自分でもできる!! 保管する前にやっておきたい雪山装備の簡単メンテナンス

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好日山荘おとな女子登山部によるリレー連載。今回は、好日山荘名古屋駅前店勤務のもっちーさんが、春が近づき出番が少なくなる雪山装備について、女子でもできる簡単なメンテナンス方法を教えてくれました。

 

こんにちは。おとな女子登山部もっちーです! みなさんは今年の冬シーズンを、どう過ごされましたでしょうか?「冬の間登山はお休み。」「近郊でハイキングを楽しんでいました♪」「雪山に挑戦しました!」様々かと思います。今年は特に、『ラニーニャ現象』の影響を受け、日本各地で雪に恵まれた印象があります。

2021年1月に、新型コロナウイルス対策を施したうえで開催しました、東海おとな女子登山部「雪山ハイキングツアー@多度山」では、標高403mの低山でしたが、タイミングよく寒波が到来し、雪景色を満喫することができました!

東海おとな女子登山部「雪山ハイキングツアー@多度山」


私は普段、店舗で勤務をしておりますが、今年は特に、雪山に向けて装備を準備される方が多かった印象です。また、コロナ禍を配慮して「近郊の雪山登山を楽しみました!」という方のお話を数多く聞きました。

近郊で楽しむ雪山トレッキング(藤原岳)


私自身は、大学時代、ワンダーフォーゲル部に入部したことがきっかけで、登山に目覚めたのですが、「雪山」を始めたのは社会人になってからのこと。自分で稼いだお金で、雪山道具を一式購入した喜びは、今でも鮮明に覚えています。愛着が湧いた大切な登山道具を、可能な限り長く使いたい。そのためにも、メンテナンスは必要不可欠です。

雪山登山に必要な装備一式


そこで今回は、雪山装備のメンテナンスについて、ご紹介したいと思います。

 

意外と簡単!? 自分でできる雪山装備のメンテナンス

高山では「残雪期」となる春山シーズン。まだまだ雪山装備が必要となるエリアもあります。しかし、登る山域によっては、装備のシフトチェンジをする時期です。そこで、保管する前にメンテナンスしておきたい冬ギアの中から、「アイゼン」「スノーゲイター」「冬靴」をピックアップして、メンテナンス方法を紹介します。

 

メンテナンス① アイゼン

雪山に必要な装備のひとつに、雪上を歩く際の滑り止めとして靴底に装着する「アイゼン」があります。安全に歩行するための装備なだけに、登る前の状態確認や、下山後のお手入れ方法は身につけておく必要があります。

私が現在使用しているアイゼンは、3年ほど前に購入した12本爪の「バサック(ペツル)」


雪山のスタイルや使用頻度、目的によってはメンテナンス方法が多少異なりますが、私が楽しむ雪山は基本的に「一般縦走」。使用頻度は「1シーズンに指で数える程度」です。現状、爪の消耗はそこまで激しくないですが、よくみると若干サビが付着していました。

サビが付着したアイゼン

今回使用したメンテナンス道具▼

紙ヤスリ#120、シリコンスプレー、塗布用の布きれ(着古したTシャツをカットしてリユース)

【手順①】アイゼンを分解する

特に長さを調整するジョイント部分は汚れが入り込みやすい


前提としては、毎回の使用後は、水洗いで泥汚れを落とします。肝心なのは、水分や汚れをしっかり落とすことです。アイゼンは金属パーツが多く、部品の隙間にも泥やゴミが詰まりがち。まずはアイゼンを分解して、細部まで汚れを拭います。

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【手順②】紙ヤスリを使ってサビを落とす

サビを発見したら、広がらないうちに落としましょう


サビをそのままにしておくと、金属内部に浸透して強度低下にも繋がります。軽いサビは、水洗いをする、「サビ取りクリーム」等を使って布でこする、で落とせますが、それでも落ちないサビは紙ヤスリで表面を薄く削ります。今回は紙ヤスリの中でも比較的目が粗いもの(#120)を使って落とすことができました。

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【手順③】仕上げに防錆処理を行う

シリコンオイルを噴射したら、布きれを使って伸ばすように金属パーツに塗り込み、数分乾燥させます


仕上げの防錆処理で注意したいのが、使用する油の種類です。最近のアイゼンはプラスチックと金属パーツが複合で使われているモデルが大半です。プラスチックパーツに機械用オイルが浸透すると劣化を早める原因にもなりますので、プラスチックなどの樹脂パーツにも無害な、石油系の溶剤を含まない無溶剤タイプのシリコンスプレーがおすすめです。


