ハードシェルって何? 本格的に雪山登山を始めるための基本の「キ」

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雪山初心者にとって、ハードシェルの選び方はちょっとハードルが高い。値段も結構するし、そもそも他のウェアと何が違うのかも正直よくわからない・・・。そこで今回は、ハードシェルの基本について、好日山荘池袋西口店の浅見さんに詳しくお聞きしました! これから買おうと思っている人、買い直したいという人、必見ですよ~!

POINT
  • ハードシェルは文字通りの"ハード"
  • 「2重窓効果」で保温力アップ
  • 必要な機能に納得して選ぼう

ハードシェルって、どんなウェア?

編集部S:ハードシェルって、そもそもどんなウェアなのでしょうか?

浅見さん:ハードシェルはウェアの中でも一番外側に着て、雨風から体を守ってくれる「最後の砦」といったイメージです。

編集部S:なるほどー。売り場だと、どの辺りのウェアがハードシェルなんだろう・・・

浅見さん:今、一般的にハードシェルと呼んでいるのは冬山用、特に雪山に使うアルパインモデルのウェアを指す場合が多く、レインウェアのような防水性、透湿性を備えたうえで、防風性と防雪性を重視してデザインされています。いかに冷たい風や雪をシャットアウトするかを目指した設計になっているんですよね。

ハードシェルは雪山に使いますが、初心者が選ぶにはハードルの高い商品です(浅見さん)

編集部S:ハードシェルって、名前のとおり生地自体が硬いような印象がありますよね。

浅見さん:そうですね。シェルとは「殻」という意味ですが、ハードシェルはその中でも特に雪山に特化していますので、分厚くなっているのは確かです。

編集部S:春夏に着るようなウェアと比べると、かなりゴワゴワしているというか、着ごたえもありますよね。

浅見さん:厚めの生地には別の理由もありますよ。なんだと思われますか?

編集部S:うーん、なんだろう・・・。手触りからしたら、ハードシェルは、すこしザラザラしているというか。

浅見さん:そうです! 雪山におけるリスクといえば滑落。雪の斜面で滑り落ちた場合、生地の表面がなめらかだとサーッとすべってしまいますが、このザラザラした生地が雪との間に摩擦を生んで、すべり落ちる勢いを減らす効果があるのです。また、「ハード」とは、体を守るための硬さ(耐久性)でもあるんですよね。

編集部S:なるほど! ハードシェルは自分の命を守る重要なアイテムなんだなあ。

浅見さん:ちなみに雪山登山向けのジャケットって、どちらかといえば地味な色が多いように思いませんか?

編集部S:確かに黒や緑といった、落ち着いた色が多いような気もしますけど・・・。

浅見さん:それに対して、レインウェアは明るい色が多いように感じます。これは、自分の存在を知らせるための視認性を確保する意味もあるんですよ。

編集部S:少し派手かなーって思ったりしますけど、元をたどれば色にも意味があるんですね。 じゃあ当然ハードシェルにも・・・。

浅見さん:はい、そうなんです。色が抑えられているのは、暗い色を使うことによって太陽光を蓄えようというのが本来の始まりだったはずなんです。保温力を少しでもキープしておこうという目的ですね。それくらい、ハードシェルは、雪山の環境に合わせて設計されたウェアなんです。ぜひ色選びにも注目してみてくださいね。

重ね着の工夫で雪山を乗り切る

編集部S:ハードシェルの基本、知らないことばかりです・・・。実際にはどんな使い方をするウェアなんですか?

浅見さん:たとえば、メリノウール素材のベースレイヤーの上に、フリースなどのミッドレイヤーを着るとします。その上からハードシェルを着がちですが、ハードシェルを着る前にソフトシェルを着るのがおすすめです。

編集部S:ええっ、そんなに着て大丈夫なんですか?

