奇峰・天狗の踊り場をめざして加波山バリルートへ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

読者レポーターより登山レポをお届けします。スラ男さんは茨城県の低山、加波山(かばさん、709m)へ。

文・写真=スラ男


茨城県桜川市および石岡市にある“天狗の山”として知られる加波山へ行ってきました。名峰・筑波山(つくばさん)から北に連なる「筑波連山」を構成する一座で、古くは「神場山」などと呼ばれ、関東一円から信仰を集めています。辺り一帯は御影石(みかげいし)の産地で、麓では石材店が多く見られます。こうした風景から山と里との営みが読み取れることが低山歩きの醍醐味といえましょう。

加波山麓の石材店
町を歩いているとあちらこちらに石材店があった

JR岩瀬駅からヤマザクラGO(バス)に乗って、東飯田バス停で下車。スタート地点である花の入公園をめざします。ちなみにバスのアナウンスは桜川市出身の歌手・声優、櫻川めぐさんが務めているそう。こういう地域性もグッとくるものがあります。

公園には駐車場があるので、マイカー利用も可能です。今回ぼくが歩くのはバリエーションルートという一般向けではない登山道。筑波山のように人でごった返しているなんてことはありません。公園から林道を進んでいき登山道へ入りますが、もちろん案内板や道標といった類は一切ないので、現在地のわかるGPS機器などは必携です。

花の入公園
今回のバリルートの起点である花の入公園

訪れた9月は羽虫、クモ、スズメバチ、カエル、ヘビ、トカゲといった生きものたちが活発に動いている季節です。特にバリルートなので、メマトイやジョロウグモが常に視界に存在しており、対策は必至です。その事前情報を受けて、ぼくは防虫ヘッドネットを準備していきました。これが大活躍。

加波山の登山道
道は明瞭だが、季節がら昆虫や小さな生きものたちが行く手を阻む

やがて沢に合流すると、その奥から一枚の巨岩をナメるように落ちてくる一枚岩滝と対面しました。秘境の奥地で宝物を発見した。そんな感覚を味わいながら、このナメ滝を独り占めです。滝を上からのぞき込むと、まるでウォータースライダーのよう。これは滑ったら一巻の終わりですね……。

一枚岩滝
一枚岩滝
巨岩を滑るように流れる一枚岩滝

さて、一枚岩滝を遡行していくと、左手奥にロープが張られているのが見えます。実はこれ、“行き止まり”の印ではありません。このロープを伝って“滝を渡る”のです。足元はツルツル滑るので、グリップをしっかりと効かせて……なんとか渡り切りました。短い区間ですが、冷や汗ものです。こういうバリルートは生きものが静かになる冬がいいとはいいますが、凍結には注意ですね。

滝を渡るロープ
滝を渡るロープ・アトラクション!

一枚岩滝のすぐ上部にある赤テープをたどって、次は巨石地帯のクライミングです。生い茂る木々により、この辺りのルート確認が難しく、若干強行突破でよじ登りました。

巨岩
門のような巨石の奥にある赤テープをたどる

ロッククライミングの途中で、すっぽりと巨石の中に空間がありました。四方を巨石に囲まれたこの場所は、もしかしたら修験の場かもしれませんね。なんたって加波山は天狗のすむ山ですから。

巨石の小部屋
行き止まりではあるが、ぜひ立ち寄りたい巨石の小部屋

さらに巨石をよじ登っていくと、林道手前に「天狗の踊り場」と呼ばれる奇峰がありました。これだ! とつい気が高ぶり、岩の上に立って叫んでしまいました。過去のレポートを見ると、向かいの岩の上に紙垂(しで)が取り付けられていたようですから、ここが神聖な場だということがわかります。これまでの道中にも山岳信仰の石碑がいくつか見られましたから、かつては修験の道として多くの「天狗」が歩いていたのかもしれませんね。

天狗の踊り場
天狗じゃなくても心が躍る絶景の「天狗の踊り場」

天狗の踊り場から林道をたどって加波山をめざします。燕山(つばくろさん、つばめさん)を経由しても行けるみたいですが、昆虫対策がしんどすぎるのでエスケープ。表参道(親宮道)に合流して間もなく見えた神社はなぜか二社隣り合っています。実は加波山には管理の異なる複数の神社が混在していて、非常にわかりづらいのです。豪華なほうと質素なほう、というのが一番わかりやすい分け方かもしれません。

加波山神社親宮の御本殿
加波山神社親宮の御本殿。すぐ近くには世にも珍しいたばこの神社も

親宮からお次は中宮をめざし、本宮へと至ります。途中には絶景スポットと、たばこを祀る神社がありました。ここでは9月はじめに奇祭「キセル祭り」が行なわれ、約3mもの巨大キセルを担いで登るんだとか。それって……天狗たちじゃないでしょうね?

