9月中旬、北海道・十勝岳で、細部が秀逸な最新シュラフ「ニーモ/ラムジー15」を試す!

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今月のPICK UP ニーモ/ラムジー15

価格:33,000円(税別)
適応身長:183cmまで
重量:1.18kg
使用温度の目安:-9.8℃

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日中のテント場にて。シュラフの全容と細部をチェック!

この連載の前回、僕は十勝連峰の上ホロ避難小屋前にテントを張った。テント泊ということは、もちろん山中で一夜を過ごすということであり、そのお供となる重要装備のひとつはスリーピングバッグ、つまりシュラフ、寝袋だ。テスト自体は9月中旬だったが、そこは寒い北海道。晴れているときはまだしも、少しでも天気が崩れれば、本州の晩秋に近い寒さになる可能性があった。

★前回記事:秋を迎えた北海道・十勝岳で、超軽量4シーズン対応テントを試す! 

天気予報では、これからの天気は下り坂。上ホロ避難小屋前に張ったテントは今のところ快適そうだが、さて今夜はどうなるか?

僕はテントから一時離れ、晴れているうちに十勝連峰の雄、十勝岳の山頂を目指した。

これまでに何度か登った十勝岳だが、すっきりと晴れているのは初めてだ。青空の下にそびえる十勝岳は、なんとも堂々としている。

だが、山頂に到達したころには薄曇りに。それでもほとんど無風ということもあって、体感温度は高く、僕はTシャツ姿である。このままでは、あまり保温力が高い寝袋は必要ではなかったのではないかとすら考えたほどだ。

さて、今回テストしたのは、ニーモの新型スリーピングバッグ「ラムジー15」である。

グリーンの表地は撥水力が高いナイロン素材だが、グレーの足元と頭部の一部は防水透湿素材。テントの壁に触れて濡れやすい部分はいっそう雨濡れに強くしてある。

外見上の大きな特徴は、バッフルと呼ばれる寝袋の中綿が入る部分が横向きに縫製されている一般的な寝袋とは異なり、ラムジー15は縦に縫われていることだ。この構造をニーモでは「INSOTECT FLOWバーチカルバッフル」と呼び、体の形に沿うようにダウンが体を覆うことと、寝返りを打ったときにダウンが偏ることを防ぐことで、保温力を損ないにくい工夫だとしている。また、内部の仕切りはメッシュ素材で、体温を足先まで広げる効果も高いようだ。

シリーズ展開されているラムジーには「15」と「30」があり、今回の「15」は最小重量1.18kg、使用温度の目安は-9.8℃まで(後述するが、これは「リミット」の数値)。収納サイズは30×22㎝である。参考までに「30」も説明すると、最小重量935g、使用温度の目安は-3.8℃。収納サイズは30×22㎝。これからの寒い季節に活躍するのは、やはり「15」のほうだろう。

サイドのファスナーはWタイプ。首元からだけではなく、足元からも開けられ、内部の温度を調整しやすい。

また、胸元近くには小さなポケットも。就寝中に冷やすとバッテリーが無用に消費される電子機器やヘッドライトなどを入れておける。個人的には極寒だと凍ってしまうコンタクトレンズも収納できるので、非常にありがたい。

 

足元、頭部、首元…、こだわりの細部をさらにチェック! 

ニーモはアメリカのメーカーだけあり、適応身長が「~183㎝」といっても日本メーカーの寝袋よりも少々大きめに感じる。実際、横幅210㎝のテント内に広げると、それだけで頭と足が壁に触れてしまう。もちろん体を寝袋内に入れればいくらか立体的になり、少しは全長が短くなるが、少々長めのフォルムであることはたしかだろう。その分だけ、身長が低い人は余ってしまうが、反対に身長が高い人でも使いやすい。

寝袋の大きな問題は、テントの壁に頭と足元が付くと結露した水分が寝袋に移ってしまうことだ。だがラムジー15のようにその部分が防水透湿素材になっていれば、影響は最低限になる。上の写真を見てもわかるように、テントに触れる要所がまさにピンポイントで防水透湿素材なのである。

もっともラムジー15に封入されているダウンの中綿は、撥水性を高めるNIKWAXをしみ込ませたハイドロフォビックダウンといわれるもので、もともと水濡れに強い。だから、防水透湿性素材とのコンビネーションで、水分の浸透による保温力低下はあまり気にしないで済む。

