絶景の裏銀座から静かなる竹村新道を越え、湯俣温泉へ

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読者レポーターより登山レポをお届けします。naobonさんは夏の北アルプス、裏銀座から竹村新道を2泊3日で縦走しました。

文・写真=naobon

1日目:高瀬ダム⇒ブナ立尾根⇒烏帽子小屋

裏銀座ルートの高瀬ダム登山口から登り始めます。ブナ立(ぶなたて)尾根は、登山口から烏帽子(えぼし)小屋までの標高差1300m、日本三大急登の一つです。登山道は大変よく整備されていて、ブナが生い茂り、心地よい風が通り抜ける素敵な道でした。12番からスタートし、烏帽子小屋まで1番ずつ確認しながら歩けるのも、励みになります。森林限界を越えると、高山植物が彩りを添え始め、1日目のゴール、烏帽子小屋に到着です。

12番登山口
登山口=12番からのスタートです
眼下に高瀬ダム
眼下に高瀬ダム。思えば高くに来たもんだ

烏帽子小屋の前には、満開のイワギキョウが咲き乱れていました。2024年に創立100周年を迎えた烏帽子小屋は、北アの要衝に立つ歴史ある小さな山小屋で、木のぬくもりと心遣いに満ちあふれた、大変快適な小屋でした。稜線の山小屋はこの夏は深刻な水不足で、ペットボトルの水も売り切れ、天水も制限されていました。(ちなみに水以外のペットボトルや缶ビールはキンキンに冷えていて大変美味でした。)この日は翌日の長丁場に備え、早めに就寝します。

イワギキョウのお花畑
イワギキョウのお花畑
100周年ステッカー
100周年ステッカー

2日目:烏帽子小屋⇒野口五郎岳⇒真砂岳分岐⇒竹村新道⇒湯俣温泉

朝食後、5時に小屋を出発しました。小屋前からは赤牛稜線のモルゲンロートを、小屋近くの展望台からは朝日と雲海をのぞむことができました。チングルマに朝露がこぼれます。

赤牛稜線のモルゲンロート
赤牛稜線のモルゲンロート
表銀座からの朝日と雲海
表銀座からの朝日と雲海
チングルマ
朝露で潤うチングルマ

烏帽子小屋のテン場を過ぎ、三ツ岳(みつだけ、2845m)へと向かう砂礫地では、高山植物の女王といわれるコマクサが見頃を迎えていました。前方の峰々に目を向けると、槍ヶ岳がその雄姿を見せてくれます。ここからは、燕岳から連なる東鎌尾根(ひがしかまおね)の稜線と、ひときわ厳しい北鎌尾根の稜線の両方を目にすることができました。さらに、来た道を振り返ると、後方には立山・雄山(たてやま・おやま)から五色ヶ原(ごしきがはら)、薬師岳(やくしだけ)に連なる稜線が望めます。まさに北アの主脈稜線に囲まれた裏銀座ならではの雄大な風景が広がります。

コマクサの群落の先に槍ヶ岳
コマクサの群落の先に槍ヶ岳が見えた!
裏銀座稜線歩き
裏銀座稜線歩き

さらに、野口五郎小屋の手前では、雷鳥さん親子3組に、順次出会うことができました。いずれも親子1羽ずつのペア。子供を探しているのか、時折「クウクウ」と切ない鳴き声を上げていました。

雷鳥
ハイマツからの雷鳥さん

予定より少し遅れて8時50分ごろに野口五郎(のぐちごろう)小屋に到着。ルート上にはこの先営業小屋はないので、ここでしっかり補給します。デザートには小屋特製のフルーツゼリー。これが最高においしく、山行の活力となりました。

野口五郎小屋
稜線のオアシス野口五郎小屋
野口五郎小屋特製のフルーツゼリー
小屋特製デザート

心も体も満たされて、山行再開です。10分ほど歩きたどり着いた野口五郎岳山頂には、多くの登山客がいて、とてもにぎやかでした。野口五郎岳からは水晶岳(すいしょうだけ)の双耳峰や、そこからつながる読売新道(よみうりしんどう)の稜線が望めました。野口五郎岳山頂から20分ほど下ると真砂岳(まさごだけ)分岐に到着。いよいよ竹村新道へ入ります。烏帽子小屋から真砂岳分岐まで約5時間、この日の全体コースタイムのようやく半分です。ここからは、にぎやかな裏銀座とはうって変わって、入る人がほとんどいない静かな道となります。先行者は1組のみ、気持ちを引き締めて一歩を踏み出します。

真砂岳分岐
真砂岳分岐。今日のメインルートに入ります

竹村新道は、足元がザレていたり、時折切れ落ちていたりと、緊張が続きますが、稜線上のお花畑が気持ちを和ませてくれます。真砂岳分岐から約1時間15分で南真砂岳山頂に到着です。山頂からは、独特の存在感のある硫黄(いおう)尾根、その右側にはワリモ岳、鷲羽岳(わしばだけ)の稜線が見えました。振り返ると通ってきた真砂岳、野口五郎岳がまるで見守るかのようにそびえます。しばらく風景を楽しんだあと、さらに先を進みます。

