「私たちの軌跡~秩父札所巡りの旅」身近な地域の魅力を探す旅のご提案

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秩父札所巡りの旅。秩父鉄道 大野原駅にて

好日山荘おとな女子登山部によるリレー連載。今回は、銀座好日山荘勤務のるんちゃんさんが、おとな女子登山部・広報担当のかおりんさんと、2年にわたって続けてきた秩父札所巡りの旅のご紹介です。大きな山に行けない冬、遠くの山に行きにくい今、地域の魅力を探し、歩き旅を楽しむのもよいですね。

みなさん、こんにちは。秩父に巡礼道があるのを知っていますか? 

私がそれを知ったのは、三峯神社へドライブに行った時でした。2018年に初めて関東に引っ越してきた私が、秩父で最も有名なパワースポットに行ってみようと車を走らせていた時に、次々と目に入ってきたのが札所の案内板でした。

「第○○番○○寺」。秩父にもお遍路みたいなのがあるのだなと、はじめのうちは車窓の風景の一部に過ぎませんでしたが、秩父の中心街を抜け、長閑な田舎道にさしかかると、第二十九番、第三十番…といつの間にか数字が大きくなっていて、一体何番まであるの? そもそも札所って? 興味がどんどんと湧き起こってきました。そして、帰宅後すぐ、ガイドブックを購入したのでした。

世界各地には様々な巡礼道があり、日本にも代表的なものでは四国のお遍路がありますね。

お店に立っていると、「定年後に思い切って歩いてみようと思って…」と巡礼旅に向けて靴やザックを求めて来店するお客様も、少なからずいらっしゃいます。楽しそうな話を聞きながら、まとまった時間が取れたらいつか自分も行ってみたいなと考えていました。

しかし、そのまとまった時間を取るのは結構大変です!

その点、関東圏に住んでいる人にとって、秩父はごく近く、何回かに分けて行けば無理なくじっくり楽しめます。さらに秩父は山深い土地であることから、登山と組み合わせてシリーズ化したら面白い登山レポートができ上がりそうだと考え、私の中で密かに秩父札所巡りプロジェクトが湧き起こったのでした。

秩父鉄道・大野原駅にて

秩父鉄道・大野原駅にて

札所巡りには、「同行二人(どうぎょうににん)」という言葉があります。観音様が常に旅人と一緒にいてくれるという意味ですが、密かに計画した秩父札所巡りも、独りで踏破するにはあまりにも寂しく、やるのであれば共に歩んでくれる「相棒」が欲しいと考えていました。

そこで、おとな女子登山部 広報担当・吉野香織さん(以下かおりん)を誘ったところ、二つ返事で快諾してもらいました。こうして、2019年春、2人の巡礼旅がスタートしたのでした。

第四番・金昌寺にて

一緒に旅をしてくれたかおりん。第四番・金昌寺にて

身近な巡礼道、「秩父札所巡り」とは?

そもそも秩父札所とは、室町時代に成立し江戸時代に隆盛を極めた観音霊場で、秩父市・横瀬町・小鹿野町・皆野町に34ヶ所が点在しています。天変地異や疫病が起こるたび、庶民や大名までもが大勢参拝し、多いときで1日3万人もの人々が訪れていたそうです。現在も白装束で巡る厳格な人もいれば、私たちのように観光で訪ねる人などもいて、ネットで「秩父」と検索すると、必ずトップに札所巡りの情報がくるほど注目されています。総延長は100kmほどあり、賑やかな街中を通ることもあれば、険しい山道もあり、実にバラエティーに富んだ巡礼道となっています。

車やバスを使えば、あっという間に巡ることもできますが、「できるだけ自分たちの足で、歩くことでしか見えない景色を目に焼き付けたい」というが私たちのこだわり。そして一般の巡礼と大きく違うのが、山歩きを盛り込んだこと、でしょうか。

