遭難するかどうかは、登る前に決まってしまう!? 山岳遭難事例にみる、SNS・ネット情報の落とし穴

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多くの山岳遭難は、準備不足が原因となっている。2025年7月に刊行された『あなたはもう遭難している 本当にあったびっくり遭難に学ぶ登山の超基本』の著者・羽根田治さんに、SNSやネット情報に起因する山岳遭難について聞いた。

聞き手・構成=西村健(山と溪谷オンライン)

ネット情報には残雪なんてなかったのに!

6月6日、中央アルプスの千畳敷から入山し、木曽駒ヶ岳に登った50歳の単独行男性が、下山中にルートを誤り、行動不能に陥った。当初は往路を戻るつもりだったが、思いのほか険しい道だったので、「そこを引き返すのは大変だな」と感じ、別ルートで降りることにしたのが誤りだった。登山道には残雪があり、また霧で視界もよくなかったため、途中で登山道を外れてしまったようだ。そのまま1時間ほど歩いたが、体感的には何時間も歩いているように感じられ、「今さら戻れない」と思い、そのまま進んでしまったという。3時半ごろになってとうとう進退窮まり、救助を要請。民間救助隊員が出動し、午後5時過ぎに男性を近くの山小屋に収容した。現場は駒飼ノ池付近であった。

男性は登山コミュニティサイトに投稿されていた記録を見て山行を計画したが、アップされていた写真は残雪のないものばかり。「あんな雪の斜面があると思っていなかった」と語っていた。

(『あなたはもう遭難している』より抜粋)

残雪のある6月の木曽駒ヶ岳・千畳敷を見下ろす(写真=きつね)
残雪のある6月の木曽駒ヶ岳・千畳敷を見下ろす(写真=きつね

――私たちが運営している「山と溪谷オンライン」にも登山記録の共有機能がありますが、ネットでは膨大な量の登山記録が公開されています。こうした情報は今や登山計画を作る際に当たり前のように検討材料にされていると思いますが、今回の残雪の事例以外にも遭難を引き起こす要因になることがあるのでしょうか。

本にも書きましたが、登山記録は「盛っている」人が多いんじゃないでしょうか。たとえば、「自分は体力があって標準タイムより早く歩けるんだ」とか「あの岩場もへっちゃらでぜんぜん怖くなかったよ」といったような「主観」や「誇張」を交えて書いている人がけっこう多いので、そのあたりを鵜呑みにしてしまうと怖いですね。文章は主観が入るけど、写真は参考にしやすいかもしれません。それでも、写真もアングルなどで印象がだいぶ変わります。そういう点では、写真も多少は主観が入りますね。

登山記録は主観的に書かれていることが多い(写真=PIXTA)

――登山記録を参考にしつつ、「主観」の部分に惑わされずに客観的に情報を得るコツってあるでしょうか。

同じコースでも夏と秋、冬では状況はかなり変わります。その山の同じ時期の同一コースの記録をいくつも見比べてみるっていうことは大事ですね。年によって違いはかなりあるので、地元自治体が発信している最新情報なんかを確認しておくことは大切ですね。最近はSNSやブログなどで情報発信している山小屋の小屋番さんも多いですし。そして、ガイドブックを見てみるっていうのがいちばんです。ガイドブックにはルートの状況や難度を把握するのに邪魔になるような主観は入っていないですから。

――最後に、遭難を防ぐために準備段階ですべきこと、そのポイントを教えていただけますか?

