新ルートも開通!この秋行ける&いつか行きたい北アルプス黒部渓谷エリア

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アクセスの問題で、今シーズンも行けるルートが限られる黒部渓谷周辺エリア。そんなエリアに新ルート開通のニュースが!(ただしやっぱり今季は歩けません。)来季に思いを馳せつつ、新ルートやエリアの魅力、この秋も歩ける周辺ルートを、エリアに詳しい写真家・星野秀樹さんに教えてもらいました。

文・写真=星野秀樹


剱・立山連峰と後立山連峰を深くうがつ黒部渓谷。そこは険しい様相を見せる渓谷と、厳しい岩壁を彩る紅葉が、登山者を惹きつけてやまないエリアである。黒部峡谷鉄道の欅平(けやきだいら)から黒部ダムへ向けて、水平歩道や下ノ廊下の名で知られるルートがあり、秋の紅葉期には毎年多くの登山者が訪れている。

しかし残念なことに、2024年1月に発生した能登半島地震の影響で、昨年に続き今年もこのエリアに立ち入ることができなくなってしまった。下ノ廊下に関しては、昨年は、黒部ダムから阿曽原温泉小屋までの往復でのみ通行が可能となったが、今季の通行に関しては今後の整備状況によるため現時点では「不明」である。(※今シーズン中は、下ノ廊下の通行不可が確定。10/8追記)

事実上、通行不能となり「夢のエリア」となってしまった黒部渓谷。「行きたいけど、行けない」そんな黒部の谷の魅力を、来季への望みをかけて、今ここで紹介したい。

今シーズンは行けない! いつか歩きたい名ルート紹介

雲切尾根~雲切新道(仙人池ヒュッテ~仙人谷ダム)

仙人池から望む剱岳・八ツ峰
仙人池から望む剱岳・八ツ峰

もともと仙人谷(せんにんだに)を経て黒部へ至るルートだったが、残雪や崩壊のために頻発する事故を防ぐ目的で、2006年に、仙人温泉(休業中)から仙人谷右岸の山腹を経て尾根沿いに、仙人谷ダムへ下る雲切新道(くもきりしんどう)が作られた。

さらに2024年、仙人谷上部を避け、仙人池ヒュッテから南仙人山を経て雲切新道へ合流する、雲切尾根ルートが拓かれた。これにより不安定な谷筋を通ることなく仙人谷ダムまで下ることが可能となった。急なヤブ尾根の登下降が続くものの、屏風のように連なる後立山連峰を随所で望むことができる。

南仙人山手前の池塘と八ツ峰
南仙人山手前の池塘と八ツ峰
雲切尾根から望む後立山連峰
雲切尾根から望む後立山連峰
雲切尾根地図

水平歩道

高度感ある大太鼓と奥鐘山
高度感ある大太鼓と奥鐘山

欅平から仙人谷ダムまでの区間を指すルート。東洋アルミナムによって、水力発電ダム建設のための調査用ルートとして1920年に拓かれた。

ルートのほとんどが断崖上をたどり、真っ暗な志合谷(しあいだん)トンネルや、岩壁を穿って拓かれた大太鼓など、変化のある「渓谷歩き」が楽しめる。大太鼓付近から望む奥鐘山(おくがねやま)の大岩壁は圧巻の迫力だ。欅平から一日行程でたどり着くのが阿曽原(あぞはら)温泉小屋で、黒部の瀬音を聞きながら奥山で味わう露天風呂は本ルートの大きな魅力の一つである。

紅葉に埋まる阿曽原温泉小屋
紅葉に埋まる阿曽原温泉小屋
水平歩道地図

下ノ廊下

白竜峡を抜けて黒部別山谷へ
白竜峡を抜けて黒部別山谷へ

仙人谷ダムから黒部ダムまでの区間を指すルート。日本電力により拓かれたので旧日電歩道の名がある。水平歩道同様に高度感のある断崖をたどる。「黒部の父」冠松次郎(かんむり・まつじろう)によって発見された十字峡は、黒部川に剱沢と棒小屋(ぼうごや)沢が合流するポイント。深く遠い黒部の谷底にゴウゴウと轟く谷音は、恐ろしくも美しい黒部渓谷の魅力そのものである。

ほかにも見応えあるS字峡や狭い岩壁部をへつる白竜(はくりゅう)峡など、縦走登山では味わえない渓谷ならではの「登山」が味わえる。なお、本ルートは残雪の影響で9月に入ってから整備が行なわれるため、通行可能となるのは例年9月下旬ころから。整備終了前には通行不可なので要注意。

