このエントリーをはてなブックマークに追加

緊急時でも慌てずに判断を。雪山で下降路がわからなくなった時の行動は?

山の疑問・難問、山岳ガイドが答えます!
基礎知識 2018年11月27日
雪山でのビバーク・・・どうすればいいの?

質問:今年の二月、行者小屋を拠点に雪の赤岳~阿弥陀岳に行きました。赤岳から中岳を越えて阿弥陀岳に向かった頃からガスが立ち込め、強い風が吹いてきました。今、考えれば、ここで引き返せば良かったのかもしれません。もう、山頂まではわずかだったので吹雪の中の山頂に立ちました。

記念撮影をして、「さぁ、引き返そう」と、今、登ってきた斜面を降りようとしたら、どうも様子がおかしい。どこを見ても急斜面ばかりで踏み跡も消えています。山頂に引き返し、もう一度、下山を試みても、どうしても判らない。吹きさらしの山頂で、とりあえずツェルトを出してシュリンゲ(スリング)で標識とピッケルを使い固定して中に入りました。しばらくすると風が弱まったので、ルートが判り、もと来たルートを下降して行者小屋に帰れました。あのまま、晴れなかったら・・・と思うとゾッとします。

 

下降路に確信が持てない時、まずは比較的安全な場所で様子を見よう

阿弥陀岳山頂は周囲を強い傾斜に囲まれているために、下降ルートが判らなくなる事がよくあります。逆に同じ八ヶ岳でも硫黄岳などは、山頂が広く、方角の判らなくなる地形です。実際に下降路が判らないで、全く違った斜面を下りてしまったり、正しい下降ルートを降りていても途中で方角を見失い滑落してしまったり・・・等の深刻な事故が起きています。下降路がどうしても判らない、急斜面で自信が持てない時に、確信の持てないままやみくもに下山を強行するのは危険です。とりあえず、ツェルトを出して確実な位置・山頂で様子を見たのは正しい判断です。もし、この時、暗くなっても下山ルートが判らなかったら本格的なビバークとなります。

赤岳山頂到着は、既に夜。もうビバークしかない

 

ビバークを想定した準備をしておくことも大切

阿弥陀岳の山頂のように吹きさらしで、風を避けられる場所が得にくい場合や、雪洞を掘ることが難しい場合、ツェルトの有無は非常に重大です。バリエーションルートに向かう時だけでなく、山小屋やテントを拠点に日帰りで山頂に向かう時でも、必ずツェルトを持つようにしましょう。その際に、パーティーの全員が確実に収容できるサイズのツェルトを用意する事も大切です。一応2~3人用ツェルトなら4~5人程度入れます。よく「ツェルトは持っています」とアリバイ的には用意してあっても、10人で一つだったりすると意味がありません。また、最近「一人用ビバークシェルター」等の名称で、超小型軽量のツェルトもありますが、立った状態で膝程度の長さしかない製品が多く、これはビバーク用というより、悪天の際の休憩用と考えてください。

風に飛ばされないように全員でツェルトを押さえながら、上部を最低一ヶ所、できれば二ヶ所固定し、中に入り、それぞれ工夫して空間をつくりましょう。いよいよ、本当に下山不能と判断した場合、ビバークを決意します。まず、着られる衣服を全部身に着けて、靴紐を緩め、長期戦に備えます。

 

工夫して長いビバークの夜を乗り越えよう

もし、コンロがあれば状況はグッと楽になります。ただし、テントでもツェルトでも「室内でのコンロ、バーナーの使用をしないでください」と明記してあります。これは、一酸化炭素中毒、ツェルト等の炎上を警戒していて、事実、そのようなトラブルが発生しています。その事を十分に理解した上で、コンロを点火してみましょう。ツェルトの中は一気に暖かくなり、飲み物も作れます。お湯を回し飲みすればお腹の中から温まり、気分的にはずっとリラックスできます。食べ物を全員で共有し、アメ玉でも、何でも食べましょう。空腹だと寒さに負けます。

山頂でビバーク。3人用ツェルトに5人。狭いけど、暖かい

状況が許せば横になれると、翌日の行動は楽になります。交代でも横になり、少しでも眠れるように工夫します。この時、もし、シュラフカバーがあると、安心感も暖かさも格段にアップします(ちなみに、テントをベースに山頂を往復する際には、僕のパーティーでは、シュラフカバーを全員が絶対に持つようにしています)。

ビバークの夜は長いです。ツェルトは風でバタバタ鳴り続け、わずかな隙間から粉雪が乱舞します。何回も時計を見て、あまりの時間の経過の遅さにイライラします。でも、朝の来ない夜はありません。寝不足でも、何でも、朝が来て、明るくなったら、今度は時間がタップリあります。下降路として可能性のある全部の方向にザイルを目いっぱい出して、ルートを探ります。必ず・・・必ず、ルートは見つかります。落ち着いて、確実に下山しましょう。

※なお、こんな雪山ビバークは経験がなければ不安です。中にはパニックになる事も考えられます。 雪山を目指す人ならば、吹きさらしの山頂でビバークを強いられることも想像しながら、一度、ツェルトとシュラフカバーのみで夜を過ごす体験をしておくとよいでしょう。

教えてくれた人

山田 哲哉

1954 年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。著書に、登山技術全書「縦走登山」(山と溪谷社)ほか、「奥秩父、山、谷、峠そして人」(東京新聞出版局)など多数。
 ⇒山岳ガイド「風の谷」

