ベビーキャリーを使った親子登山のすすめ。それでも失敗した山行で気づいたこととは?

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八ヶ岳の山麓に住む信州登山案内人の石川高明ガイド。最近では、親子登山について質問されることが多いそう。 そこで、これまでのご自身の体験から、親子登山のノウハウをご紹介する連載がスタートしました。第2回は「ベビーキャリーを使った親子登山」について。 GWが長い今年こそ、親子で山を歩いてみたいという方、ぜひご一読ください。

 

 

3歳までのお子さんなら「ベビーキャリー」がオススメ

信州登山案内人の石川高明です。

ガイド業をしていて、多くの方からお問い合わせいただくのが、「子どもと登山したいのですが、どうしたらよいの?」という質問です。この質問には、「いつから登山に連れて行っていいの?」や「何を持って行ったらいいの?」「どこに連れて行ったらいいの?」が、混在しています。親御さん本人は登山の経験があっても、お子さんを連れて、となると、また違う準備やノウハウが必要ですね。

今回はその中から「親子で登山・トレッキングしたいけれど、いつから連れて行ったらいいの?」について、そしてこれに関連して「ベビーキャリーを使った登山・トレッキングについて」お話ししたいと思います。

みなさんは親子での登山・トレッキングについて、どんなイメージをお持ちですか?

親御さんがベビーキャリーを使ってお子さんを背負ったまま、ガシガシと山を歩くイメージですか? それとも、お子さんにもリュックを背負わせて、一緒にトレイルを歩いて山頂でお弁当を食べるイメージですか?

親子登山のイメージはどんなものでしょう?

この2つの親子登山・トレッキングは、似ているようでいてちょっと違います。 前者のベビーキャリーを使う親子トレッキングは、生後9ヶ月くらいから2~3歳くらいのお子さんが対象になります。 それ以上になると、お子さんの体重が重くなって背負えません。ベビーキャリーのスペックもそれに倣っています。

連載2回目となる今回は、このベビーキャリーを使った、お子さん3歳くらいまでの親子登山についてお話ししましょう。

我が家のデジタルカメラの写真ストックを見てみると、以前、息子をあちこちに連れ出した写真が出てきます。

初めは「ベビービョルン」に代表される、前抱きの抱っこひもを使って、近所のお散歩をしていました。 このタイプは多くの親御さんもお使いかと思います。 冬は親子がお腹や背中で密着するので暖かく、風邪をひかせることもなく、快適に利用できます。

前抱きは親子とも温かいが、足元が見えない!

一方で、弱点もあります。

密着してるが故に、夏はとても暑いこと。そして、前抱きのため自分の足元がよく見えないこと、です。 足元が見えないのは、街中ならともかく、アウトドアではとても危険です。

当時、私は親子で山歩きをしたかったので、足元が見える背負いのタイプで、しかも荷物がある程度入る「アウトドア用のベビーキャリー」に絞って購入を検討しました。

ご存知のように、子どものお出かけには多くの荷物が必要です。ミルクやベビーフード、替えのオムツや昼寝をしてしまった時の毛布など…。それらが入る大容量の荷室も考慮しました。

そして、首がすわってきた生後6ヶ月のタイミングで、大型のベビーキャリーを購入しました。

もちろん普段の生活ではベビーカーも併用していたのですが、都会でのベビーカー移動は意外と大変です。地下鉄やJRの駅の移動は、エレベーターを探すのも大変で、次第に普段使いにもベビーキャリーを利用するようになりました。

ベビーキャリーでのお出かけデビューは「秩父の札所めぐり」

ベビーキャリーを使い始めた頃。足慣らしに秩父の札所めぐりへ

そして、我が家では、息子が1歳の時に、親子トレッキングで出かけるようになりました。最初の行き先は、秩父札所めぐりでした。

秩父は都心から近く行きやすいのですが、コースは山あり谷あり、バス移動ありと、なかなか歩きごたえがあります。

ご一緒したパパ友はベビーカー利用でした。ベビーカーでものんびりと歩けるのも秩父札所めぐりのいいところですね。

ベビーカーでも行ける札所めぐり。石川家はベビーキャリーで

もちろん一度のお出かけでは、34箇所の札所を巡れませんので、私たち親子は何回もベビーキャリーを利用して通いました。 この札所巡りの小旅行が、ベビーキャリーを背負って歩く経験値を高めるのに役に立ちました。

その後、1歳6ヶ月で沖縄旅行。2歳6ヶ月で上高地や蓼科へ旅行をしています。

この時は登山はしてませんが、沖縄の砂浜での移動や、上高地の散策にはベビーキャリーを使いました。ベビーキャリーは段差の多い交通機関や、荷物が多くなる旅行にもとても便利でした。

ベビーキャリーで歩いた雨の上高地

登山デビューするも失敗! 登れなかった山行で気づいたこととは・・・

親子(父親ひとりと息子ひとり)できちんとした「登山」に出かけたのは、息子が3歳になる頃でした。

時期は5月のゴールデンウィーク。目的地は東京都最高峰・雲取山(標高2017m)です。

子供には、水筒とお菓子だけを持たせて、私が登山装備を全て背負って登ります。 コースタイムは余裕を見て2倍確保。早朝に登山口を出発するように計画しました。

しかし、3歳の息子は気の向いた時しか歩いてくれません。それどころか、道端に生えているキノコや棒切れに興味津々。しばしば足が止まってしまいます。時間はどんどん過ぎていきますが、ちっとも距離は稼げません。

