ワカン? スノーシュー? 最新スノーギアを雪の蓼科山で試す!

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今月のPICK UP スノープラック/スノープラック アプローチ

価格:25,000円(税別)
サイズ:ワンサイズ(全長36cm、幅22.5cm)
重量: 330g(片足分)

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フランス発の斬新なスノーアイテム、まずは細部をチェック

今年も春がやってきた。地域によって差があるが、この冬は積雪が少ない山域ばかりだったようで、雪解けも進んでいる。だが、高山を中心にまだまだブーツのみでは足を取られるルートも多く、雪を踏み抜いて難儀する場面が想像される。ワカン(かんじき)やスノーシューが活躍する機会はまだ当分の間、残されていそうだ。

今回テストしたものは「スノープラック」というスノーギア。スノープラックとは、フランスを本国とするメーカー名で同時に商品名でもあり、この製品には「スノープラック アプローチ」という名前が付けられている。モデル名の「アプローチ」通り、もともとはスキーの滑降点やアイスクライミングなどの場所までの移動に使うことを想定しているのだろうが、もちろん一般の登山でも活躍する製品である。

 

さて、このスノープラック アプローチをどう説明すればいいのか……。日本の伝統的なワカンとサイズ感は似ているが、雪を押さえるフレームの部分はかなり広い。一方、スノーシューと比べれば、全長は半分ほどで雪を押さえる面積は狭いが、フォルム自体は似ている。また、フレームには波を打つ歯が付けられ、これもスノーシュー的な特徴だ。

要するに、スノープラック アプローチとはワカンとスノーシューの中間的な存在なのであるが、これは新機軸の雪山ギアといってよいだろう。素材はアルミニウムで全長36㎝、幅は22.5㎝。重量は片足で330gだ。

スノープラック アプローチはアイゼン(クランポン)と組み合わせることを前提として設計されている。その連携の 要となる部分は、フレームの先端近くにある少し出っ張った部分だ。

 

表側はシンプルだが、裏側はステンレスと思われる別パーツで補強され、柔らかくて摩耗しやすいアルミニウムの弱点を補っている。また、スノープラック アプローチの左右を判別しやすいように、先端には小さな矢印のような形の肉抜きもなされている。

この部分をブーツとアイゼンのあいだにできる隙間に引っかけ、ストラップで固定する。

 

アイゼンの裏側にあるジョイントバーが当たる部分はパーツが窪んでいるので干渉することもなく、しっかりと固定できる。

このように組み合わせると、アイゼンの歯はスノープラック アプローチの裏側に突き出る。スノープラック アプローチ自体にも土踏まずの部分に歯があり、併せて使えば雪上でのスリップの防止性はとても強い。

 

日本のワカンの場合、ブーツのみで組み合わせるときは、土踏まず部分にある爪が雪面に食い込むように下向きで使うが、アイゼンも併用するときは天地を裏返して爪を上向かせ、アイゼンの歯だけが雪面に食い込むように使用するのが普通だ。しかしスノープラック アプローチは、アイゼンにそれ自体の歯も合わせてグリップ力を高めるという設計なのである。

以下の写真は、ブーツ、アイゼン、スノープラック アプローチの3者を組み合わせたときの状態だ。こうなると、アイゼンがどこにあるのかわかりにくく、存在感が消えている。

なお、組み合わせられるアイゼンは構造上、ソール全面にアイゼンをフィットさせるセミワンタッチ式やワンタッチ式に限られる。軽アイゼンのようなソールの一部にのみしか接しないものは合わせられないので、注意してほしい。また、ワンタッチ式の場合でも、一部の製品にはトゥーピースが靴のコバと密に組み合わさることでナイロンテープが通らないことがあり、その際はテープを通すためのアーチ状のパーツをオプションで付ける必要があるという。自分のアイゼンが合うかどうかは、購入前に確認したほうがよいだろう。

スノープラック アプローチの中央にある金属パーツは、ブーツの大きさに合わせて前後に移動できる。この調整には六角レンチが必要だ。自宅で合わせておけば問題はないが、現地についてから合わせようとしたときに適したサイズの六角レンチを持ちあわせていないと、調整不可能になる。この点も注意事項のひとつだ。

 

また、末端には小さな孔があり、カラビナなどで2つをまとめて持ち運ぶときに役立つ。

 

テストは北八ヶ岳・蓼科山で。今年は雪が少ないが、果たしてその使い勝手は?