やるべきことはたくさんあります。このところ、疲労による救助要請がすごく多いんですよね。特に夏山シーズンに入って毎日のように疲れてもう動けなくなったとか足がつって救助要請したとか。そのコースを「今の自分の体力」で歩けるのかっていうことをちゃんと判断したいものですね。予定している行動時間を歩ききれるのかどうか、計画している標高差を上り下りできるかどうか。普段の山歩きで自分の現在の力量を把握して、本当に大丈夫なのかどうかを登山前に判断してほしい。

山にはリスクがつきもので、いつ自分が遭難してもおかしくはない。そういう心構えをもつことで、計画を立てるのも事前の準備も丁寧になるし、情報も一生懸命集めようとする。それがいちばんのポイントなんじゃないでしょうか。

――ありがとうございました。本書にはほかにもさまざまな遭難の事例と、それを「事前に」回避するためのヒントがたくさんまとめられているので、私も参考にさせていただきます。


あなたはもう遭難している 本当にあったびっくり遭難に学ぶ登山の超基本

あなたはもう遭難している 本当にあったびっくり遭難に学ぶ登山の超基本

羽根田 治
発行 山と溪谷社
価格 1,760円(税込)
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この記事に登場する山

東京都 / 関東山地

三頭山 標高 1,531m

 三頭山は自然豊かな美しい山。山頂付近は3つのピークからなる。主要登山口は「都民の森」として、登山者のみならず観光客も多く訪れる。  日帰りも可能であるが、できたら山麓の数馬に1泊してみたい。都民の森から登るコースのほか、笹尾根の西原峠から尾根通しに三頭山に登り、西にある鶴峠に下るコースもお勧め。そこには美しいブナ林が残っている。

長野県 / 木曽山脈

木曽駒ヶ岳 標高 2,956m

 中央アルプスの最高峰である駒ヶ岳は、伊那谷では西駒ヶ岳と呼び、東駒ヶ岳と称される甲斐駒ヶ岳と区別している。一方、木曽谷の人はこの山を木曽駒ヶ岳と呼び、現在はこの名が一般的になっている。山名の由来は、全国の駒ヶ岳がそうであるように、晩春に中岳から将棊頭山の山腹にかけて現れる駒の雪形によっている。  この山は山岳宗教の山として古くから登られており、天文元年(1532)に木曽上松の徳原春安という人が山頂に駒ヶ岳神社を建てたと伝えられている。近代登山の対象として登られたのは明治24年(1891)8月のW・ウエストンの登山で、友人とともに上松口から登頂、その著書に紀行を載せている。  山頂一帯はハイマツの緑のジュウタンが敷きつめられ、花崗岩砂の白さと見事なコントラストを描き出している。西に木曽前岳(2826m)、南に中岳(2925m)、さらに東には伊那前岳(2883m)を擁し、登山道は四方から集中している。3000mにちょっと欠けるが、その頂からの展望はすばらしい。日本アルプスの中央に位置しているだけに、北アルプスの山並みと乗鞍岳、そして目の前の御岳山、さらに伊那谷を隔てて大パノラマが楽しめる南アルプスと、見飽きることがない。  また稜線や山上湖の周辺では高山植物も多く見られ、イワウメ、イワギキョウ、アオノツガザクラ、タカネシオガマなど、色とりどりの花々が登山者を迎えてくれる。特に中央アルプスの特産種であるコマウスユキソウは、いわゆるエーデルワイスの仲間で、この山域でのみ見られる花である。  登山コースは四通八達しているが、ロープウェイを利用して千畳敷から乗越浄土、中岳を経て登頂するものがいちばん楽なコース(千畳敷から1時間30分)。次に新田次郎の小説『聖職の碑』の舞台でもあるクラシックな、桂小場(かつらこば)から将棊頭山を越えて山頂に至るコースは静かで、中央アルプスらしいムードを楽しめる(桂小場から6時間30分)。そのほか北御所登山口から(7時間弱)、宮田高原から伊勢滝を経て山頂に至るコース(7時間弱)などが伊那側からのルート。  一方、木曽側からは福島Bコース(山頂まで7時間弱)と、木曽側では最もよく利用されている上松コース(7時間弱)の2つがある(福島Aコースは、2025年に廃道が決定)。 いずれにしても、伊那、木曽いずれかの谷から山頂に至り、登りとは反対の谷に下山するようなコース設定をすれば、木曽駒ヶ岳の東西2つの顔と、伊那谷、木曽谷双方の雰囲気を楽しむことができる。

山岳遭難ファイル

多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。

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