熱中症寸前! 灼熱の飯豊山・お花畑と信仰の道

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読者レポーターより登山レポをお届けします。ケロケロさんは山形、新潟、福島の県境、飯豊山(いいでさん、2105m)へ。

文・写真=ケロケロさん


海の日の三連休はどこも猛暑で大変だったと思います。暑いことで有名な飯豊山はもちろん、とんでもなく暑かったです。

東北のラスボスといわれる飯豊山に挑むにあたって、暑熱順化のためジョギングなど自分なりにトレーニングを積みました。

前日に凍らせた2.5Lの水を積んで御沢(おさわ)野営場で車中泊。早朝の涼しいうちに登り始める計画です。

飯豊山 御沢登山口
御沢登山口。歴史ある表参道コース

1日目:御沢登山口~三国小屋~切合小屋

朝5時、御沢野営場を出発。林道を10分ほど歩いて登山口へ入ると、さっそく急な登りが始まりました。

湿度の高い樹林帯の尾根道で、1時間もしないうちに滝の汗。下十五里、中十五里、上十五里といいタイミングで休憩適地が現われるので、その度にザックを下ろして水を飲みました。

飯豊山 上十五里
上十五里

その名の通り、長くてつらい長坂を登りきって横峰で一息。ひとつ山を登り終えた気分ですが、まだ今日の行程の三分の一です。

緩やかに山腹を巻いていくと峰秀水(ほうしゅうすい)の水場があり、水汲みの列ができていました。後になって思えば、ここで水を汲んでおけばよかった。まさか3Lを飲みきって足りなくなるとは……。本当の灼熱地獄は、この後始まったのでした。

飯豊山 剣ヶ峰の岩場
剣ヶ峰の岩場

剣ヶ峰の岩場は思ったより長く、三国(みくに)小屋まで続きます。鎖はあるけど日陰はない。厳しい日差しに干涸びるような心地で、やっと三国小屋へたどり着いた時には暑さで参ってしまって1時間の大休止。小屋で購入したペットボトルのお茶はその場で飲みきってしまいました。

飯豊山 三国小屋から先の鎖場やハシゴ
三国小屋から先も鎖場など難所は続く
飯豊山 厳しい暑さの中のアップダウン
厳しい暑さの中、アップダウンがこたえる

三国小屋から宿泊予定の切合(きりあわせ)小屋まで約2時間。気持ちを切り替えて出立したものの、日陰の少ない稜線上の暑さは厳しく、種蒔山(たねまきやま)の手前で再びダウン。心拍数がなかなか下がらず、手足も少し痺れてくる始末。水は残り200mlとなってしまいました。

飯豊山 ヒメサユリの咲く道
ヒメサユリの咲く道。切合小屋まであと一息

40分の大休止でなんとか回復し、残り1時間の行程を歩ききりました。鎖やハシゴがあったり、東側が切れ落ちているザレ気味のトラバースが現われたりの道中、そこかしこに休んでいる人がいて、暑さでバテているのは私だけではないようでした。

切合小屋で飲んだビールのおいしかったこと! 間違いなく人生で最高の瞬間の一つでした。

飯豊山 切合小屋
雪渓の雪でキンキンに冷やされていたビール

2日目:切合小屋~飯豊本山~切合小屋

2日目、切合小屋の卵かけご飯と味噌汁の朝食を食べて出発、飯豊本山をめざします。雪渓が残っていて、私は歩き慣れないので下りには軽アイゼンを使いました。ひと登りすると草履塚(ぞうりづか)。昔はここで草履を履き替えたため、脱いだ草履が塚になっていたそうです。

飯豊山 雪渓
7月中は雪渓が残る
飯豊山 草履塚から大日岳方面の景色
草履塚から大日岳方面の景色

草履塚を下りきると、鞍部に姥権現(うばごんげん)がありました。女人禁制の飯豊山に登ろうとした女性が石に変えられてしまったという伝説の石仏。なんでそんな理不尽な、とオンバ様に同情しながら、登山の無事を祈ります。

飯豊山 姥権現
飯豊山 姥権現
姥権現。供えられた小銭に古銭が混ざっている

姥権現の先に鎖場の御秘所(おひそ)が現われました。剣ヶ峰より短い岩場ですが、切れ落ちて高度感は上。ここを草履で越えた昔の人はさぞ怖かったでしょう。そして最後の難関、ガレた登りの御前坂。朝の7時台ですが日差しがきつくて暑い……。

飯豊山 御秘所から御前坂へと続くトレイル
御秘所から御前坂へと続くトレイル。左奥が飯豊本山

御前坂を登りきると、あとは緩やかなお花畑のビクトリーロード。本山小屋の横に飯豊山神社の奥宮があり、さらに15分ほどで飯豊本山山頂に到達しました。眼下に広がる大絶景はまるで北アルプスのよう!

