ゆっくり小屋泊で行く裏銀座

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読者レポーターより登山レポをお届けします。かぐや姫さんは北アルプス・裏銀座エリアを3泊4日で縦走。

文・写真=かぐや姫

1日目:新穂高温泉~わさび平小屋

新穂高温泉から高瀬ダムまで、いわゆる裏銀座エリアを縦走した。水晶小屋から先、高瀬ダムへは初めて歩く縦走路だった。

真夏日の新穂高温泉
真夏日の新穂高温泉

初日は、新穂高温泉を昼過ぎに出発し、わさび平小屋まで。新穂高でも気温が30℃あり、途中の風穴で涼みながら足慣らしした。

お助け風(風穴)
ところどころにあるお助け風(風穴)

わさび平小屋は、お風呂はあるし、トイレは温水洗浄便座だし、食事も充実していて、なんだかペンション並み。暑くて寝苦しい以外は快適だった。

わさび平小屋
わさび平小屋

2日目:わさび平小屋~双六岳~三俣蓮華岳~三俣山荘

2日目から本格的な登山となる。4時30分に朝食をいただき、5時半ごろ出発。

初めは林道歩きだが、小池新道に入ると登りがきつい。急登もさることながら、やはり、この暑さと日差しがつらい。こう猛暑だと、高山に来た感じがしないし、なんだか雲が湧きだすのも早い気がする。鏡池では槍穂高連峰を見ることができたが、10時くらいには雲に隠れてしまった。

鏡池に映る槍穂高連峰
鏡池に映る槍穂高連峰

双六(すごろく)小屋で昼食をとり、双六岳へ登る。2日目最後の山場だった。天空の滑走路はガスに覆われ視界不良だったが、ライチョウにたくさん会えたのはよかった。群れでのんびりしてるところに人が入り込んだためか、カエルのような鳴き声で警戒していたようだ。

視界不良の天空の滑走路
視界不良の天空の滑走路
双六岳でライチョウの群れに遭遇
双六岳でライチョウの群れに遭遇

その後、丸山、三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)とピークを越え、三俣山荘に到着した。夕食は鹿肉を使ったジビエシチューだった。

3日目:三俣山荘~鷲羽岳~水晶岳~野口五郎小屋

3日目も小屋で朝食をいただいて出発する予定だったが、雨の予報が昼過ぎに早まったので、弁当に変更して3時半ごろ出発した。

三俣山荘で撮影した星景
出発前に星景を撮影

さっそく、鷲羽岳(わしばだけ)のピークに向けて標高を上げていく。初め雲に隠れていた槍も姿を現わし、北鎌尾根のギザギザも見えてくる。鷲羽に来ると、北鎌への憧れを強くする。

出発から1時間くらいで、ヘッドランプがいらないくらいに明るくなった。日の出前に山頂へ着き、御来光を拝むこともできた。これから向かう水晶岳(すいしょうだけ)も、大きな黒い影で存在感を示している。

薄明の水晶岳
薄明の水晶岳
鷲羽岳山頂からの朝焼け
鷲羽岳山頂からの朝焼け

それにしても、日の出の時間帯の山頂なのに、風もなく、全然寒くない。本当に、北アルプスが暑い。

朝陽を右に見ながら縦走を進めていく。左側にはガスがあり、長いことブロッケンも見られた。

ブロッケン
3日目の朝はブロッケンがよく見られた

水晶小屋で弁当を食べたのち、水晶岳へアタック。鷲羽岳から花崗岩が多くなるが、水晶岳あたりは黒っぽいものがよく見られる。黒岳という別名も納得がいく。

山頂からは赤牛岳(あかうしだけ)へ続く稜線・読売新道がよく見え、こちらも歩いてみたくなる。が、本日は小屋へ引き返し、一息入れたら、3日目最後の目的地・野口五郎岳(のぐちごろうだけ)をめざす。

水晶岳から読売新道・赤牛岳を望む
水晶岳から読売新道・赤牛岳を望む

水晶小屋から野口五郎岳へはゆるやかな稜線歩き。昼過ぎの雨が現実になるかのように、雲がどんどん増していく。眺望がなくなるのは残念だが、暑い日差しがさえぎられるので、うれしい面もある。