また、ラムジー15に使われているダウンは、ダウン製品の保温性を表す数値であるフィルパワーが650である。1000フィルパワーのダウンを使用しているアウターが登場している今日では、ダウンとしての保温力がとりわけ高いわけではない。だが、極度にふんわりとした1000フィルパワーのダウンは羽毛がつぶれやすく、むしろ650フィルパワーのダウンのほうが常にボリューム感をキープし、実際には温かく感じることも多い。とくに圧縮した状態で持ち運ぶ時間が長い寝袋には、必ずしも数値が高いダウンがよいとは限らない。

この寝袋の足元は断面が円形で、非常に立体的になっている。足元が窮屈でないことに加え、中綿のダウンをつぶさないので、保温力を低下させない。

先に述べたバッフル構造だけではなく、このような点でも立体的な体のラインに沿うデザインになっているわけだ。寝袋の保温力というと、とかく中綿の性質にばかり目がいくものだが、実際には暖気をできるだけたくさん取り込めるように、中綿をふっくらさせたまま就寝できる全体のフォルムなども非常に重要なのである。

もうひとつ、保温力を増す斬新な工夫をラムジー15は持っている。首元に付けられたブランケットフォールドと呼ばれる大きなマフラー状のパーツだ。ここには寝袋本体と同様に中綿が入り、首に巻いたり、隙間を塞いだりして使用する。

ニーモの以前の寝袋にも見られた仕様で、僕もすでに既存のモデルで経験済みだ。

このブランケットフォールドは何度使ってもすばらしい! ライナーと同じ肌触りがよい生地が使われており、首元が心地よく覆われ、寒い思いをしなくて済むだけではなく、まるで自宅の布団で寝ているような気分を味わえるのだ。じつは以前からこのブランケットフォールドがついているというだけで、僕はニーモの寝袋を高く評価していたほど。その長所をラムジー15も踏襲しているのは、とてもうれしい。

上の写真ではブランケットフォールドがほとんど隠れているが、実際には首元の隙間を程よく埋めている。そのために、一般の寝袋のように顔まわりをドローコードできつく締めなくても、柔らかなフィット感で温かさをキープしてくれている。

ラムジー15のフードともいえる部分の後頭部が当たる箇所には、枕を収納するスリットも設けられている。ここには同社の別売りの枕がピッタリ入る。だが、ジャストなサイズ感ではないとしても、他メーカーの枕も収めることができ、畳んだウェアなどを押し込んで使ってもいいだろう。

枕が寝袋内に固定されることで就寝中にずれて外れる心配はなくなり、安眠への環境はますます整う。

 

シュラフにベンチレーション!? もう一つの特徴「ギル(鰓)」 

ところで、先ほどラムジー15の対応温度帯は「-9.8℃」と表現した。ただし、これはEUでスリーピングバッグの温度表記として定められた「ヨーロピアン・ノーム」における「リミット」の下限温度域のことだ。一般の男性が寒さを感じずに眠れる温度とされるが、あくまでも欧米人を基準にした数値であり、実際には日本人男性の大半は寒さを覚えるような数値でもある。それに対して一般の女性も寒さを感じずに済むという「コンフォート」という基準もあり、ラムジー15は「-3.4℃」。こちらのほうが日本人男性には参考になる数値だろう。寒がりの僕自身、「リミット」の温度域を参考にして寝袋を選ぶと、その気温のときに体を休めようとしても寒くて眠れず、いつも「コンフォート」を目安にしている。とはいえ、今回のテスト時は気温がマイナスになるほどでもない。つまり、ラムジー15では暑すぎる可能性が高いのだ。

しかしラムジーは、そういうときに備えたおもしろい工夫を持っている。同社独自の「アジャスタブルサーモギル」というシステムだ。魚などの「鰓(えら)」を指す「ギル」という言葉が入っているように、まるで鰓のように開閉するスリットが寝袋の表面に2本入っているのが特徴である。

寝袋が暑い場合は、このギルを開くことで通気性が高い薄手の生地がむき出しになり、無用な熱気を排出する。夜が更けて寒さを感じたときは閉めればよく、よく考えられた仕組みだと思う。