飯豊山 イイデリンドウ
イイデリンドウ。本山付近に咲いている
飯豊本山の山頂
飯豊本山の山頂

本山から御西岳(おにしだけ)方面へ足を延ばしてチングルマやニッコウキスゲのお花畑を満喫した後、切合小屋へ戻りました。

コバイケイソウ
コバイケイソウ
ニッコウキスゲ
ニッコウキスゲは御西岳の斜面に群生している
ミヤマウスユキソウ
マツムシソウ
ミヤマウスユキソウ、マツムシソウの群生もすばらしい

3日目:切合小屋~三国小屋~御沢登山口

来た道を下山するだけですが、剣ヶ峰を越えるまでの道のりが楽でないのは初日で身に染みています。少しでも涼しいうちに歩こうと、小屋の朝食をお弁当に変えてもらって朝5時に出発しました。

飯豊山 蔵王連峰からの御来光
蔵王連峰からの御来光

やっぱり1時間も歩くときつい日差しに滝の汗。切合小屋で汲んだ水は剣ヶ峰を下りるまでに半分以上を飲み切り、峰秀水の水場で汲み足しました。

峰秀水で汲んだ冷たい水のおいしかったこと! 初日に飲んだビールと同じくらい、生き返る心地でした。

(山行日程=2025年7月19~21日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム: 【1日目】6時間30分
【2日目】4時間40分
【3日目】5時間
行程:【1日目】
御沢登山口・・・下十五里・・・横峰・・・峰秀水・・・三国小屋・・・切合小屋
【2日目】
切合小屋・・・本山小屋・・・飯豊本山・・・本山小屋・・・切合小屋
【3日目】
切合小屋・・・三国小屋・・・峰秀水・・・横峰・・・下十五里・・・御沢登山口
総歩行距離:約19,800m
累積標高差:上り 約2,168m 下り 約2,167m
コース定数:58
アドバイス:御沢野営場は夏期シーズン中、夜間の入退場規制を行なっています。満車の場合は徒歩30分ほど下にある臨時駐車場となります。詳しくは喜多方市のHPへ。
ケロケロさん(読者レポーター)

ケロケロさん(読者レポーター)

散歩をするように山を歩いて、木々や草花の折々の姿や、生き物との偶然の出会いを楽しみたい。双眼鏡をぶらさげて、関東近郊の山をのんびり歩いています。

この記事に登場する山

福島県 山形県 新潟県 / 飯豊山地

飯豊山・飯豊本山 標高 2,105m

 飯豊連峰南部に位置する、この連峰の主峰であり、飯豊山または飯豊本山と呼ぶ。福島県耶麻郡山都町(現在は喜多方市山都町)が山形・新潟県境に細長く割り込んだ飛地。実際には、山形県西置賜郡小国町と新潟県東蒲原郡鹿瀬町(現在は東蒲原郡阿賀町)との境に位置する。  山頂は花崗岩の露岩に覆われ、一等三角点が置かれる。その東500mには飯豊山神社が祭られ、飯豊山頂小屋が建つ。連峰の最高峰は大日岳に譲るものの、その風格と歴史において、やはりこの山が盟主である。  山頂に祭られる飯豊山神社は、一説に役ノ小角の開山といわれるが、江戸時代から信仰登山の対象として開かれた。当時の登山は「飯豊詣」と呼ばれ、8月の1カ月間に限って14歳前後の若者を伴って3日3晩の間、先達の指導で山に篭る。白装束に身を固めて水ごりをとり、山頂神社でお札を授かり、奥ノ院である大日岳まで遥拝したといわれる。いわば成人の儀式であった。  それ以外の期間は、修験者にのみ許された山であった。現在でも残る地名(草履塚や御秘所など)や古銭が道端で発見されるのは、古くから行われていた信仰登山を物語っている。当然、女人禁制の山であった。飯豊山神社の神は女神であるため、女性が近づくとやきもちをやいて、その女性を石にしてしまう、という言い伝えがある。  夏でも方々に広がる豊富な残雪や多くの高山植物は、飯豊連峰の大きな魅力となっている。特に御前坂付近から本山にかけての高山帯には、さまざまな高山植物が咲き競う。そして本山からの主稜線は急坂から一転してのびやかな高原状の散歩道に変わる。本山はその境界の山でもある。  メイン登山コースは4コースある。いずれのコースも健脚であれば1日で本山に到達することも可能であるが、通常は途中の切合(きりあわせ)小屋などで1泊する。山都口は、古くからの登山コースで、途中、三国小屋、切合小屋、それに本山小屋の3軒が整備されている。川入登山口より切合小屋経由で飯豊本山まで所要9時間。バリエーションとして弥平四郎コースがあり、三国岳で川入コースと合流する。本山までの所要時間は10時間。  飯豊本山へのダイレクトコースとしてダイグラ尾根コースがある。中級向であるが、一気に標高差1500mを登るのは、苦しいものの豪快な登山を楽しめる。飯豊温泉(長者原)より11時間を要する。大日杉コースは、登山口にも山小屋が整備され、比較的取り付きやすいが、所要時間は切合小屋経由で9時間を要する。

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