業を煮やして、私は息子をベビーキャリーに乗せて、背負ってガシガシ登っていきますが、その甲斐なく、時間切れで雲取山まで行けず、手前の七ツ石山山頂にタッチして、引き返すことになりました。 こうして、初めての本格的な親子登山は、ほろ苦いものとなりました。

親が背負って歩く親子登山の場合、いきなり「登山」にするのではなく、徐々にステップアップする事はわかっていました。しかし、それでも、この時は見積もりが甘かったのです。 もう少し、コースタイムの短い山にすれば良かったと反省しました。

基本的に、子どもは登山に対して「耐性」がありません。「山頂を目指す」というのは、大人にとっては意味のあることですが、3歳くらいの子どもにとっては、まったく「意味がわからない」のです。

無理はせず、山頂だけを目指すのではなく、その日ゴールは子どもの体調や気分に合わせて変えていく柔軟さがポイントになるでしょう。

子どもは「山頂」に興味がない。山頂をゴールにせず興味を持った事柄を優先しよう

この時の親子登山では多くの気づきがありました。 ひとつは「トイレのタイミング」です。

雲取山の登山では、まず鴨沢の登山口でトイレを済ませてから歩き出しました。子どもの脱水症状が怖くて、休憩のたびに水を与えていました。 一方「おしっこは?」と聞いても「でない。でない」と答えるばかり。それを信じて背負って歩いていると、突然「おしっこ・・・でちゃった・・・」と。 したくなった時にはもうでる直前なのですね。

もう一つの気づきは、「ベビーキャリー」の乗せられた子どもは寒い、ということです。

春の奥多摩はまだ空気が冷たく、歩かないでずっとベビーキャリーの上にいる息子の体は、すっかり冷え切ってしまったのです。一方で、ベビーキャリーを背負う私は、登りなどではいつも以上に暑く感じていて、大きなギャップがあるのです。 この体験以降、ベビーキャリーに乗せる時は、子どもの防寒対策をしっかりするようにしました。

小さい子どもは微妙な体調の変化を伝えてくれません。 ダメな時は一気に発熱したり、泣き出したりします。内心「先に言ってくれよ~」と思いますが、それは無理な話。 ですので、親子で登山をしたい、という親御さんは、普段から子どもの様子をよく観察しておかないといけません。これが親子登山・トレッキングの最大のポイントかもしれません。

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次回は、子どもが自分で歩いて行く親子登山・トレッキングをどういう手順で進めればいいのかお話ししたいと思います。

石川高明ガイドを講師に。親子登山の年間プログラムを各地で開催

八ヶ岳 山の日サミット 親子登山イベント

「山の日」を契機に、八ヶ岳の山麓・原村で、過去3回行われた「山の日サミット」。石川高明さんはこのイベントで、親子登山を担当しています。

2019年は、この親子登山が、イベント当日を含む年間プログラムに拡大。「山の日サミット 親子のための登山・トレッキング ノウハウ講習会」として、机上での講習会や、実際の登山イベントを年間で予定しています。

来る5月25日(土)には、長野県野辺山にある飯盛山(標高1643m)の登山にチャレンジするイベントを開催。石川高明ガイドが「正しい登山靴の履き方」「親子登山のウェアリング」「登山道での親子のポジション」などのノウハウを紹介しながら山頂を目指します。詳しくは下記リンクをご覧ください。

親子エコトレッキング 飯盛山1,643m
開催日:2019年5月25日(土)
お申し込み:https://8guide.jp/tour/636/

机上講座:親子のための登山・トレッキング ノウハウ講習会
日時:2019年6月16日(日)13:00~14:30
会場:モンベル 諏訪店
お申し込み:モンベル諏訪店
https://store.montbell.jp/search/shopinfo/indoor/?shop_no=618854

すべてのお問い合わせ
八ヶ岳 山の日サミット事務局
https://www.yama-summit.com/

プロフィール

石川高明さん

1967年東京生まれ。学生時代から登山に親しむ。最初に登った山が八ヶ岳。大手電機メーカーを2000年に退職し、世界一周登山の旅に出発。途上のスイス・ツェルマットで、“観光カリスマ”山田桂一郎氏の元で2年間、トレッキングガイドを勤める。帰国後、八ヶ岳の麓で子育てをすべく、長野県原村に移住。
各国の山岳地域を旅した体験や、スイスで観光業に携わった経験を活かし、地元地域や観光活性化のお手伝いをしながら、各種イベントを実施している。
原村観光連盟 副会長/八ヶ岳観光圏 観光地域作りマネージャー/公認スポーツ指導者 山岳指導員/長野県信州登山案内人/(株)八ヶ岳登山企画 代表取締役/登山歴30年/スノーシュー歴20年

子どもと一緒に山、行こう! 親子登山のススメ

子どもや孫といっしょに山に登ることは、登山愛好者にとって1つの夢ではないだろうか? しかし、子どもの気持ちを山に向けることができるか、安全な登山を伝えられるかなど、疑問や悩みも多い。親子登山に役立つ情報を、さまざまな角度から伝えていく。

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