今回の山行では早めにテント場に戻ったこともあり、少しだけ昼寝もできた。短いながらもラムジー15に入って眠った時間帯もあったが、やはり太陽が沈む前とあって暑すぎた。そこでギルを開いてみたのだが……。

その効果はよくわからないというのが、正直なところ。ギルの内部に指を差し入れてみると、たしかに表面生地よりも熱気がダイレクトに伝わり、この部分から熱が逃げているだろうことは想像できる。だが、すぐに寝袋内部が涼しくなるわけではなく、暑いと思ってからギルを開いてみても熱気の排出は追い付かないという印象だ。

結局、蒸し暑さを完全に除去するには、サイドファスナーを開かねばならなかった。

このギルには熱気排出の効果はたしかにあると思われるが、効果的に活用するのはなかなか難しいかもしれない。しかし夜間の気温が比較的高そうなときは、あらかじめ開いておくと暑苦しくなく眠れそうである。

本格的な夜が訪れ、就寝に入る。寝る前の気温は約5℃。下半身はロングパンツの下に薄手のタイツとソックスで、上半身は薄手と厚手のベースレイヤーを重ねてからインサレーションを合わせた。いかにも北海道の秋らしいレイヤリングである。

この状態で寝袋の保温力を確認すべく、首元やサイドを開いたり、ドローコードで顔まわりを絞ってみたりと、目が覚めるたびにスタイルを変えて試してみた。だが、いつしか完全に寝てしまい、あとは朝まで起きることはなく……。夕方以降は小雨が降り、強風も吹き付ける悪天候であったが、結局は非常に気持ちよく眠れたわけなのであった。

天気の回復を待ち、小雨が霧になってから下山を開始する。この日はそう遠くない距離にあるはずの十勝岳は見えず、少々寂しい気持ちだ。

しかし次第に天気は回復し、下山後に行ってみた麓の展望台からは巨大な十勝連峰をたっぷりと眺められた。このあたりの山々は近いうちに再訪したいと思うほど本当に魅力的であった。

 

まとめ:「ラムジー」は、季節、山域によって15か30かを選びたい 

その後、僕はラムジー15を同じく北海道の知床や夕張岳、晩秋の北アルプスなどで何度も使ってみた。少なくても10日間ほどは屋外で眠ることで、おおよその機能は把握できたと思われる。

保温力に関しては、ギルを閉めて保温力を最大にキープしたときでも「リミット」とされる-9.8℃で眠るのは、少なくても僕には厳しそうであり、「コンフォート」である-3.4℃がちょうどよさそうだ。それ以上に気温が高いときはギルを開いたり、サイドを空けたりして涼しくして使えばよいが、それでも真夏は北アルプスのような高山でも温かすぎる。それならば、ラムジー30のようにもっと薄手の寝袋を使ったほうが、重量が軽くなって持ち運びにはいい。言い換えれば、ラムジー15が適しているのは、北アルプスのような高所では春や秋。低山あれば真冬でも対応できるということだ。

ディテールを見れば、効果的な使い方には慣れが必要そうなアジャスタブルサーモギルに対し、ブランケットフォールドは誰もがすぐに心地よさを感じられるユニークなパーツである。僕自身、非常に気に入っている工夫であり、機会があれば多くの人に一度試してもらいたいとさえ思っている。

ひとつ心配していたのは、大柄な体格の人が多いアメリカの会社の製品ゆえに、ラムジー15は日本人の体に大きすぎないかということだった。事実、海外メーカーには欧米人の体に合わせたサイズ感の寝袋が多く、小柄な日本人が使用すると内側に余分なスペースができてしまい、なかなか内部の空気が温まらないという問題があった。日本メーカーのウェアではLサイズがちょうどよい人でも、欧米メーカーのウェアで同じLサイズを選ぶと、大きすぎて着られない……という問題と似ているかもしれない。

しかしラムジー15は、身長177㎝、体重70kg弱の僕が使用してもあまり違和感がない。内部に無用なスペースがあまりなく、体温がすぐにダウンに移り、すみやかに保温力を高めることができるようであった。

それほど標高が高くない山であれば、これからの季節にもラムジー15は活躍しそうだ。標高が高い場所であれば、来年の残雪期だろうか? おもしろい工夫がいくつもちりばめられ、使ってみるのが楽しい寝袋であった。

今回登った山
十勝岳
北海道
標高2,077m

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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