遭難するかどうかは、登る前に決まってしまう!? 山岳遭難事例にみる、SNS・ネット情報の落とし穴

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多くの山岳遭難は、準備不足が原因となっている。2025年7月に刊行された『あなたはもう遭難している 本当にあったびっくり遭難に学ぶ登山の超基本』の著者・羽根田治さんに、SNSやネット情報に起因する山岳遭難について聞いた。

聞き手・構成=西村健(山と溪谷オンライン)

SNSで登山メンバーを募るケースが増えている(写真=PIXTA)

登山のメンバーをSNSで募集。リスキーじゃない?

中国系のSNSを通じて集まったメンバー13人(中国人10人、日本人3人。最年少は15歳の少年、最高齢は48歳の男女2人)が3月21日、日帰りの予定で奥多摩の三頭山へと向かった。現地では登山開始前から雪がちらついていたが、主催者は「雪が降っていたのは知っていた。これくらいなら大丈夫だろうと思い入山した」と語っている。しかしその後、降雪が激しくなり、途中で「危ない。中止にした方がいい」と感じたものの、「先頭を行く人が先へ進むのを止められなかった」という。

想定外の大雪だったこともあって行動は捗らず、三頭山からヌカザス山へ向かう途中で一行は道に迷い、大幅に時間をロス。午後7時45分ごろ、「下山できなくなった」と110番通報して救助を要請した。警察と消防による救助活動は翌日の昼前まで及び、全員が救助されたが、なかには骨盤骨折や頭部打撲の重傷を負っている者、低体温症に陥って衰弱している者もいた。

(『あなたはもう遭難している』より抜粋)

冬の三頭山(写真=Hilo)
手軽なハイキングの山として知られる三頭山だが、冬は積雪も珍しくない(写真=Hilo

――mixiに始まり、Facebook、XなどのSNSが広まって20年ほどが経ちました。今やSNSはコミュニティ形成に欠かせないサービスですが、SNSで知り合った即席パーティの事故は多そうですね。そもそも、どうしてSNSで見ず知らずの人と山に行くことになるんでしょうか?私は山岳会に入っていたせいか、実際に会ったこともない人と山に行くという発想があまりないんですが。

話を聞くと「一緒に山に行ってくれる人と知り合う機会がない」という人が多いようですね。一人では心細いけど、かといって山岳会やサークルに所属するのはわずらわしい、という。先日聞いた話ですが、単独の女性が登山口で、やはり単独の女性に「一緒に登ってくれませんか?」と声をかけられたと言うんですね。声をかけられた人は「知らない人と一緒に登山するのはちょっと無理です」って断ったそうなんですが、聞いてみるとその人はいつもそうして登山口でほかの登山者に声をかけて、一緒に登ってもらっているというんです。

――それはすごい話ですね。

私もちょっとびっくりしたんですけどね。結局やっぱり山には行きたい。でも仲間が見つからない。1人で行くのは不安だから、手っ取り早く登山口で一緒に行ってくれる人を探そうっていうことなんですよね。

――それと同じような感覚でSNSを利用して一緒に登る人を探しているということでしょうか。かつて山岳会では技量もわからない会員以外との登山はかなり厳しく管理するケースが多かったと思いますが、時代ですかね。

はい。すごい時代だと思います。

――本書では、SNSで集まったパーティはメンバーの力量や人となりを把握できていないケースが多いことを挙げて、そのリスクを指摘されています。YAMAPやヤマレコのように登山記録の共有を基盤とした登山特化型のサービスなら、お互いの力量くらいは把握できそうですが、そういった場で知り合った人と山に行くケースにもリスクはあるのでしょうか。

登山記録を共有するサイトもそうだし、登山マッチングのアプリもありますね。何月何日にこの山に一緒に行く人、集まれというような。たとえば、初心者とか中級者とか、何時間歩ける人とか、ある程度条件は設定するにしても、自己申告なので、その通りの実力、体力技術がある人かどうかはわからない。やはり登山ルートに見合うスキルがあるかどうかという点でリスクはあると思います。

予定のコースを踏破できる体力・技術がなければ、遭難につながることも(写真=PIXTA)

――当日登り始めてから、「あれ、この人無理なんじゃないか、でも僕は登りたいし……」となったら厄介ですね。いつも一緒に登っている仲間ならともかく、初めて会った人のために登山を断念するのはつらい。かといって「僕は登りますが、あなたは無理だから諦めなさい」とも言えないです。

山に詳しそうだったのに、実際に登り始めてみたら、ただの山道具オタクだった、なんて話もありますね。詳しいのは道具ばっかりで、登山経験はほとんどないという。

――ほかにもいろいろトラブルは多そうですね。

男女の出会い目的で参加しようとする人も多いと聞きました。そういう下心って、あまり表には出さないじゃないですか。それが、いざ実際に会って登山する段階になってトラブルの原因になったり。あとはアッシー君ですね。登山口までの交通手段代わりに、車を出してくれる人を見つけるために利用することもあるようです。

私たちのような昭和生まれの人間からすると、今のSNSで知り合いになって山に行くっていうのは怖さが先に立ちますよね。でも、中高年でも利用する人は意外に多いので、人によってそのあたりの警戒心というのは違うようです。

――ストレートにお聞きしますが、SNSで知り合った人と山に行くのはやめた方がいいですか?