メンテナンス前後のアイゼンを比較してみました。

(左)before、(右)after


(左)before、(右)after


第一ステップとしてはこれでOK。爪が丸みを帯びてきたり、氷雪へのフリクションが悪いと感じる場合は、爪を研ぐ必要がありますが、そこは今後の状態次第で着手します。

アイゼンを携行・保管する際は、他のものを傷つけないために「アイゼンケース」に収納します。次のシーズンまで保管するような時は、密閉してしまうとよくありません。私が使っているものはメッシュではないので、開口部は少し開けた状態にしておきます。

使用後に拭けるように、私はタオルとセットで収納しています

アイゼンのメンテナンスのポイント

  • 使用後は水洗いをして泥等の汚れを落とし、しっかり乾燥させる。
  • サビが広がる前に、紙ヤスリを使ってサビを落とす。※爪を研ぐ場合や、状態によっては鉄ヤスリを使用。
  • 仕上げにシリコンスプレーで防錆処理をおこなう。

 

メンテナンス② スノーゲイター

雪山登山の必須装備となる「スノーゲイター」


「無雪期」向けのゲイターは、主に「雨」の侵入を防ぐため、薄手の防水透湿素材で軽さを重視しているモデルが多いのに対し、「積雪期」向けのゲイターは、「雪」の侵入を防ぐとともに、アイゼンやスノーシューを装着して歩行するため、引っかけても破れにくい強靭な生地やパーツが使われています。

ただ、いくら生地が強靭であっても、時にはこのように破れてしまうのが現実です。きっと同じような経験をされている方も多いのではないでしょうか…。

アイゼンを引っかけて破けてしまったスノーゲイター


「スノーゲイター」の相場は1万円以上で、決して安価なものではありません。そのため、直せる範囲であれば自分で補修することをおすすめします。そこで今回は、盛大に破いてしまった私のゲイターを例に、補修をしてみました。


今回使用したメンテナンス道具▼

ゴアテックスファブリスク補修用リペアシート、アイロン、縫い針・糸、熱圧着用のあて布(※今回は手ぬぐいを使用)

【手順①】補修箇所の確認

(左)表面:ナイロン素材、(右)裏面:ゴアテックス素材

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【手順②】補修箇所を縫製する

今回は、まつり縫いで穴をふさぎました


必ずしも行う必要はありませんが、補修箇所をあらかじめ縫製すると、より完全な補修が可能になります。

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【手順③】裏地にゴアテックス補修用リペアシートを熱圧着する

少し大きめで、あらかじめ角を丸くカットしておくと、剥がれにくくなります


裏地は「ゴアテックス素材」が使われておりますので、好日山荘でも取り扱っている市販の「ゴアテックスファブリスク補修用リペアシート(600円+税)」を使用しました。補修箇所の形状に合わせて、少し大きめにリペアシート(160×220mm)をカットしました。

リペアシートを隙間なく熱圧着できたら完了です


熱圧着の目安は、家庭用アイロン「中温(約160℃)」で20秒間、となりますが、不十分なところがあった場合は、再度、熱圧着を行います。ちなみに今回私が使用した“ミニアイロン”は180℃対応です。それでも割と強く、少し長めに押しあてました。張り合わせ条件によって変わってくるので、様子を見ながら使用しましょう。


補修が完了したスノーゲイター。見栄えはともかくまだまだ使用可能です


自分で補修すれば、コストも大分抑えることができます。リペアシートは、素材やカラー別に、各種展開がありますので、ウェアやテント等にも利用可能です。破損状態によってはメーカーへ修理を依頼する必要がありますので、あくまでも「応急処置」として活用ください。

好日山荘の店頭にて。各種リペアシートを展開

スノーゲイターのメンテナンスのポイント

  • 補修箇所を確認(必要に応じて縫製)。
  • リペアシートは補修箇所の形状に合わせて少し大きめ&角は丸くカット。
  • アイロンを使ってしっかり熱圧着。

 

メンテナンス③ 冬靴

私が現在愛用している冬靴は、旧モデルの「スポルティバ・ウィメンズ・ネパールエボGTX」


アイゼンをつけて雪上を歩くシーンが多い雪山登山は、夏ほど「靴」が泥だらけるようなケースは少ないです。「冬靴」に特別なケアが必要というわけではありませんが、来シーズンまで保管する前のケアと保管方法を、今一度確認しましょう。


今回使用したメンテナンス道具▼

「ギアクリーナー(グランジャーズ)」、「フットウェアリペル(グランジャーズ)」、靴用ブラシ、不要になった歯ブラシ、タオル

【手順①】靴紐を全てほどく

タンの隙間汚れも確認しよう


タンの部分や隙間にも汚れが蓄積しがちです。まずは紐を全てほどき、しっかり汚れを払います。

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【手順②】ソールの溝に詰まった泥汚れを取り除く

溝についた泥汚れや小石の排除は、不要になった歯ブラシがおすすめ


汚れが頑固な場合は固めのブラシで擦る必要がありますが、汚れがひどくない場合は、不要になった歯ブラシ等で充分落とせます。特に細かな汚れや小石を排除するときはおすすめです。

