爽快感MAX!日本独自の登山スタイル「沢登り」の基本装備を覚えよう!

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「沢登り」には興味はあるけど、どんな装備が必要なのかわからない人も多いはず。今回は初心者がツアーなどに参加して日帰りで沢登りを楽しむ際に必要な装備について、埼玉県川越市でオリジナルの沢登り用品も販売する「秀山荘」に勤める森ガイドに話を聞いてきました!

取材・文=吉澤英晃

沢登りは爽快感があって、普段では決して見ることのできない景観に出会える日本独自の登山スタイルです。しかし独特な面白さがある一方、あえて登山道を外れて水に濡れながら沢を遡行するため、整備された道を歩く山登りと比べると、低体温症、滑落、落石、骨折、溺死など、リスクが高い遊びであるともいえます。

初心者がガイドツアーなどで沢登りを楽しむため必要な装備を、ひとつずつ確認していきましょう。

 

秀山荘の沢登りコーナー。オリジナル商品が隙間なくディスプレイされている

専用装備は「沢靴」「膝当て」「スパッツ」だけ!

ライター吉澤: まず沢登りに必要な基本装備一式を教えてください。

森さん: 沢登りは足元から、ともいわれるように、もっとも重要なのが「沢靴」です。それから「ウェア」、怪我などから身体を守る「膝当て」「スパッツ」「バックパック」「登攀具」などが必要になります。

ライター吉澤「沢靴」とは?

森さん: 沢靴は沢の中で滑らないように特殊なソールが使われている沢登り専用の靴になります。ソールにはフェルトとゴムの二通りがあるのですが、ゴムソールは苔でヌメヌメした場所で滑りやすく慣れが必要なので、初心者の方にはフェルトソールがおすすめです。

秀山荘オリジナルの沢靴。クライムゾーン「ウェーディングシューズスーパープロV」(フェルトソール)

上がフェルトソール、下がゴムソール

森さん: 形状が足袋型の沢靴もあって、こちらは安価で軽量という特徴がありますが、ややフィット感に劣るといえるでしょう。

ライター吉澤: 靴下は登山用のウールソックスなどでも大丈夫ですか?

森さん: 問題ありません。ただ足先が冷たくならないようにネオプレンで作られた靴下も市販されています。ネオプレン製の靴下を履くと中に入った沢水が体温で温められるので、暖かく感じるのです。

クライムゾーン「ウォーターソックス」。ロングバージョンもあり

ライター吉澤: 「ウェア」は沢登り専用モデルがありますか?

森さん: なかには沢登りを意識して作られたウェアもありますが、素材が化学繊維で速乾性に優れるものなら、なにを選んでも大丈夫です。沢登りでは肘を擦ったりすることが多いので、半袖ではなく長袖を選ぶようにしましょう。

上は吸水速乾性に優れて丈夫な長袖をチョイス

森さん: 下はタイツに短パンを組み合わせると動きやすいです。

下は長ズボンの方が安心感があるが、短パンの方が動きやすい

森さん: これが基本のレイヤリングになりますが、盛夏ではない水温が低い時期や泳ぎ主体の沢に行く場合などは、ネオプレン製のウェアを着込んだり、ライフジャケットなどを用意したり、その都度アレンジして対応します。

ライター吉澤「膝当て」「スパッツ」はどうして必要なのでしょう?

森さん: 沢登りでは膝をついて滝を登るような場面が少なからずあり、特に女性などはアザができやすいですね。そんな些細な怪我を防ぐのが「膝当て」です。

クライムゾーン「ニーパッド」。後ろ2箇所を足に巻きつけてマジックテープで固定する

森さん: 「スパッツ」にも脛を保護するほかに、足を冷えから守ってくれる役目もあります。

クライムゾーン「ウォータースパッツスーパープロ」。ファスナーを開閉して着脱する

森さん: あと手の平を守るために「手袋」もあるといいですね。コットンの軍手が滑りにくくておすすめです。

ライター吉澤「バックパック」の選び方にコツはありますか?

森さん: 外側にメッシュポケットなどが極力付いていない、スッキリとしたモデルが好ましいです。それと、沢登りではバックパックの中にどうしても水が入ってしまうので、それを排出するための穴が必要になります。専用のバックパックには最初から水抜き穴が付いていますが、そうでないモデルを使う場合は、熱した釘で生地を溶かしながら穴を開けるといいでしょう。

専用モデルはボトムに鳩目を使った水抜き穴がすでに付いている

ライター吉澤: バックパックは何リットルくらいのサイズがベストでしょう?

森さん: 日帰りなら25〜30L。これが泊まりになると40L前後がおすすめです。このバックパックのサイズに合せて、荷物を濡れから守ってくれるドライバッグの大きさを選びます。

クライムゾーン「ウォータークライムⅠ 28 L」

ライター吉澤: ドライバッグとは?

森さん: 縫い目にシームテープを貼った防水仕様のスタッフバッグです。水濡れを防ぐために、装備は一度この中に入れてからバックパックに収納します。ドライバッグのサイズはバックパックの大きさが25〜30Lなら45〜60Lくらい、泊まりなら60〜80Lがおすすめ。バックパックより一回り大きい容量を選びましょう。絶対に濡らしたくない着替えなどは、さらに別のスタッフバッグに入れてからドライバッグに収納してパッキングします。

ドライバッグはサイズが豊富

登攀具も必要最小限で大丈夫

ライター吉澤「登攀具」についても教えてください。

森さん: ここでは基本装備を紹介しますが、実際に沢登りをするときは引率者の指示に従ってください。揃えるものは「ヘルメット」「ハーネス」「スリング」「カラビナ」になります。