あながちそう断言もできないんですよね。わたしが話を聞いた人で40代の男性なんですが、SNSで知り合った登山者と一緒に登るようになって、技術とか知識を吸収させてもらって、バリエーションルートも登れるようになったので、とてもよかったと。そういった、信頼関係を築けて成長できる山仲間を見つけられたケースもあるんですね。この例に限らず、SNSのおかげでいい山仲間と出会えたという人は少なからずいると思います。

それと、SNSで知り合った人との登山がうまくいくかどうかは、性格が合うか合わないかにもよるでしょう。性格が合えば、初対面の人同士でも登山を楽しめるかもしれませんね。逆に「こいつとは絶対にムリ!」という場合もあるはずですけど。大切なのは、SNS登山にはどんなリスクがあるのかをしっかり把握することではないでしょうか。そして、登山前でも登山中でも、これは安全上まずいなと思ったら、初対面の人にも「ダメ」としっかり伝えることも必要だと思います。

――次は、ウェブ上で公開された登山記録が一因となった事例を見ていきたいと思います。

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この記事に登場する山

東京都 / 関東山地

三頭山 標高 1,531m

 三頭山は自然豊かな美しい山。山頂付近は3つのピークからなる。主要登山口は「都民の森」として、登山者のみならず観光客も多く訪れる。  日帰りも可能であるが、できたら山麓の数馬に1泊してみたい。都民の森から登るコースのほか、笹尾根の西原峠から尾根通しに三頭山に登り、西にある鶴峠に下るコースもお勧め。そこには美しいブナ林が残っている。

長野県 / 木曽山脈

木曽駒ヶ岳 標高 2,956m

 中央アルプスの最高峰である駒ヶ岳は、伊那谷では西駒ヶ岳と呼び、東駒ヶ岳と称される甲斐駒ヶ岳と区別している。一方、木曽谷の人はこの山を木曽駒ヶ岳と呼び、現在はこの名が一般的になっている。山名の由来は、全国の駒ヶ岳がそうであるように、晩春に中岳から将棊頭山の山腹にかけて現れる駒の雪形によっている。  この山は山岳宗教の山として古くから登られており、天文元年(1532)に木曽上松の徳原春安という人が山頂に駒ヶ岳神社を建てたと伝えられている。近代登山の対象として登られたのは明治24年(1891)8月のW・ウエストンの登山で、友人とともに上松口から登頂、その著書に紀行を載せている。  山頂一帯はハイマツの緑のジュウタンが敷きつめられ、花崗岩砂の白さと見事なコントラストを描き出している。西に木曽前岳(2826m)、南に中岳(2925m)、さらに東には伊那前岳(2883m)を擁し、登山道は四方から集中している。3000mにちょっと欠けるが、その頂からの展望はすばらしい。日本アルプスの中央に位置しているだけに、北アルプスの山並みと乗鞍岳、そして目の前の御岳山、さらに伊那谷を隔てて大パノラマが楽しめる南アルプスと、見飽きることがない。  また稜線や山上湖の周辺では高山植物も多く見られ、イワウメ、イワギキョウ、アオノツガザクラ、タカネシオガマなど、色とりどりの花々が登山者を迎えてくれる。特に中央アルプスの特産種であるコマウスユキソウは、いわゆるエーデルワイスの仲間で、この山域でのみ見られる花である。  登山コースは四通八達しているが、ロープウェイを利用して千畳敷から乗越浄土、中岳を経て登頂するものがいちばん楽なコース(千畳敷から1時間30分)。次に新田次郎の小説『聖職の碑』の舞台でもあるクラシックな、桂小場(かつらこば)から将棊頭山を越えて山頂に至るコースは静かで、中央アルプスらしいムードを楽しめる(桂小場から6時間30分)。そのほか北御所登山口から(7時間弱)、宮田高原から伊勢滝を経て山頂に至るコース(7時間弱)などが伊那側からのルート。  一方、木曽側からは福島Bコース(山頂まで7時間弱)と、木曽側では最もよく利用されている上松コース(7時間弱)の2つがある(福島Aコースは、2025年に廃道が決定)。 いずれにしても、伊那、木曽いずれかの谷から山頂に至り、登りとは反対の谷に下山するようなコース設定をすれば、木曽駒ヶ岳の東西2つの顔と、伊那谷、木曽谷双方の雰囲気を楽しむことができる。

山岳遭難ファイル

多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。

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