世界有数の「雪国」。日本の雪山装備を考える

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雪山で着る安心の服装

質問:去年の冬から雪山登山を始めました。冬のボーナスの大部分をつぎ込んで、雪山登山靴、ワカン、アイゼン、ピッケルと買い揃え、いよいよ、雪山用のウェアを購入・・・というところでサイフは空っぽ。今まで使っていた装備を流用したり、アウターはとりあえずカッパでガマンしたりと、涙ぐましい努力をしました。
この冬は、服装をきちんと揃えたいです。“本物の雪山登山者”らしく、安心の服装を準備するためのアドバイスをお願いします。

 

日本は世界有数の豪雪地帯

本格的な雪山用ウェアを準備する際に、忘れてはいけない非常に大きなポイントがあります。それは、「日本という国が世界有数の豪雪地帯だ!」ということです。冬型気圧配置が強まった厳冬期の山々は、連日、風雪が吹き荒れ、一晩でメートル単位の雪が降り積もることも珍しくありません。実は、そんな深雪が降り積もった状態や、風雪が吹き荒れている山に登山をするのは、世界の中でも日本人だけだと言っても良いのです。

雪に対応した装備、特にウェアは、この“日本の雪山は時として豪雪の雪山になる”ことを意識して準備する必要があります。また、強い風雪の下でも行動できる服装を準備することが求められます。

 

上着は長めを意識して

今、ほとんどの登山用具の専門店で販売されている雪山用のウェアを見てみると、上半身に着る物が下着からアウターに至るまで“丈が短い”です。日本人は胴長が多いため、そう感じるだけでなく、深いラッセルや、風雪下での行動が、ウェアにあまり考慮されていないことが原因の一つです。そしてシルエットやデザイン性を考えてか、造りが細身すぎます。こうしたウェアを着て深雪の中で行動すると、マイナス20度近い寒さの中で背中が肌まで出てしまう有様です。これでは、ひどく使いにくい。

まず、一番下に着る下着からフリースは、最低限“お尻の半分は覆う長さ”がほしいです。アウタージャケットも同様に、お尻の半分は覆う長さが必要です。1970年代頃までは、ヤッケには、ずり上がって風雪が入らないように「股かけベルト」という股下から裾が出なくするためのベルトが付いていました。時には、ヤッケの裾をオーバーズボンの中に入れて、絶対にめくれないように工夫したものです。

そもそも、日本以外の国の登山者は膝を越える雪を踏み固めて前進するラッセルという概念がないように思います。せいぜい、脛(すね)程度の雪を歩くのが外国登山者の最大のラッセルのようです。

ただ、丈の短いウェアの多い中で、日本の登山用具メーカーは比較的その点が考慮されているように感じます。機能性を中心に、雪山の装備は選びたいものです。

 

他には、ゲイターや大きなポケットのついたアウターなどが必要

オーバーズボンの裾に、靴へ雪の侵入を防ぐ内蔵スパッツが付属されていたり、ゲイター(スパッツ)機能を予め雪山登山靴にもたせたりしているのは、最近の装備のたいへん良い改良点なのですが、一日中、深い雪、湿った雪の中を歩くこともある日本の雪山では、どうしてもゲイターがないと不安です。

同じ理由で、アウターは風雪から顔面を守る大きなフード(風雪の時以外は、視界を確保するためにフードが小さくできると更に良い)や、地形図、コンパス、GPS、ナイフ、コンパクトカメラなど、常時使用する小物が余裕をもって入れられるポケット、さらに、厚着をしても動きを妨げないように脇下に余裕のあるつくり・・・こうした要素は、本格的な雪山のアウターには不可欠です。

寒くても、晴れた晴天の中を真っ白な雪の中で雪山に登る姿を想像してウェアの準備をしがちですが、日本の雪山は、降雪と吹雪の場面が多いので、それらに対応できる準備をしてください。

カタログから飛び出したようなデザイン性に優れたウェアに身を固めたいのは誰でも同じですが、日本の豪雪と、水分の多い湿雪の中を行動することがあることを服装を選ぶ際には忘れないでほしいです。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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