初めて訪れる野口五郎岳は、広くてなだらかな、白亜の山容で、独特の雰囲気があった。ピークを越えると、やがて、本日泊まる野口五郎小屋に至る。

野口五郎小屋
3日目宿泊する野口五郎小屋

正午過ぎに到着したので、小屋の人が少し驚いていたが、温かく迎えてくれた。昔ながらの山小屋らしい山小屋で、スタッフのみなさんの人情も心地よかった。宿入りしてしばらくすると、雨や雷が。早い出発、早い到着が奏功した。

雨はいったん夕方に上がったものの、雲が多く、夕焼けは望めなかった。今回は3日とも夕焼けには縁がなかった。夜8時過ぎに星空を見たら、天の川が流れていた。ガスったり晴れたりを繰り返すので、写真を撮るのは難儀だった。

野口五郎岳上空の天の川
野口五郎岳上空の天の川

4日目:野口五郎小屋~烏帽子岳~高瀬ダム

いよいよ最終日。朝食のおにぎりと味噌汁をいただき、雨上がりの霧のなか出発。次第に晴れてきて朝陽も望むことができた。

三ッ岳(みつだけ)を越え、烏帽子岳(えぼしだけ)へ向かう今回の縦走のクライマックス。気持ちいい稜線歩きが楽しめる。花崗岩の巨岩・奇岩がいたるところに見られ、もう花は終わっていたが、砂礫の地面にはコマクサの群生も見られた。

花崗岩のシルエット
花崗岩のシルエット

東側には表銀座、西側には読売新道の稜線が並行して走っている。前日に分岐を通った伊藤新道や竹村新道も気になるし、魅力的な登山道がたくさん見られ、縦走路を歩くと、ますます縦走したくなる衝動に駆られる。

烏帽子小屋まで来ると、久々の樹林帯に戻る。ずっとハイマツ帯だったがダケカンバやカラマツが姿を現わした。

小屋で休憩した後、最後のピーク・烏帽子岳へ向かう。文字通り烏帽子のように天を衝く姿は、かなりかっこいい。巨大な花崗岩をよじ登ると、圧巻の山頂であった。三六〇度の景色もいいが、眼下の池塘などが箱庭のように見えるのもきれいだった。いつか、烏帽子より先、船窪(ふなくぼ)のほうへも足を延ばしたくなる。

烏帽子岳
天を衝く烏帽子岳

烏帽子小屋からは、北アルプス三大急登に数えられるブナ立尾根を下っていく。下山だと、まったく登り返しがない、下り一辺倒の尾根だった。尾根の取り付きまで12の番号がふってあるのはありがたい。

鬱蒼としたブナ立尾根
鬱蒼としたブナ立尾根を下っていく

だんだん標高が下がってきて、ダム周辺で重機が作業する音や、ミンミンゼミの声が聞こえてくると、長かった縦走ももう終わり。さびしさがこみ上げてくるものの、また登りに来ようってすぐ思えるから、山は不思議である。

高瀬ダムからはタクシーでふもとに下り、大町温泉の湯けむり屋敷・薬師の湯(750円)で汗と汚れとにおいを流し、信濃大町駅から大糸線で松本駅へ向かった。

(山行日程=2025年8月23~26日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:3泊4日
コースタイム: 【1日目】1時間17分
【2日目】8時間50分
【3日目】7時間21分
【4日目】8時間
行程:【1日目】
新穂高温泉駅・・・笠新道登山口・・・わさび平小屋
【2日目】
わさび平小屋・・・小池新道登山口・・・秩父沢出合・・・シシウドが原・・・鏡平山荘・・・弓折乗越・・・双六小屋・・・双六岳・・・三俣蓮華岳・・・三俣峠・・・三俣山荘
【3日目】
三俣山荘・・・鷲羽岳・・・ワリモ北分岐・・・水晶岳(黒岳)・・・水晶小屋・・・東沢乗越・・・竹村新道分岐・・・野口五郎小屋
【4日目】
野口五郎小屋・・・三ッ岳北峰・・・烏帽子小屋・・・山頂分岐・・・烏帽子岳・・・山頂分岐・・・烏帽子小屋・・・三角点・・・中休み・・・権太落し・・・ブナ立尾根登山口・・・高瀬ダム
総歩行距離:約37,500m
累積標高差:上り 約3,654m 下り 約3,490m
コース定数:96
かぐや姫(読者レポーター)