今回向かったのは、北八ヶ岳の蓼科山だ。この時期のメインルートともいえるスズラン峠近くの蓼科山登山口から僕は登り始めた。

葉が落ちた木々の向こうに山頂が見えるが、足元の雪は想像以上に少ない。もしかしたら、スノープラック アプローチの出番はないのでは……。そんな心配が脳裏に浮かぶ。だが願ってもない好天だ。スノープラック アプローチのテストができなくても満足できるだろうと、山頂を目指す。

実際、登り道ではスノープラック アプローチが必要そうな場所は一切なく、アイゼンのみで充分だった。

 

そのために、スノープラック アプローチはずっとバックパックに取り付けたまま。一般的なワカンと同サイズでかさばらず、小型バックパックにも収まりがよい。説明書にはスノープラック アプローチを収納する場合、容量は20L少々になると記載されていたが、実際にはそれほどの大きさには思えない。携行性は上々である。

山頂が近付くと雪は風で吹き飛ばされ、ますます雪は少なくなる。

このあたりよりも標高が高いはずの南八ヶ岳方面の山々を眺めると、あちらのほうも黒々としている。テストは厳冬の2月だったが、今年の雪の少なさがよくわかる風景だ。

蓼科山特有の広々とした山頂の一角に到着し、しばし休憩。

 

山頂が広すぎるので1カ所からとはいかないが、外輪部分を歩くと眺望は360度。遠くにそびえる標高3000mを越える北アルプスや南アルプスの山々はさすがに真っ白であった。

山頂からは大河原峠方面へ進み、蓼科山荘から天祥寺原へ下りてから竜源橋へ向かうのが今回の下山ルートだ。途中から森のなかに入るので、おそらく柔らかな雪の上を歩かなくてはいけない場所も出てくるだろう。スノープラック アプローチの出番はあるだろうか?

本来、歩きにくい場所があるときに使うギアなのに、今回はテストのためにわざわざ歩きにくい場所を求めている。おかしなものだ。

蓼科山荘の前まで下ると、ここから本格的に森のなかに入っていく。あまり陽は当たらず、風もなく、積雪量は充分そうである。

満を持して、僕はスノープラック アプローチをアイゼンに取り付けた。さて、どんなものだろう?

この時期の蓼科山は蓼科山登山口から往復する登山者が多く、こちらのルートに入る人は少ない。人気山域なのでトレースはついているが、登り道に比べてだいぶ歩きにくくなった。

午後になって雪が緩み始めたこともあり、体が沈みやすくなっていることがわかる。ようやくスノープラック アプローチを持ってきた意味が出てきたわけで、妙にうれしい。

このルートのトレースはそれほど幅が広いわけではなく、踏み外した人が雪面を深く踏み抜いた跡がそこかしこに残っていた。しかしスノープラック アプローチを取り付けた足は沈まず、まったく支障なく進んでいける。ときには固く踏み絞められて滑りやすい場所も出てくるが、アイゼンとスノープラック アプローチの歯がしっかりと食い込み、スリップすることもない。

 

高低差があまりない区間では雪を蹴るように大股で歩いてみた。だが、スノープラック アプローチの軽く湾曲した先端が程よく雪に食い込み、こういうときの前進性も悪くはないようだ。

ちなみに、スノープラック アプローチは固い雪の上を歩くのには向いていないと、製造メーカーは説明している。無理に使用すると歯が雪面に食い込まなくて危険なばかりか、柔らかなアルミは摩耗して歯が鈍くなってしまう。そういう場所ではアイゼンのみで歩行したほうが安全で確実だ。また、歩きやすい傾斜は30度くらいまでとなっている。

 