南真砂岳山頂からの風景
南真砂岳山頂からの風景
片側が切れ落ちた登山道
片側が切れ落ちた登山道

南真砂岳から湯俣岳(ゆまただけ)までは約2時間の道のりです。片側が切れ落ちた道を下り、森に入り、鞍部を越えて、湯俣岳に向けて登り返します。湯俣岳山頂で小休憩後は湯俣温泉に向けてどんどん高度を下げていきます。森を抜け、眼下に川まで見下ろせる切れ落ちた崖に出ました。目を凝らすと、イスラムのモスクのような形状をした「噴湯丘」がはるか下に見えました。

噴湯丘
眼下に見えた噴湯丘をズームで

そのまま下降を続け、16時前に、ようやく本日のゴール、湯俣温泉晴嵐荘(せいらんそう)に到着です。朝5時に烏帽子小屋を出てから約10時間強の山歩きでした。小屋の前では、登山者のほか高瀬渓谷(たかせけいこく)を歩いてきたキャンパーなどさまざまな人たちが、のんびり自分の時間を過ごしています。まずは晴嵐荘の内湯で、山歩きの疲れを癒します。晩御飯はハンバーグシチュー。北アの稜線ではカレーを食べてきているだろうから、との小屋のご主人の粋な心遣いです。デザートは高瀬ダムをイメージしたゼリー。温泉の湯と温かい食事で心身共にリラックスし、ゆっくり休むことができました。

湯俣温泉晴嵐荘
湯俣温泉晴嵐荘到着
湯俣温泉晴嵐荘の内湯
疲れを癒やした内湯

3日目:湯俣温泉⇒(伊藤新道入り口経由)⇒高瀬ダム

3日目は、晴嵐荘での朝食後、昨年復活した伊藤新道の入り口に寄り道をしてから、下山口の高瀬ダムに向かうことにしました。晴嵐荘から川を渡るには「ジップライン」を利用します。(徒渉は水量が多く無理でした)今回の山行で、これが一番緊張したかもしれません。幸い宿のご主人が乗り場でコントロールしてくれたので、無事に渡ることができました。

ジップライン
最大の難関ジップライン。なかなかスリルあります

伊藤新道の入り口にある吊り橋のたもとには、なんと、槍ヶ岳(やりがたけ)の北鎌尾根(きたかまおね)の取りつきが。どうみてもその先は崖で、一般登山者には登山道は見つけられませんでした。北鎌尾根の厳しさを感じます。

槍ヶ岳の道標
吊り橋手前の槍ヶ岳の道標
噴湯丘
河原の先に噴湯丘

吊橋を渡り、神社の鳥居を横目に、河原に下ります。河原を進むと、川のはるか向こうに、白い噴湯丘が見えました。なんとも不思議な光景です。今の季節は水量が多く、徒渉はとても難しいため、遠くから眺めるにとどめます。河原には、黒部の山々などから流れ着いた、さまざまな色や形状をした石がゴロゴロと転がっています。どこからきたの?と石に語り掛けたくなる気持ちになりました。

登山道を引き返し、昨年再開した湯俣山荘のきれいな建屋を通過し、高瀬ダムに向かいます。鳥や蝉の鳴き声を聴き、季節を感じて森林浴をしながら歩ける、とてもよい道でした。秋には紅葉もみごとだそう。昨日は稜線から高瀬ダムを眺めていたのが、不思議な感じがしました。歩くこと3時間、高瀬ダム入り口に無事到着。少し待ちタクシーに乗車し、七倉まで戻りました。北アの静かな山道を満喫した、大満足の3日間の山旅でした。

高瀬渓谷の道
高瀬渓谷の道

(山行日程=2025年8月2~4日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム:【1日目】7時間30分
【2日目】9時間32分
【3日目】2時間30分
行程:【1日目】
七倉山荘・・・高瀬ダム・・・ブナ立尾根登山口・・・権太落し・・・中休み・・・三角点・・・烏帽子小屋
【2日目】
烏帽子小屋・・・三ッ岳北峰・・・野口五郎小屋・・・野口五郎岳・・・竹村新道分岐・・・南真砂岳・・・湯俣岳・・・槍見石展望台・・・湯俣温泉晴嵐荘
【3日目】
湯俣温泉晴嵐荘・・・高瀬ダム
総歩行距離:約309,000m
累積標高差:上り 約3,082m 下り 約2,871m
コース定数:77

関連リンク

naobon(読者レポーター)

naobon(読者レポーター)

東京都在住、神戸市出身。夏山シーズンは日本アルプスの稜線縦走を、冬は低山・里山ハイキングや山城巡りを、気ままに楽しんでいます。山行後の温泉とビールにこの世の極楽を感じる、週末ハイカーです。

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