同じテーマの記事
雷注意報が出たら山に行かないほうが良い? 登山中の恐ろしい雷雨。落雷被害に遭わない行動とは
耳を裂くような大音量の雷鳴、激しい降雨、時には雹が混じり周囲の様相も一変。山で雷、雷雨とであう恐ろしさは、凄まじいものがある。では、山で落雷事故に遭わないためにはどうしたらよいのか。今回は山岳ガイドの山田さんに提唱をいただく。
山のトイレ事情。「青空トイレ」のときに、気に留めておきたい3つのこと
お腹が弱く、登山中によく便意をもよおすという‟インドメタシン配合”さんから、やむおえず「青空トイレ」のとき、紙は持って帰るが、モノはどうなのだろう?という疑問が届いた。野生動物も、野に放っているのだから人間だって良いのでは・・・と。
ショルダーベルトが当たる鎖骨が痛い! 鎖骨にひびかない背負い方、パッキング方法を考える
テント登山派で、重い荷物を持って歩いている‟セットアッパー”さん。痩せ型体形のせいか、とにかくショルダーベルトが当たる鎖骨が痛いそう。今回は、昔、同じ悩みのあった山岳ガイドの山田さんがその悩みに回答する。
花粉症だけど春の山へ行きたい。東京近郊で花粉の少ない山ってあるの?
風の冷たさが和らぎ、外へ出かけたい気持ちの高まる春。その一方で花粉の飛散が始まり、山へ行きたいけど花粉症が辛くて・・・という方も多いだろう。そんな悩みを持つ登山者のひとり‟くしゃみ大魔王”さんの質問に山岳ガイドの山田さんが回答!
記事一覧 ≫
最新の記事
記事一覧 ≫
こんにちは、ゲストさん
◆東京の天気予報[山域を変更]
明日

晴時々曇
明後日

曇一時雨
(日本気象協会提供:2019年6月24日 17時00分発表)
[ログイン]
ユーザ登録・ログインすることで、山頂天気予報を見たり、登山履歴を登録・整理・分析して、確認できます。
NEW レベル別! 飛騨から登る北アルプス登山ガイド
レベル別! 飛騨から登る北アルプス登山ガイド 小林千穂さんを案内役に、乗鞍、槍、双六、笠など6つの山を紹介! タイトルフォトは写真コンテストの作品から順番に!
NEW C3fitから「風が抜けるサポートタイツ」登場!
C3fitから「風が抜けるサポートタイツ」登場! メッシュパネルが生み出す通気性を、高橋庄太郎さんがフィールドテスト。暑い季節もサポートタイツを使いたい方、必見!
NEW ココヘリ。遭難者を探し出す捜索ヘリサービス
ココヘリ。遭難者を探し出す捜索ヘリサービス 「会員制捜索ヘリサービス“ココヘリ”」。発信される電波で位置を特定、万が一、登山者が動けなくても探し出せる!
NEW 花の盛期に訪れた森吉山。北秋田の魅力を紹介
花の盛期に訪れた森吉山。北秋田の魅力を紹介 秋田県にある花の名山・森吉山。最盛期を迎えた山上のお花畑と山麓の豊かな森。マタギ文化にも触れた2泊3日の山旅を掲載!
NEW グレゴリー「ズール」&「ジェイド」は通気性と速乾性が魅力的!
グレゴリー「ズール」&「ジェイド」は通気性と速乾性が魅力的! 今回のモニター企画で最後を飾るのは、暑い大野山でも背中の汗が気にならなかったという、O.N.さんのレポートです!
高山植物の女王・コマクサに会える山へ
高山植物の女王・コマクサに会える山へ ほかの植物が生息できないような砂礫地で、孤高に、可憐な姿を見せるコマクサ。殺風景な風景に力強く咲く「女王」を見られる山へ...
NEW サロモンから独創的なバックパック登場!
サロモンから独創的なバックパック登場! あなたの登山をより軽快にするバックパックシリーズ「OUT」の特徴をチェック!
尾瀬の自然に会いに行こう!「尾瀬ナビ」公開
尾瀬の自然に会いに行こう!「尾瀬ナビ」公開 のんびり湿原散策に爽快な山登り…。尾瀬のシーズンが始まります。尾瀬をもっと楽しめるキャンペーンもご紹介。
梅雨時期こそ登りたい、登るべき山
梅雨時期こそ登りたい、登るべき山 雨降りの中で登山をするのは、やはりオススメできないが、梅雨時の今こそ登りたい山はたくさんある!
NEW コンパクトに収納! ドリッパー&クッカーセット
コンパクトに収納! ドリッパー&クッカーセット 連載「高橋庄太郎の山MONO語り」。わずか285gの「チタンドリッパー&クッカーセット」を使い、山で本格コーヒーを味わう...
レンゲツツジが山肌を彩る季節です
レンゲツツジが山肌を彩る季節です 初夏の時期、山肌を朱色に染めるレンゲツツジ。例年は6月下旬がピークだが、今年は今が最盛期。行くなら今でしょ!
NEW 登山中の飲料に関するアンケート
登山中の飲料に関するアンケート みなさんは山で何を飲んでいますか? 飲料に関するアンケートにご協力ください。抽選で5名様にプレゼントあり!