あらゆる雪のコンディションで、アイテムの良し悪しを見極める

標高を下げていくと気温は上がり、雪はさらに緩んでいく。すると、なにやら歩行に違和感が出てきた。スノープラック アプローチの裏側に雪が付着し、固まってしまったのだ。こうなると厚底のブーツを履いているような不安定な感覚になり、グリップ性も落ちてしまう。アンチスノープレートを使っていない旧式のアイゼンのようだ。下の写真はわかりやすさを考えて、半分ほど雪を落とした状態だが、それでも右側に雪が固着して残っているのがわかるだろう。

雪が固着するのかしないのか、固着した場合は量が多いのか少ないのかは、そのときの雪質や温度に左右される。今回、歩行しにくくなったのは天祥寺原に近づいたころの20分程度だけで、他の場所や時間帯では大きな問題ではなかった。しかし、状況によっては固着に悩まされ続ける登山になる可能性もある。この点には留意して使用する必要がありそうだ。

天祥寺原の分岐で再び休憩をとる。

冬にこの付近を歩くのは数年ぶりだが、やはり積雪量は少ないようだ。それでも40~50cmはあり、雪が緩んだ昼間にワカンやスノーシューなしで歩くのは難儀しそうな状況である。

ここからは傾斜が少ない平坦な場所が続く。僕は他の人の足跡を外して歩き、柔らかな雪面での“浮力”を確かめていく。実際はトレースのすぐ脇だが、テストには充分だ。しかし、ワカンやスノーシューを含む雪上歩行具の浮力は、そのときの雪質によって大きく変わるため、ここでは他のワカンやスノーシューと比較しての感想はいいがたい。だが、一般のワカンよりも雪を確実に押しつぶし、体が浮き上がる力は少し強いように思える。また、スノーシューほどの浮力やグリップ力はないが、短い分だけ小回りが利くのもよくわかる。

 

そう考えると、スノープラック アプローチはワカンとスノーシューの間に位置する存在とはいえ、浮力や携行性のよさ、足さばきのよさは、ワカンに近い。昔はスノーシューのことを「西洋かんじき」と呼んだらしいが、今ならスノーシューではなく、スノープラック アプローチこそが本当の「西洋かんじき」なのではないかと思ってしまった。

 

まとめ:ワカンとスノーシューの中間的存在。ブーツのみで使えるとさらに良い

だが、日本のワカンには可能で、スノープラック アプローチには不可能なことがある。それは、アイゼンなしの状態で、ブーツと合わせることだ。上の写真のようにブーツだけをスノープラック アプローチに取り付けると、つま先が浮いてしまうのがわかるだろう。

これは、ワカンでも同様ともいえるが、正確には少し異なる。ワカンの場合はブーツのソールがワカンの複数のストラップと広い面積で接するので一体化しやすく、さらにストラップに弾力性があるために、ワカンがブーツの動きと連動する。だがスノープラック アプローチは細い金属パーツが1本だけなのでブーツが固定しきれず、動きが連動しきれないのだ。そのために、必ずアイゼンを併用してつま先を固定しなければならないのである。

日本の雪山では、アイゼンは使わず、ワカンだけで充分なシチュエーションは多い。だがスノープラック アプローチは常にアイゼンを併用しなければならず、その点は少々面倒だ。できればブーツのみでも組み合わせられるように、少しだけ修正してもらいたいものである。

午後も遅くなり、わずかながら日が傾き始めた。融雪の時期は雪を踏み抜くことも多くなり、とくに高山や雪深い山域ではワカンが活躍する機会はまだまだ訪れる。もしかしたらこの付近も、これからのほうがスノープラック アプローチの出番は増えるのかもしれない。

さて、僕が考えるスノープラック アプローチの難点は、やはりブーツのみでは使えないことである。雪が固着しやすいのも改善してほしい点だ。だが、それ以外は優秀で、なによりアイデアがおもしろく、使って楽しいギアだと感心してしまった。

ワカンという山道具は、ここ何十年もほとんど進化していない。その点、スノープラック アプローチの発想はユニークで、今後の展開に大きな期待を持たせてくれる。新しいモノ好きの方は早めに手に入れ、いまから試してみるのもいいだろう。

 

今回登った山
蓼科山
長野県
標高2,531m

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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