かぐや姫(読者レポーター)

13年前、友人に誘われて日帰りで槍ヶ岳に登ったのが、登山にのめり込んだきっかけです。奥穂・西穂縦走や奥秩父主脈縦走を踏破。厳冬期の西穂や爺、残雪期の槍にも登頂しました。ハードな登山も好きですし、写真を撮りながらの登山も好きです。

この記事に登場する山

長野県 岐阜県 / 飛騨山脈北部

双六岳 標高 2,860m

 双六岳は双六谷の源頭にあたり、ゆったりした高原状をなして北の三俣蓮華岳へと続く。  この双六岳と樅沢岳の鞍部に双六小屋があり、三俣蓮華岳方面、槍方面、笠方面からの縦走路の会する所で、北アルプスの要衝となっている。小屋の下にある双六池は常に水をたたえ、池畔は快適なキャンプ場である。  双六岳へは、昔は金木戸川から双六谷をつめて登るのが唯一のルートであったが、昭和30年、当時の双六小屋経営者、小池義清氏によって、ワサビ平から大ノマ乗越経由の小池新道が開発され、その後さらに、秘境鏡平経由の道が整備され、これが本ルートとなっている。新穂高温泉から鏡平、双六小屋経由で8時間。  双六岳の山頂へは、双六小屋からハイマツの急坂を登ることになるが、縦走路から外れているためいつでも静けさを保っている。

富山県 / 飛騨山脈北部

水晶岳 標高 2,986m

 北アルプスの中央部、最奥の稜線上にそびえる岩峰。裏銀座縦走路の赤岳(水晶小屋)で主脈から北方に分岐し、赤牛岳へ続く稜線の途中にある。双耳峰で三角点のない頂は3000mを超えていると言われることもある(実際には2986mらしい)。  東側は黒部川支流の東沢が流れ、針峰状の側壁に囲まれた急峻なカール地形。西側は岩苔小谷に急崖が雪崩落ち、山麓の樹林の中に水晶池が光っている。  水晶岳とは美しい名で、下ノ本型花崗岩に水晶や柘榴石の結晶が見られるためである。さらに明るい山稜の中で、この山だけが黒っぽい岩塊なので「黒岳」とも呼ばれている。なにしろ奥深い山なので直接登るコースはなく、2泊3日が最低日数となれば登山者も少なくなる。水晶岳を経由して赤牛岳から奥黒部ヒュッテへ下る読売新道は、静かなアルプス最奥の山旅を楽しめるルートとして知られている。  登山口の1つは新穂高温泉。双六岳、鷲羽岳を経て赤岳(水晶小屋)まで所要12時間。大町市から入る烏帽子岳からの裏銀座コースは高瀬ダム上から歩き出し、烏帽子岳、野口五郎岳、東沢乗越を経て赤岳まで所要11時間30分。赤岳から分岐して水晶岳まで40分。

富山県 長野県 / 飛騨山脈北部

野口五郎岳 標高 2,924m

 後立山連峰から延々と延びてきた主稜線が烏帽子岳に続き、さらに裏銀座コースとして南下する途中にずっしり、わだかまるようにそびえるのが野口五郎岳。東は高瀬川、西に東沢の谷が深々と流れ、水晶岳、赤牛岳の稜線と平行して、東沢乗越の先で合流する。  山頂部は新期花崗岩の岩塊と風化砂礫とでまぶしいくらい明るい。  北側は舟窪状の凹地で野口五郎小屋があり、南へ行った真砂岳(2862m)の先から湯俣に下る竹村新道が分かれている。  野口五郎という名は、岩のごろごろ散乱している地形を「ゴーロ」と呼ぶので、「野口のゴーロ岳」という意味である。  直接の登山道はなく、裏銀座コースを縦走するか、竹村新道を登れば最短距離になる。  登山口の高瀬ダムから烏帽子小屋経由で所要9時間。

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