緊急時でも慌てずに判断を。雪山で下降路がわからなくなった時の行動は?

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雪山でのビバーク・・・どうすればいいの?

質問:今年の二月、行者小屋を拠点に雪の赤岳~阿弥陀岳に行きました。赤岳から中岳を越えて阿弥陀岳に向かった頃からガスが立ち込め、強い風が吹いてきました。今、考えれば、ここで引き返せば良かったのかもしれません。もう、山頂まではわずかだったので吹雪の中の山頂に立ちました。

記念撮影をして、「さぁ、引き返そう」と、今、登ってきた斜面を降りようとしたら、どうも様子がおかしい。どこを見ても急斜面ばかりで踏み跡も消えています。山頂に引き返し、もう一度、下山を試みても、どうしても判らない。吹きさらしの山頂で、とりあえずツェルトを出してシュリンゲ(スリング)で標識とピッケルを使い固定して中に入りました。しばらくすると風が弱まったので、ルートが判り、もと来たルートを下降して行者小屋に帰れました。あのまま、晴れなかったら・・・と思うとゾッとします。

 

下降路に確信が持てない時、まずは比較的安全な場所で様子を見よう

阿弥陀岳山頂は周囲を強い傾斜に囲まれているために、下降ルートが判らなくなる事がよくあります。逆に同じ八ヶ岳でも硫黄岳などは、山頂が広く、方角の判らなくなる地形です。実際に下降路が判らないで、全く違った斜面を下りてしまったり、正しい下降ルートを降りていても途中で方角を見失い滑落してしまったり・・・等の深刻な事故が起きています。下降路がどうしても判らない、急斜面で自信が持てない時に、確信の持てないままやみくもに下山を強行するのは危険です。とりあえず、ツェルトを出して確実な位置・山頂で様子を見たのは正しい判断です。もし、この時、暗くなっても下山ルートが判らなかったら本格的なビバークとなります。

赤岳山頂到着は、既に夜。もうビバークしかない

 

ビバークを想定した準備をしておくことも大切

阿弥陀岳の山頂のように吹きさらしで、風を避けられる場所が得にくい場合や、雪洞を掘ることが難しい場合、ツェルトの有無は非常に重大です。バリエーションルートに向かう時だけでなく、山小屋やテントを拠点に日帰りで山頂に向かう時でも、必ずツェルトを持つようにしましょう。その際に、パーティーの全員が確実に収容できるサイズのツェルトを用意する事も大切です。一応2~3人用ツェルトなら4~5人程度入れます。よく「ツェルトは持っています」とアリバイ的には用意してあっても、10人で一つだったりすると意味がありません。また、最近「一人用ビバークシェルター」等の名称で、超小型軽量のツェルトもありますが、立った状態で膝程度の長さしかない製品が多く、これはビバーク用というより、悪天の際の休憩用と考えてください。

風に飛ばされないように全員でツェルトを押さえながら、上部を最低一ヶ所、できれば二ヶ所固定し、中に入り、それぞれ工夫して空間をつくりましょう。いよいよ、本当に下山不能と判断した場合、ビバークを決意します。まず、着られる衣服を全部身に着けて、靴紐を緩め、長期戦に備えます。

 

工夫して長いビバークの夜を乗り越えよう

もし、コンロがあれば状況はグッと楽になります。ただし、テントでもツェルトでも「室内でのコンロ、バーナーの使用をしないでください」と明記してあります。これは、一酸化炭素中毒、ツェルト等の炎上を警戒していて、事実、そのようなトラブルが発生しています。その事を十分に理解した上で、コンロを点火してみましょう。ツェルトの中は一気に暖かくなり、飲み物も作れます。お湯を回し飲みすればお腹の中から温まり、気分的にはずっとリラックスできます。食べ物を全員で共有し、アメ玉でも、何でも食べましょう。空腹だと寒さに負けます。

山頂でビバーク。3人用ツェルトに5人。狭いけど、暖かい

状況が許せば横になれると、翌日の行動は楽になります。交代でも横になり、少しでも眠れるように工夫します。この時、もし、シュラフカバーがあると、安心感も暖かさも格段にアップします(ちなみに、テントをベースに山頂を往復する際には、僕のパーティーでは、シュラフカバーを全員が絶対に持つようにしています)。

ビバークの夜は長いです。ツェルトは風でバタバタ鳴り続け、わずかな隙間から粉雪が乱舞します。何回も時計を見て、あまりの時間の経過の遅さにイライラします。でも、朝の来ない夜はありません。寝不足でも、何でも、朝が来て、明るくなったら、今度は時間がタップリあります。下降路として可能性のある全部の方向にザイルを目いっぱい出して、ルートを探ります。必ず・・・必ず、ルートは見つかります。落ち着いて、確実に下山しましょう。

※なお、こんな雪山ビバークは経験がなければ不安です。中にはパニックになる事も考えられます。 雪山を目指す人ならば、吹きさらしの山頂でビバークを強いられることも想像しながら、一度、ツェルトとシュラフカバーのみで夜を過ごす体験をしておくとよいでしょう。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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