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【手順③】靴用ブラシでアッパーを磨く

「豚毛」の靴用ブラシは毛に少しコシがあるので、汚れを落としやすい


ブラシで磨く際は、アッパーを傷つけないために、比較的毛の柔らかい「馬毛」や「豚毛」のものがおすすめです。冬靴はそこまで汚れないので、軽くブラシでこするだけでも汚れが落ちるケースが多いです。

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【手順④】ギアクリーナーを使って頑固な汚れを落とす。

専用クリーナーは、素材にダメージを与えることなく汚れを強力洗浄できる


ブラシで落としきれない汚れは、ギアクリーナー(グランジャーズ)を使います。アッパーを少し濡らしてスプレーを吹きかけた後、ブラシで擦って汚れの泡を浮き上がらせます。泡は湿ったタオルでしっかりぬぐって、さっと水で洗い流します。クリーナーの成分が残ってしまうと、撥水剤での加工時に撥水効果が低下してしまうので注意です。

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【手順⑤】仕上げに撥水加工を施し、風通しの良いところで充分に乾かす

透湿性を損なわずに撥水性を回復できます


洗浄後、濡れたままの状態で、靴専用撥水剤「フットウェアリペル(グランジャーズ)」を使います。靴全体にまんべんなく吹きかけたら、直射日光を避けて充分に乾かします。


ゴアテックスなど防水透湿素材の場合、靴の中に水が入ると完全に乾くまで時間がかかりますので、内部やインソールには除菌消臭スプレーの使用をおすすめします。インソールは外して立て、玄関の下駄箱など風通しのよいところで保管しましょう! 完全に乾燥したら、型崩れ防止のためにも、靴ひもを一番上まで締めておきましょう。

靴箱での保管は湿気がたまるのでNG。風邪通しのよい玄関の下駄箱などで保管しよう


気づいたら使用後の数日間、「放置プレイ」なんてこともある登山靴。自分の足にフィットした登山靴を長く使うためにも、帰宅後は速やかにお手入れを行って、正しく保管する習慣をつけておくとよいですね。


冬靴のメンテナンスのポイント

  • 靴ひもは全てほどいてタンの溝まで汚れを払い、しっかり乾燥させる。
  • 靴用ブラシでアッパーの汚れを落とす、底も忘れずに。
  • 頑固な汚れはギアクリーナー(グランジャーズ)を使って落とし、撥水加工を施す。

 

メンテナンスをして、安全・快適に登山を楽しもう!

好日山荘の店頭にて。各種専用洗剤を展開


今回は、自分が現在使っている冬ギアのメンテナンスを例にご紹介しましたが、方法は様々ですので、これが絶対ではありません。ただ、メンテナンスに「苦手意識」を持っていた私にとっては、やってみると意外と簡単に、楽しく取り組むことができました。今回の記事が、同じように「苦手意識を持っている方」や、「方法がよく分からないとお悩みの方」への一助になったら嬉しいです。

メンテナンスで、じっくり登山装備と向き合ってみると、登山を「安全・快適」に楽しむことができるのは道具のおかげであると、改めて感じます。登山の装備は決して安くはない買い物です。自分が納得して購入した道具こそ、愛着を持って大切に扱うことで、「より長く、より快適に」使用することができるのではないでしょうか♪

プロフィール

もっちー(好日山荘おとな女子登山部)

埼玉生まれ埼玉育ち。幼少期からスポーツが大好きで体育教師の憧れを抱き体育大学へ進学。ワンダーフォーゲル部に所属し登山の虜になる。もともとはクライミングと登山が好きだが、数年前からトレイルランニングにもトライ。現在は、好日山荘名古屋駅前店に勤務し、東海おとな女子登山部の活性化に励んでいる。
⇒おとな女子登山部メンバーはこちら

好日山荘 名古屋駅前店

ハイキングから本格登山までさまざまな登山スタイルに対応するアイテムを取り揃える登山用品店。併設のイベントスペース「マウントラボ」では登山学校机上講座や各イベントを開催。

所在地/愛知県名古屋市中村区名駅1-2-1 名鉄百貨店本店メンズ館5F
TEL/ 052-414-7100
営業時間/10:00~20:00
アクセス/各線名古屋駅直結

好日山荘おとな女子登山部 リレー連載

登山用品専門店の好日山荘で、2013年より女性スタッフ有志により立ち上がった「おとな女子登山部」。 「自分たちが山を真剣に楽しみ、次の山に挑戦すること」「お客様にもっと山を好きになってもらうこと」を目標に、ブログでの発信や登山イベントなどを行っている。 その活動の様子と女子目線での登山感を伝えていく。

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