浅見さん:私はこれを「北国の2重窓効果」と呼んでいます。寒い地方ってよく玄関が2重になっていたりしますよね。外気との間に空気の壁をつくることで中の温かい空気を保つ工夫ですが、ハードシェルとミッドレイヤーの間にソフトシェルを入れると、内部の熱を外に逃がさないような働きをしてくれます。

編集部S:なるほどー。熱を逃さない工夫が必要なのですね。

浅見さん:でも、雪山へ出かけるといっても、スタート地点には雪がさほどない場合もあるし、雪で照り返しが厳しい時は暑さを感じることもあります。そういう状況でハードシェルを脱いだとしても、防風力のあるソフトシェルを着ていると非常に便利なんですよ。天候が崩れたり、更に寒くなったら、ハードシェルをまた着ればいいのです。

編集部S:夏山のように歩きやすくないでしょうから、動くと予想外に暑くなりそう。

浅見さん:雪山って寒いだけだと思いますよね。氷点下を下回る気温と聞くと、「めちゃくちゃ寒そう~」って思うかもしれないですけど、しっかり着込んだ状態で運動量が多いと、-10℃でも汗をかくこともあります。その反面、じっとしていると0℃でも震えることもあります。

編集部S:初心者には脱ぎ着のタイミングが難しいかもなあ。

浅見さん:いかに汗をかかずに、体は冷やさずに行動するかがポイントになってきます。ハードシェルの高い防風性は、身体を冷やさないためには重要です。そのぶん、下着にも気をつかう必要があります。吸汗拡散性との調湿機能を持ったメリノウールといった素材のアンダーウェアを着ると、汗をコントロールしやすくなると思います。

編集部S:具体的にはどんな時、どんな場所に持っていくべきウェアなんでしょうか。

浅見さん:季節で言うと、12月、1月あたりが厳冬期に該当しますが、その時期に必要になるウェアです。関東近郊の山で言うなら八ヶ岳や赤城山の高さでしょうか。標高2000mの中盤からは確実に必要になってくると思います。

編集部S:逆にそれより低山であれば持っていかなくていい、なんてことは?

浅見さん:雪山と言っても天気や登山道の状況によってさまざまなので、一概には言えませんが、持っていかなくてもいい場合もあります。たとえば積雪が少ない山で、スノートレッキングに近いことしかしないのあれば、少しオーバースペックかもしれませんよね。アイゼンやピッケルを使うような山になってくると必要だと思いますし、そうでなければ無理に使うことはないとも言えます。

編集部S:これから雪山を始めるとなると、いきなり「ハードシェルを着る」というのは感覚的にわかりにくいのかなあ。

浅見さん:おすすめしたいのは、比較的雪があっても歩きやすい山というのがあるので、初心者はそういった山で慣れていくといいでしょう。特にロープウェイを使って標高の高いところまで行ける山、万が一の時に人の助けが呼びやすい場所は、雪の感触を確かめるにはいいかなと思います。ハードシェルにも、スノーシューやスノーハイクに適したライトウィンターモデルといったものもあります。

ハードシェルは、細かく機能を確かめて総合的に選ぼう

編集部S:ハードシェル、けっこう値段が高い! 選ぶのもハードなんですけど・・・。

浅見さん:30,000円台の低価格帯から80,000円以上の高価格帯までさまざまですよね。価格に関して言えば、ゴアテックスを採用しているかどうかが大きかったりします。

編集部S:ゴアテックスが使われていると、値段がやや高くなってくるってことですね。

浅見さん:わかりやすく言うとそういうことになります。そして、ゴアテックスに続いてくるのが、各ブランドオリジナルの防水透湿性素材を使っているものです。生地にも3レイヤー(表地・防水膜・裏地)と2レイヤー(表地・防水膜)のものがあって、3レイヤーが主流です。裏地が無い2レイヤーだと、軽さというところでメリットが出てきます。

モデルは173cmでMサイズ着用。マムート「GORE-TEX GLACIER Jacket」はゴアテックスを採用した3レイヤーのモデルになります(浅見さん)

編集部S:価格以外の大きな違いはありますか? 正直、外見からではよくわからないけど。

浅見さん:スノースカートやベンチレーションの有無は大きいかもしれません。雪山の風は雪を吹き上げるので、スノースカートが雪の侵入を防ぎます。初心者の方にはこういったモデルがおすすめかな。でも、雪をかく動作をしているときには暑くなりします。その点、ベンチレーションの有無や、スカートが取り外しできるかどうかはチェックしておいたほうが良いと思います。

スカートというのはウェア内部に仕込んである生地で、ボタンやゴムで身体に密着させると防風性が高まります(浅見さん)

編集部S:なるほど。表地だけではなく裏地もしっかり見ておかないといけないですね。

浅見さん:ちなみにファスナーを上まで閉めたとき、口元まで上がるものとそうでないものがあります。口元まであるタイプは、より厳しい気象条件を想定したつくりになっています。

モデルは173cmでMサイズ着用。左がマウンテンハードウェア「Commitment KS Jacket」(写真左)と右がファイントラック「エバーブレスアクロジャケット」(写真右)。右のジャケットは左に比べて口元近くまで生地があるのがわかります。ポケット(浅見さん)

