「わたしが山にハマった理由――」好日山荘おとな女子登山部“るんちゃん”の体験記

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登山用品専門店の好日山荘では、2013年より女性スタッフ有志による「おとな女子登山部」を立ち上げ、「自分たちが山を真剣に楽しみ、次の山に挑戦すること」「お客様にもっと山を好きになってもらうこと」を目標に、ブログでの発信や、登山イベントなどを行っている。
今回、当サイトにリレー連載がスタートした。記念すべき第一回目は、登山歴10年目となる「るんちゃん(好日山荘銀座店勤務)」が体験した「山の喜び、登山の魅力」についてご紹介する。

 

晩秋の千畳敷! 星空に魅了され、カッコイイ山ガールに出会った!

はじめまして。現在、好日山荘銀座店に勤務する、おとな女子登山部の「るんちゃん」です。

今回は、私がどうやって山登りに目覚めたか、ハマっていったかを、自分の体験を交えて紹介していきます。これから山登りを始めたい、という女子のみなさんに、ぜひ参考にしていただけたらと思います。

* * *

私が登山を始めたきっかけは、中央アルプス・千畳敷カールで、カッコイイ山ガールを見たこと、です。

季節は晩秋、観光で訪ねた千畳敷は雪が少し降って登山道はつるつるに凍っていました。通勤中に、電車内で見た中吊り広告からその存在を知った千畳敷カール。「アルピニスト気分が味わえる」というキャッチコピーにまんまと心を鷲掴みされ、ホテル千畳敷まで出かけてしまったのでした。

そこで見たのは「地球の鼓動――」。大げさかもしれませんが、当時の私は、日本にこんな場所あったんだ! と大興奮。初めて目の当たりにしたアルプス、そのスケールの壮大さにとても感動したのでした。

そしてあろうことか、てっぺんまで行ってみたいという気持ちが湧き起こってきました。自分が危険な行為をしようとしていることすら分からず、雪の付いた階段を駒ヶ岳へ向けて登り出してしまいました。

中腹で転んでしまい、さすがにこれ以上は無理、というところに下山してくる一行が。先頭を歩くのはまだ若い女の子、軽装で登っている危なっかしい私を見かけ、「こんにちは!」と元気よく挨拶してくれました。

怒られるかなと少し身構えていた私は拍子抜け、前爪の付いたアイゼンを付けて颯爽と下る礼儀正しい彼女にしばらく釘付けになっていました。時はちょうど山ガールブーム、小栗旬さん主演映画『岳』も上映され、登山する女性って素敵だなと思い始めていた頃でした。

アイゼンを見たのも初めての私は、それを身に着けた彼女の玄人っぷりが実にカッコよく見えて、いつしかあの子のように冬山も登れる山ガールになりたいと思うようになっていました。

心を奪われた千畳敷の星空


はじめは地元の低山から登り始めましたが、私が憧れていたのは『岳』に出てきたようなアルプスの世界、槍・穂高のような岩山でした。大学時代にワンゲル部に所属していた兄に頼み、登山を始めて一年しか経っていないにもかかわらず、表銀座から大キレット~吊尾根という贅沢なコースを計画。

本番までに三点支持をきっちり身につけておくことが条件でしたが、三点支持そっちのけで、服装や持ち物ばかりに気を捉われ、観光気分で山行を迎えました。

やっと会えた槍の穂先


登ったのはお盆過ぎ。雨続きのガスの中、高山病も相まってひぃひぃ言いながら無我夢中でキレットを歩きました。歩いたというかほとんど這っていた気がします。北穂まであと300mのところまで来て、すでに膝はガクガク、腕力ももう残っていない状態で、残り300mが異様に長かったのを覚えています。

それでも何とか上高地まで歩き通し、これまでにない達成感を味わいました。同時に自分に足りていないものや、生半可な覚悟で山に入ってはいけないことなど、学ぶべきことがたくさん見つかりました。

大キレットを踏破して感無量

 

大キレットの経験を経て、ますます山にのめり込むが・・・

ますます山にのめり込んだ私は、必要な道具を揃え、低山を登り込み独自にトレーニングに励みました。そして、ついに好きが高じ過ぎて登山用品店にまで入社してしまったのです。先輩よりも経験が浅い分、山に登りまくって知識を身に付けなければ! と入ってからしばらくは、がむしゃらにとにかく数をこなしているような状態でした。

ある日、「一人で登るのが好きなんですね」と言われて、ハッとなりました。自分では好んで単独登山をしているつもりではなかったのですが、考えてみたら結構一人で行っていることが多い。確かに加藤文太郎の単独行に憧れることもありました。一人で春山に入って残雪で道に迷い、夏山縦走中にザックの重さで転倒し、丹沢で野生動物とばったり…などなど、数々の未知との遭遇を一人で切り抜けてきて鍛えられた部分は大きいと思います。

