「伊豆ヶ岳の帰りはここに寄らないとね」浅見茶屋(埼玉県飯能市)

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登山の帰りに味わいたい、粋な料理を紹介する西野 淑子さんの「下山メシ」。今回は、奥武蔵にある老舗の食事処「浅見茶屋」について紹介する。

 

安政2年に建てられた、風情ある古民家

伊豆ヶ岳の山頂(西東京猛虎会さんの登山記録より)


立ち寄るのは、伊豆ヶ岳の帰り道。

子の権現から西武秩父線吾野駅に下る途中の通り沿いに建つ、風情あふれる古民家。浅見茶屋というその店に初めて立ち寄ったのは、山歩きを始めたばかりの頃だ。「おいしいうどんなんだよ。伊豆ヶ岳の帰りはここに寄らないとね」と山行でご一緒した山の先輩方が案内してくれた。家族で手作りしているうどんだから、早くいかないとなくなっちゃうかもしれないんだ。山道から舗装道路に降り立つと、みんなニコニコしながら足早になった。

それから何度も訪れている。急ぎ足で歩いてきて、お店ののぼりが出ているとほっとする。


江戸時代末期、安政2年に建てられた古民家を大切に使っている、昔ながらのしつらえ。店内に入ると思わず「ただいま」と言いたくなってしまう。畳敷きの部屋と土間があるが、登山靴を脱ぐのがちょっとおっくうなので土間で食べさせてもらうことが多い。

 

手ごね足ふみ、丁寧に生地を練り上げたうどん、美味しくないわけがない


名物は手打ちうどん。うまみたっぷりの肉汁で味わう肉汁つけうどんや、きのこなど季節の食材を使った汁のつけうどんもあるが、うどん好きとしてはうどんのおいしさをガツンと味わいたくて、ついつい毎回普通のつけうどんを頼んでしまう。

手ごね足ふみ、昔ながらの製法で丁寧に生地を練り上げたうどんは、注文を受けてから茹でられる。山の余韻を楽しみつつ、古い家具や古民具がさりげなく並んだ店内を見渡しながらぼーっと待っている時間も心地よくて好きだ。

つけうどんは割った竹の器で、釜揚げうどんは太い竹をくり抜いた器で供される。山里の素朴なおもてなしの心が感じられて嬉しくなる。器のなか、つやつやとうどんが輝いている。こんなにきれいなうどんが美味しくないわけがないだろう、思わずニヤニヤしてしまう。

甘辛いつゆにさっとつけてうどんをずずっとすする。やや太めのうどんはもっちりしてコシがあり、風味もいい。おうちのおもてなしの手打ちうどん、という感じだろうか。洗練された都会の味とは正反対の、お母さんの手作り料理のような素朴でほっとする味わい。

最近は甘味にも力を入れているそうで、天草きなこ黒みつアイスやところてんなど、メニューを見ればどれも魅力的。しかし残念ながら私の胃袋に「別腹」はなく、おいしいうどんでいつもお腹が満たされてしまう。甘味までたどりつくのはいつになるだろうか。

今日のお店「浅見茶屋」


埼玉県飯能市大字坂石1050
Tel 042-978-0789
浅見茶屋オフィシャルサイト

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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