中宮御本殿からの眺め
中宮御本殿から里を俯瞰する。奥には雲を隔てた山並みも見事

本宮がある場所が加波山の山頂です。残念ながら山頂標が見当たりませんでしたが、辺りには磐座と思われる巨石や奇岩怪石が立ち並び、圧巻の光景でした。

加波山の巨石群
加波山の巨石群
加波山の神々を宿す巨石群

ブナが並んだ稜線を歩いていくと下山に利用する本宮道への分岐が見えました。と、その前に、そのちょっと先にある旗立石(はたたていし)にごあいさつをば。ここは自由民権運動が激化する明治時代に起きた「加波山事件」を後世に伝える場所です。明治政府の転覆を図って民衆たちは武装蜂起しますが、直ちに捕らえられます。この事件を発端に、秩父事件など各地で似たような武装蜂起事件が起きました。

旗立石
加波山中にたたずみ歴史を語る旗立石

下山した後は加波山神社の里宮にもお参りし、真壁町方面をめざします。途中の農道から振り返ると加波山の山並みがみごと。天狗伝説、採石産業、武装蜂起事件の歴史などなど、たくさんの要素が詰まったすばらしい里山でした。

黄金色の稲穂と加波山の山並み
黄金色の稲穂と加波山の山並み

真壁町へ入ったらお昼にしましょう。立ち寄った焼肉レストラン一喜さんは素材にこだわり、県のブランド牛・常陸牛のお肉が楽しめる地元に愛されたお店です。常陸牛カルビを焼く音、香り、たまりません。おいしいに決まってます。おいしいーー!!!

レストラン「一喜」の常陸牛カルビ
常陸牛カルビ、石焼ビビンバ、冷麺もおすすめとのこと

お腹いっぱい食べた後は、帰りのバスの時間まで真壁町を散策しました。真壁町は古い伝統的な建物が保存された趣のある町です。資料館や城跡などもあるので、ご興味のある方は時間たっぷり過ごしてみては。

(山行日程=2025年9月14日)

茨城唯一! 重伝建の町並みをもっと知りたい

イノシシの絵図

真壁町にある古い町並みは「重要伝統的建造物群保存地区」(重伝建)として茨城県で唯一登録されています。真壁城跡から続く城下町の面影がそのまま残っており、資料館に立ち寄ればもっと真壁町のことを深堀りできます。中でも目を惹くイノシシの絵図は、この地を支配した真壁氏が戦陣に掲げた旗指物(はたさしもの)だそう。時代を越え、町のフラッグ(旗)として再び駆け抜けてほしいですね。

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 3時間10分
行程:花の入公園・・・加波山神社拝殿・・・加波山・・・分岐・・・加波山三枝祇神社
総歩行距離:約7,400m
累積標高差:上り 約689m 下り 約738m
コース定数:15
スラ男(読者レポーター)

スラ男(読者レポーター)

関東近郊の低山をメインに活動。低山で出会う、人と山とが深く結びついた歴史や民俗などを調べるおもしろさにのめりこみ、低山ワールドのさらなる深みへ。そのおもしろさを親子で分かち合いたく、子どもたちの原体験を育む意味も込めて親子ハイキングを始める。

この記事に登場する山

茨城県 / 筑波連山

加波山 標高 709m

筑波連山の第2の高峰であり、北に雨引山と御岳山、南に足尾山、きのこ山を従えている。遠望するとひとつの山だが、実際は燕山(701m)と双耳峰をなしている。 かつて神場山、神庭山、神母山と記されたように、宗教との結び付きが強い。山頂に加波山神社本宮があるほか、修験者の修行である禅定(ぜんじよう)が現在も行われている。また、明治17年の加波山事件はこの山で蜂起された。 古来、加波山は良質の花崗岩(御影石)を産出してきたが、採石が進み、側面はみにくい山肌を露呈している。登山にも支障が出始めており、真壁町樺穂からの登山道(加波山里宮を経由するコース)はあまり使われなくなり、代わって雨引山―加波山―足尾山の縦走路がよく歩かれている。一本杉峠から先は舗装された北筑波稜線林道に変わり、足尾山ではハンググライダーのフライトが見られる。

プロフィール

山と溪谷オンライン読者レポーター

全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。

山と溪谷オンライン読者レポート

山と溪谷オンライン読者による、全国各地の登山レポートや、登山道具レビュー。

編集部おすすめ記事