「ヘルメット」は落石や転倒から頭部を守るためにかぶります。これは岩稜帯などの登山時と同じ用途ですね。「ハーネス」は腰に身につける装備で、「カラビナ」を使い、「スリング」やリーダーが持っているメインロープと連結することで、滝の登攀中や不安定な場所での地面への滑落を防ぎます。それぞれに種類があるので、ひとつずつ説明していきましょう。

登攀具は主に滝の登攀で活躍する

森さん「ヘルメット」は必ず登山用の安全規格を通ったモデルを選びます。外側がシェルで覆われているハイブリッドタイプが汚れにくくていいでしょう。

ハイブリッドタイプから頭の形にあったモデルを選ぶ

森さん「ハーネス」は薄い生地でできた軽量モデルで充分。クライミング用のパッドが入ったモデルを選ぶと水を吸って重くなってしまいます。

クライムゾーン「ウォーターハーネスブラック」。パッドなどはついていない

森さん 「スリング」は主に立ち木などに巻きつけて、カラビナでハーネスと連結して自身の安全を確保するときに使います。自作することもできますが、市販のソウンスリングを購入するのが手っ取り早いですね。だいたい150cmと80cmの長さが1本ずつあれば充分です。

左が80cm。右が150cm。細いスリングのほうが使いやすい

森さん「カラビナ」は、立ち木に巻きつけたスリングや、滝の登攀で上から垂れ下がるメインロープに、自身のハーネスを連結するための道具です。ロック機能があるタイプを1枚と、ロック機能がないストレートゲートタイプを2枚用意します。

上段がロック機能付きのカラビナ。誤ってゲートが開くことを防止できる。形状はゲートの開口部が広いHMS型がおすすめ。下段がストレートゲートタイプ。右はより軽量なワイヤーゲート。いずれもオフセットD型と呼ばれる形状を選ぶといい

ライター吉澤: ほかに持っているといい装備は?

森さん: ウェアが濡れると身体が冷えてしまうので、日帰りでもバーナーとクッカーを持ち、休憩時に暖かい物を食べられるように準備しておくといいでしょう。また下山するときに履き替える靴と靴下が必要です。靴はトレランシューズのような軽量モデルがあるといいですね。そのほかは、エマージェンシーキットヘッドライトなど、普段の山登りと同じです。

ライター吉澤: リーダーになると、用意する装備は増えますか?

森さん: 初心者を引率するには、さらに多くの登攀具が必要になります。「30mのロープ」や「お助け紐」と呼ばれる10m前後のスリング、さらに「沢バイル」や「ハーケン」、懸垂下降を行う「エイト環」や、ビレイで使うATCガイドなどの「ビレイデバイス」です。経験に応じて用意しましょう。

リーダーになるとさらに装備が増える

理解するまで質問して、じっくり沢登りを学んでいこう

ライター吉澤: 安全に沢登りを楽しむために、装備以外で必要なことはありますか?

森さん: 引率者であるリーダーの言うことをよく聞きましょう。そして言われたことが何のために必要なのか、わかるまで質問することが大切です。理由がわからないまま所作や技術を覚えても、実戦では役に立ちません。

それとは別に、クライミングは練習したほうが絶対に得になります。沢登りが初心者の方でも、フリークライミングをやっていて基礎ができていると、滝もスムーズに登ることができるものです。

ライター吉澤: 慣れてきたら仲間内で計画を立てたい人もいるはずです。ルート情報はどうやって探せばいいでしょうか?

森さん: いまはネットがいちばん便利です。入渓ポイントから核心部の突破方法、下山経路など、細かな情報まで調べることができます。あとは書籍で沢登りのルートガイドなどを参考にするのもいいですね。ただし、本もすべて正しいとは限らないので、書いてあることが間違っていないか確かめる気持ちで使うといいと思います。

沢登りのガイド本はエリアによって何冊か発行されている

ライター吉澤: 最後に、沢登りの魅力はどこにあると思いますか?

森さん: 沢登りではぜひ焚き火を楽しんでもらいたいです。日帰りでも時間をとって火を熾してみるといいと思います。乾いた小枝を集めて火をつけてみる。火があると煮炊きができるし、岩魚を釣ったら焼くこともできます。それと火は見ているだけで落ち着きますよね。そして慣れてきたら、ぜひ泊まりで沢に入って焚き火を囲むといいでしょう。焚き火こそ沢登りの醍醐味ではないでしょうか。

煌々と灯る焚き火を囲む時間は至福のひとときだ

ライター吉澤: 徐々に沢登りの経験を積んで、いつか大渓谷で焚き火を囲むようは壮大な計画を立てたいものです。今回はありがとうございました!

 

プロフィール

森 鐵彌(もり・てつや)

北海道出身。秀山荘に勤務しつつ、一般社団法人日本アルパイン・ガイド協会の会長・理事を務めるアルパインガイド。秀山荘オリジナルブランド「クライムゾーン」の商品開発に古くから携わり、沢登りの知識も経験も豊富

秀山荘

埼玉県川越市で随一の売り場面積を誇る登山用品専門店。古くから沢登り用品の開発に注力しており、オリジナルブランド「クライムゾーン」は全国の沢屋から注文がくるほど人気。登山用品のほかにアウトドアブランドのカジュアルウェアやキャンプ用品も幅広く取り扱っている

住所:〒350-1123埼玉県川越市脇田本町15-13 東上パールビル1F
TEL:049-238-6001
営業時間:11:00〜20:00、日曜・祝日11:00~19:00(店休日:8毎週火曜日※祝日の場合は営業)
アクセス:JR/東武東上線「川越駅」西口より徒歩3分。 西武新宿線「本川越駅」東口より徒歩11分。 提携駐車場有。
http://sportsgear.rizap.jp/shop/syuznsou_kawagoe/

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