【書評】驚きと納得がぎっしり詰まった本『日本の美しい 地形・地層図鑑』
評者=小林千穂
青から赤へグラデーションを伴いながら鮮やかに色を変える岩肌、一直線に立ち並ぶ奇妙な岩の柱、青い海からかわいらしい頭を出すキノコのような岩。ページをめくるごとに、「日本でこんな景色が見られるの?」という驚きの風景が目に飛び込んでくる。さらに、私たち登山者にもなじみの深い北アルプスや南アルプス、阿蘇山、蔵王、谷川岳などの山も数多く登場して興味を誘う。
自然が創り出す圧倒的な景色を目にした時、「どうやってできたのだろう」と気にはなりつつも、調べる手間を惜しんだり、調べたとしても解説が難しかったりして、疑問を残したままにしてしまうことが多い。でも、そこでとどまらずに一歩踏み出すと、魅力的な地形や地質の世界が広がってくる。
本書の楽しいところは、美しい景色に驚いてページをめくれば、そのすぐ後ろで、地質初心者にもわかりやすいイラストと文章によって、成り立ちを解説してくれていること。驚きと納得、そして長年の疑問が解決されるスッキリ感を味わいながら、日本中のさまざまな景色に出会える。
あらためて本書を見てみると、そこに紹介されている景色は、標高3000mを超える高山から河川、海岸線、そして地下や水中に至るまで、日本のあらゆる場所に及んでいる。また、大陸にある大山脈を空撮したものと見間違えそうな荒崎海岸の地層や、朝夕の雲海に浮かぶ山々のような室戸岬のタービダイト(深海底でつくられた地層)のように絵画的に美しく、ドラマチックな写真も多く使われている。
掲載されている写真の一枚一枚は、地形の美しさを引き立て、かつ特徴がわかりやすいように、条件が整う時間帯や光線をねらって、ていねいに撮影されたものだ。そこからは、「時空を旅しているような壮大な気分」を、「広く一般の方と共有したい」という著者・竹下さんの熱い思いが伝わってくる。私たちはリビングでくつろぎながら、本書を開くことで、まるで現地で竹下さんの解説を聞いているかのようなリアル感をもって、日本中を「旅」できるのだ。
そして、何枚も重ねたマットレスを二つに折ったような和歌山のフェニックス褶曲、大きな六角形の模様が海岸に続く久米島の畳石など、不思議な景色を見ながら、夢中になって読み進めるうちに「自分もこの景色を実際に見てみたい」と思うようになる。
フィールドも訪れてほしいと考えている竹下さんは、それぞれの写真に撮影場所を記しているだけでなく、その中のいくつかにはアクセスガイドが添えられている。
この本から得た知識をもとに各地を訪れたら、きっと見える景色も変わってくるだろう。そして、数々の出来事を刻んでいる日本の自然がより好きになるに違いない。

日本の美しい 地形・地層図鑑
| 著 | 竹下光士 |
|---|---|
| 監修 | 高木秀雄 |
| 発行 | エクスナレッジ |
| 価格 | 1,980円(税込) |
竹下光士
1965年生まれ。地形写真家。著書に『ジオスケープ・ジャパン』『槍・穂高・上高地 地学ノート』(ともに山と溪谷社)など。
高木秀雄
1955年生まれ。早稲田大学名誉教授。理学博士(名古屋大学)。専門は構造地質学。著書に『年代でみる 日本の地質と地形』(誠文堂新光社)などがある。
評者
小林千穂
地形や地質、植物などの自然観察が好きな山岳ライター。最近はジオ的な視点で登山を楽しんだり、各地の景勝地を訪ねたりしている。大地の成り立ちをひもとくNHKの旅番組「ジオ・ジャパン 絶景100の旅」に出演中。
(山と溪谷2025年8月号より転載)
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