険しいハシゴで高巻く大ヘツリ
険しいハシゴで高巻く大ヘツリ
ゴウゴウと沢音響く十字峡
ゴウゴウと沢音響く十字峡
下ノ廊下地図

関連リンク

今シーズンも歩ける! 周辺コース

黒部ダム~内蔵助平~真砂沢ロッジ

丸山北山腹に抱かれる内蔵助平
丸山北山腹に抱かれる内蔵助平

少しでも黒部の雰囲気を味わいたい人におすすめなのが本コース。黒部ダムから、内蔵助谷(くらのすけたん)出合で下ノ廊下へのルートと別れ、内蔵助平(くらのすけだいら)を経て剱沢をめざす。ヤブ道の急登でたどりつく内蔵助平は、真砂(まさご)尾根と黒部別山、立山東面に囲まれた小盆地。沢音と風音のみが支配する「静寂」の深山である。ここからハシゴ谷乗越を乗り越えて、剱沢へと下る。アップダウンが厳しいルートなので体力必須である。

黒部川の内蔵助谷出合
黒部川の内蔵助谷出合

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:1泊2日
コースタイム:【1日目】6時間
【2日目】6時間10分
行程:【1日目】
黒部ダム・・・内蔵助谷出合・・・内蔵助平・・・ハシゴ谷乗越・・・真砂沢ロッジ
【2日目】
真砂沢ロッジ・・・長次郎谷出合・・・平蔵谷出合・・・剱澤小屋・・・別山乗越・・・雷鳥平・・・エンマ台・・・ミクリガ池・・・室堂ターミナル
総歩行距離:約16,100m
累積標高差:上り 約2,412m 下り 約1,503m
コース定数:52

関連リンク

仙人池、池ノ平散策

池ノ平から望む秋のチンネ
池ノ平から望む秋のチンネ

仙人(せんにん)池、池ノ平(いけのたいら)は剱岳が黒部へと果てる場所。裏剱、奥剱などと呼ばれる剱岳の奥座敷である。池塘や湿地が点在する草原から望むのは険しい八ツ峰(やつみね)の岩峰群。池ノ平小屋からは池ノ平山へ足を延ばすのもおすすめだ。

また先に紹介した新しい登山道の雲切尾根をたどって、仙人池ヒュッテから南仙人山への往復もおもしろい。小さなアップダウンを繰り返す尾根上には池塘が点在し、八ツ峰や後立山を望む。昨年拓かれたばかりの「展望ルート」としておすすめだ。仙人池ヒュッテから南仙人山往復で1時間ほど。なお、南仙人山から先は急傾斜の下りとなるので安易な散策気分で立ち入るのは避けること。

美しく彩られた平ノ池
美しく彩られた平ノ池

関連リンク

来シーズンの展望は?

今季で2シーズン続けて欅平起点の登山ルートが通行不能となってしまった。とにかく来季こそは、と願うものの、こればかりは今後の工事などの状況を見守るしかない。

夏は池ノ平・仙人池から雲切新道で阿曽原、さらに水平歩道を欅平へ。秋は祖母谷一泊、翌日阿曽原で、下ノ廊下をたどって黒部ダムへ。そんな「僕の黒部の定番ルート」が恋しい。ああ、来年こそは、なんとか……。

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黒部の谷の小さな山小屋

黒部の谷の小さな山小屋

阿曽原温泉小屋の一年を追った写真絵本。いつか歩いて小屋を訪ねられる日を読みながら待とう。

星野秀樹
発行 アリス館
価格 1760円(税込)
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この記事に登場する山

富山県 / 立山・剣

池ノ平山 標高 2,561m

 剱岳から三ノ窓、小窓とU字形にえぐられた主稜線上に盛り上がる山で、ふもとに池ノ平の湿原が地塘を散りばめ、東にひと登りすると仙人山となる。  かつてはモリブテン鉱山があったが、今は廃坑になって久しい。当時のなごりは鞍部に建つ池ノ平小屋で、もちろん建て替っている。  富山県下新川郡宇奈月町と中新川郡上市(かみいち)町および立山町の境になっているが、登山者にとっては裏剱のすばらしい展望台として人気のある仙人池とセットになった山域である。  仙人池は仙人山(2211m)の肩にある池で、裏剱の壮絶な岩峰群を映すので写真の対象として喜ばれている。  登山道は剱沢から二股(近藤岩)まで下り、尾根道の仙人新道を通り仙人池までが5時間30分、あと2時間ほどで池ノ平山に着く。欅平から阿曽原(あぞはら)、仙人谷経由では約10時間。

プロフィール

星野秀樹(ほしの・ひでき)

写真家。長野県飯山市在住。剱岳や黒部源流域、上越・信越などの山を中心に活動。近著に『上越・信越 国境山脈』(山と溪谷社)、『黒部の谷の小さな山小屋』『山に登る』(アリス館)、『雪のくに移住日記』(信濃毎日新聞社)、共著に『飛べ! 山小屋ヘリコプター』『がんばれ! 田んぼマシーン』(新日本出版社)など。『森を歩くと』(仮題・アリス館)を2026年3月に出版予定。

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