編集部S:ポケットの位置とかもものによって微妙に違いますね。

浅見さん:そうですね。ポケットかと思ったらベンチレーションだったなんてこともあります(笑)。それも脇についていたり、お腹についていたり。中には袖にゴーグルポケットがあるものもあります。この辺りがメーカーで差がついてくるところですし、腕の見せどころになっているのかと思います。

マムート「GORE-TEX GLACIER Jacket」は脇下にベンチレーションが付いています(写真左)。それから左腕にはゴーグルポケットがあります(写真右)。ちょっとした小物を入れておくのには便利です(浅見さん)

編集部S:細かいところを見ると、実際にはいろいろ差があるんですね。試着した時にチェックしたほうがいいところはありますか?

浅見さん:まずは服の上に着るウェアなので、中に着込むゆとりを確かめてください。あとはヘルメット着用という雪山もあるので、ヘルメットを着用し、その上からフードを被って動きにくくないかも確かめてみてください。

フードは収納できるものもありますが、実際に出してみて被ってみてください(浅見さん)

編集部S:実際に使用するシーンを想定しながら、ひとつひとつ確認していくってことですね!

浅見さん:腕を曲げてみたときに突っ張る感じがないのも重要です。細かいですけど、雪山用のグローブを着用してファスナーを締める、ボタンを留めるなどがきちんとできるか確かめてみてください。

雪山では、時に「ラッセル」という、ピッケルを身体の前で横に構える雪かきのような動作があったりします。腕の動かし具合がスムーズかどうか、ぜひ試してください(浅見さん)

編集部S:基本的には身長に合わせて選べばいいのでしょうか。

浅見さん:はい。ただし、海外メーカーだと海外サイズで表記されていることもあるので、日本サイズに合わせるように気をつけてください。あとは男女分かれているものが多いですので、それも確認するようにしてください。腕を上に伸ばしたときに、すその上がりが少ないものが理想ですよ。

腕をあげる動きも試してみてください。サイドのカッテイングが優れていると突っ張りが少ないと思います(浅見さん)。

編集部S:試すと一点一点の着心地が違うっていうのが体感できますね。スノースカートのありなしだったり、ベンチレーターの位置だったり。もちろん見た目のカッコよさなんかも・・・。

浅見さん:ちなみに、ハードシェルって、実はライダーの方にも人気のアイテムなんです。それくらい機能性が高いウェアなんですよ。そういった、「せっかくなら日常の中でも使いたい」という視点で選ぶのもアリかも。

編集部S:フィット感が気に入ったウェアもあったし、使いまわしやすそうなウェアもありました。どちらか選ぶのが難しいけど、値段も含めて総合的に選ぶというのが一番なんでしょうか。

浅見さん:「こういう時期にこういう場所でこういうことやりたい」という具体的なイメージがあると、お店のスタッフがアドバイスする時に絞込みがしやすくなります。価格が高いから良い、安いから良いっていうのが絶対に言えないアイテムだけに、着てみた時の納得感があるもの、それがベストですよ!

紹介した山道具

MAMMUT(マムート)「GORE-TEX GLACIER Jacket」
61,000円(税別) ※好日山荘での販売価格

Mountain Hardwear(マウンテンハードウェア)「コミットメント KS ジャケット」
37,000円(税別) ※好日山荘での販売価格

finetrack(ファイントラック)「エバーブレスアクロジャケット」
39,500円(税別) ※好日山荘での販売価格

プロフィール

浅見 直紀

東京都出身。高校時代に屋久島へ行ったことをきっかけに登山の楽しさに目覚める。富士五湖や奥多摩などを中心に、通年で行きやすい山探しに余念がない。しかし好物は岩混じりの低山バリエーションルートという変わり者。

好日山荘 池袋西口店

日帰りハイキングから長期縦走、クライミング、沢登りまでさまざまな登山スタイルに対応する品揃えを誇る登山用品店。2階にある「マウントラボ」では、ロープワーク講習や山道具の選び方講座など、さまざまな勉強会が開催されている。

所在地/東京都豊島区西池袋3丁目27-12 池袋ウエストパークビル
TEL/03-5958-4315
営業時間/時短営業中につき好日山荘のWebサイトを参照
アクセス/池袋駅西口方面「1b」出口すぐ。
http://www.kojitusanso.jp/shop/kanto/#tokyo

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