に木曽前岳(2826m)、南に中岳(2925m)、さらに東には伊那前岳(2883m)を擁し、登山道は四方から集中している。3000mにちょっと欠けるが、その頂からの展望はすばらしい。日本アルプスの中央に位置しているだけに、北アルプスの山並みと乗鞍岳、そして目の前の御岳山、さらに伊那谷を隔てて大パノラマが楽しめる南アルプスと、見飽きることがない。  また稜線や山上湖の周辺では高山植物も多く見られ、イワウメ、イワギキョウ、アオノツガザクラ、タカネシオガマなど、色とりどりの花々が登山者を迎えてくれる。特に中央アルプスの特産種であるコマウスユキソウは、いわゆるエーデルワイスの仲間で、この山域でのみ見られる花である。  登山コースは四通八達しているが、ロープウェイを利用して千畳敷から乗越浄土、中岳を経て登頂するものがいちばん楽なコース(千畳敷から1時間30分)。次に新田次郎の小説『聖職の碑』の舞台でもあるクラシックな、桂小場(かつらこば)から将棊頭山を越えて山頂に至るコースは静かで、中央アルプスらしいムードを楽しめる(桂小場から6時間30分)。そのほか北御所登山口から(7時間弱)、宮田高原から伊勢滝を経て山頂に至るコース(7時間弱)などが伊那側からのルート。  一方、木曽側からは福島Bコース(山頂まで7時間弱)と、木曽側では最もよく利用されている上松コース(7時間弱)の2つがある(福島Aコースは、2025年に廃道が決定)。 いずれにしても、伊那、木曽いずれかの谷から山頂に至り、登りとは反対の谷に下山するようなコース設定をすれば、木曽駒ヶ岳の東西2つの顔と、伊那谷、木曽谷双方の雰囲気を楽しむことができる。

山岳遭難ファイル

多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。

編集部おすすめ記事