
【インタビュー・中村浩志】ライチョウの命をつなぐ、自然と人が共に生きる未来のヒント
高山の稜線に静かに生きる神の鳥──ライチョウ。気候変動や環境悪化の影響を大きく受けながらも、地域絶滅の危機から奇跡の復活を遂げたプロジェクトがあります。中央アルプスを舞台にわずか5年で成功したその背景には、60年に渡る研究者の情熱がありました。漫画家・鈴木ともこさんが、プロジェクトの中心人物である中村浩志先生(信州大学名誉教授)に迫ります。
写真・文=岡山泰史
中央アルプスのライチョウがわずか5年で1羽から200羽に増えたわけ
公式サイト https://suzutomo1101.com/
鈴木:中央アルプスでライチョウを見たとき、感激して。先生の本『甦れ!神の鳥ライチョウ』を読んで、ますますライチョウを知りたくなりました。
中村:中央アルプスは今、日本で一番手軽にライチョウに会える山になっています。ロープウェイもあるし、登山初心者でも見られる環境。でも、それだけに人との距離が近すぎる面もあります。約50年前の調査で地域絶滅したことが確認され、2014年まではゼロでしたが、今、中央アルプスにライチョウは増えて、200羽近くいます。
鈴木:すごいですね。ロープウェイがあるだけに、初心者の方にもおすすめですね。
中村:中央アルプスの困ったことはね、日本で一番手軽にライチョウに会える山になってる。でも、もう、もう満杯の状態。
鈴木:たった5年で。先生にとって「復活させる」と決意した時に思い描いていたゴールのような状況ですか?
中村:予想通り。
鈴木:一番の成功の鍵は?
中村:それはね、私の信州大学の恩師、羽田健三先生が退官するまで30年間、ライチョウの研究をされたんです。で、僕が50歳過ぎてライチョウの研究を再開してね、25年近くやってますから。日本のライチョウのことはもう全て研究し尽くした。
鈴木:もう知らないことはないと言い切れるくらいなんですね。
中村:ええ。もうできることは全て研究し尽くした。ですからね、その2代にわたる、ライチョウに関する研究成果がありますから。最も効率よく復活できたんです。
人を恐れないライチョウは日本文化の証
中村:2012年にライチョウの国際会議を松本で開いたんです。世界にはライチョウの仲間の研究者が300人ほどいてね。3年にいっぺん各国から集まるんです。
で、3日間の会議の後、参加者は乗鞍岳とか木曽駒ヶ岳ほか、3つのグループに分かれてライチョウを見に行ったんです。彼らがいちばんびっくりしたのはね、日本のライチョウは人を恐れない。
鈴木:ああ、そうですよね。
中村:外国ではね、ヒナを連れてるメスの家族に人が近づいたら、メスが警戒して、いわゆる「偽傷行動」(怪我したふりをして、天敵をヒナのいる巣から離す行動)を始めるんです。ところが日本では、本当に目の前に近づいても、全然、恐れないっていうのは、世界のライチョウの研究者にとっては信じられないぐらい。
鈴木:登山道で羽を使って砂浴びするライチョウを見ると、人のほうが道を譲るほど(笑)。
中村:そう、だからライチョウにとって、日本ではずっと狩猟の対象にならずに守ってきたから、「人は安全だ」ということが親から子に代々伝わってきたんです。
鈴木:それは誇らしいことだと思います。逆にもしライチョウが今、人間によって怖い目に遭ってしまったらそこが崩れるという影響は?
中村:いや、それがね、簡単に崩れない。僕が、調査地のライチョウをほとんど全個体を捕まえて、足輪を付けて、色の組み合わせで一個体一個体、識別できるようにして調査してるんですけど、一旦捕まってもね、特にそのあとも警戒することはない。なかにはそういう個体もいますけど。
ほとんどの個体は、捕まって足輪をつけられて、体重を測られて、なんか不思議なことされてるけど。そのあと離してやったら、特に警戒心を増すことはないんです。
鈴木:なるほど。だから人間は、怖い存在ではないと。
中村:はい。日本のライチョウでは、もう文化として確立されてるんですね。しかし、天敵の猛禽とかキツネに対してはものすごく警戒をします。
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