栂海新道終点の親不知海岸。歩き過ぎて足の裏がヒリヒリ


そういった経験を経て思うことは、やはり誰かと一緒に過ごしたいということ。言葉にできないような美しい夕日を山の上で見たとき、いつもより山ご飯の出来が良かったとき、誰かと共有したくなるような素晴らしい時間が山にはたくさんあります。

一つ一つの感動や苦難を仲間と味わうことが、今の私にとっては山での喜びとなっています。以前はアルプスにこだわっていましたが、今一番好きなのは標高を問わず、長距離を歩く縦走登山。一日13時間歩いた栂海新道も、何度となく通い続けた飯豊連峰も、共に縦走した友人たちとの大切な思い出です。

表銀座の次は裏銀座縦走に挑戦。日が暮れるまで歩いた

 

さまざまな経験を経て考え、実践している山と向き合い方は・・・

登山は体が資本です。仲間と同じペースで歩ける脚力はもちろん、仲間がケガをしたり、体調が悪くなったりした時のことも考え、それ以上の体力も保持したいと考えています。体力作りと読図力を養う単独登山は、仲間と山を楽しむためのトレーニングだと、最近は考えるようになりました。

ただのトレーニングではつまらないので、登る山も展望の良い場所、下山後の温泉が近いことなどを基準に楽しめる要素を盛り込むようにしています。できれば月に2回は、トレーニング単独行したいのですが、疲れている時、気分が上がらない時には、安全な街歩きに変更したり、ジムでクライミングしたりしています。あくまでも山では楽しむことが大事なのです。

母なる山・飯豊連峰。新潟勤務の時、11回ほど登った


一緒に行く人がいないから、一人の方が自分のペースで歩けて気が楽だから、という理由で単独登山をしている人も多いと思います。山登りは楽しいもの、無理に気の合わない人と登る必要はないですが、自分の力量に合った山を選んで、責任を持って登ることが大切だと思います。

責任を持つとは、行き先を必ず誰かに伝える、登山届は必ず出す、保険に入る、といった大事な準備のことです。万が一、遭難してしまったら多くの人を巻き込むことになるので、できるだけ回避したいところです。

体力、技術はすぐに身に付くものではありませんが、単独行のリスクを意識することは誰にでもできます。楽しみにしていた山行が天候悪化で危ぶまれた時、強行したくなる気持ちも分かりますが、立ち止まって考え直してみることも必要だと思います。

 

達観したようなことを数々書いてしまいましたが、私には経験も技術もまだまだ足りません。それでもあの時に見た山ガールに少しは近付けたでしょうか。

この先どうなりたいか、はっきりとしたビジョンがあるわけではありませんが、まだ見ぬ世界を、感動を、誰かと一緒に経験するために、歩みを止めることなく、さらに上を目指していきたいと考えています。

「これから登山を始めたい」という女子のみなさんに、このコラムが少しでも参考になったら嬉しいです。相談したいことがあったら、好日山荘の店頭で、女性スタッフに声をかけていただければ、お悩みを解決できると思います!

 

おとな女子登山部 活動紹介

2019年5月11日(土)、12日(日)に六甲山で「Mt.FESTA2019 in 六甲(兵庫県)」を開催します。「おとな女子登山部」のワークショップブースも出展しますのでぜひ遊びに来てください。

⇒山好き集まれ! 只今おとな女子登山部部員募集中!!

プロフィール

るんちゃんさん(好日山荘おとな女子登山部)

新潟の自然豊かな田舎で育つ。20代後半の時、観光ポスターを見て秋の千畳敷に出かけ、山と出会う。以後、アルプスの山々に憧れて、山登りを始める。標高を問わず、長距離を歩く縦走登山が好き。最近のお気に入りは飯豊、朝日など渋めの山域。転勤してからは奥多摩に興味津々。現在、銀座店勤務。
⇒おとな女子登山部メンバーはこちら

銀座 好日山荘

日帰りハイキングから長期縦走、クライミング、雪山登山、沢登りまでさまざまな登山スタイルに対応する品揃えを誇る登山用品店。同じビルにはクライミングジム「グラビティリサーチ」が併設されており、ロープワーク講習や岩稜帯の歩き方など、さらなるステップアップを目指す登山者に向けてさまざまな講習会を開催中。

所在地/東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビルB1・B2
TEL/ 03-6228-5018アクセス/銀座駅B7、B9出口より徒歩2分。有楽町駅南口より徒歩5分。
営業時間/月~金 12:00~21:00 土日祝 11:00~20:00
※コロナ禍で営業時間が変更になる場合があります
http://www.kojitusanso.jp/shop/kanto/ginza/

好日山荘おとな女子登山部 リレー連載

登山用品専門店の好日山荘で、2013年より女性スタッフ有志により立ち上がった「おとな女子登山部」。 「自分たちが山を真剣に楽しみ、次の山に挑戦すること」「お客様にもっと山を好きになってもらうこと」を目標に、ブログでの発信や登山イベントなどを行っている。 その活動の様子と女子目線での登山感を伝えていく。

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