台風やコロナで旅が途切れてしまい、2年もかかってしまいましたが、今まで歩いた山あり谷ありの魅力満載の秩父路を、これから順番に紹介していきます。巡礼旅の先々で、雰囲気の良さそうなカフェがあれば立ち寄ってみたり、時には秩父名物を堪能したりと、他にはない楽しみ方をしたことも、ぜひ注目していただければと思います。

第一番~第十番 旅の準備と自然あふれる巡礼道

旅の始まりは春、第一番・四萬部寺(しまぶじ)から。寒さが和らぎ、旅を始めるにはちょうど良い季節でした。

四萬部寺は巡礼道のスタートだけあって、旅に必要なグッズが全て揃います。最も大事なアイテムが御朱印帳です。自分で用意したものでも構わないのですが、ここでは専用のご朱印帳が販売されており、ページをめくると一番から順番に書き入れてもらえる作りになっています。

白衣(はくえ)に金剛杖、菅笠(すげかさ)や袈裟、頭陀袋(ずだぶくろ=肩掛けかばん)など、信心深い方なら一式揃えて挑むのでしょうが、そこまでは、という方にも、御朱印帳だけはオリジナルのものをおすすめしたいです。新しい御朱印帳を買い求めると、自然と気持ちの高まりを感じました。

秩父札所専用の御朱印帳

秩父札所専用の御朱印帳


春の巡礼道には花が溢れどこを切り取っても色とりどり。初回は桜や菜の花が咲く舗装道を、第五番・語歌堂 (ごかどう)まで歩き、芝桜で有名な羊山公園も訪れました。

登山要素はありませんが、人気のない急坂のアップダウンに、思いがけず息が上がることもありました。見所は第四番・金昌寺の仁王門に掲げられた大きな草鞋。札所に詳しくなくともこの草鞋は見覚えがあるという人もいるでしょう。そしてこのお寺でもう一つ親しまれているのが、子育て観音こと慈母観音様です。赤ん坊を抱く優しい微笑みを見たら、旅の疲れも吹っ飛び誰もが癒されること間違いなしです。

子育て観音様を見つめるかおりん

子育て観音様を見つめるかおりん


第2回目は5月。秩父は既に初夏が訪れ、シャガやツツジの花が見頃だったのと、第八番・西善寺の樹齢600年にもなる大きなコミネカエデの新緑も印象的でした。ちょうど年号が切り替わった時期で、御朱印帳に「令和」の文字が刻まれたことも思い出深かったです。

この日は芦ヶ久保駅からスタートし標高627mの日向山にも登頂しました。そこから終点の第十番・大慈寺までは、ずっと武甲山が見えているので、武甲山を眺める回でもありました。

武甲山は言わずと知れた秩父のシンボル的な山です。石灰採取のため削られた北側が痛々しくもあり、逞しさも感じる秩父の盟主。見る角度によってはとんでもなく鋭角に見えることもありますが、この時はピラミッドのように階段状の細かい線が入った分厚い北面を見つめながら歩きました。

途中で立ち寄った寺坂棚田は、広大かつ遮るものがほとんどないので、武甲山を体いっぱいで感じることのできる場所。優しい風が吹き抜けとても居心地の良い時間を過ごしました。秩父を家族や友人に案内する機会があれば真っ先におすすめしたいスポットです。

寺坂棚田から見渡す武甲山

寺坂棚田から見渡す武甲山

第十一番~第二十五番 歩いては食べ…旨いもの巡りの旅

札所十二番から十九番は特に秩父の中心街に集中しており、登山と結び付けるには難しいと判断したので、それならいっそ名物を楽しんでしまおうと、第三回目は敢えて街歩きをすることにしました。

秩父といえばガッツリ系の豚みそ丼やわらじカツ丼、それに豚ホルモンが有名です。ほかにも、そばやワイン、メープルシロップやジェラートなど、自然の恵みを感じられる名産品も多く、食べ歩き目的でも十分満足できます。

野さかの豚みそ丼(上)、兎田ワイナリーの洋風わらじカツ丼(下)

野さかの豚みそ丼(上)、兎田ワイナリーの洋風わらじカツ丼(下)


また、大正から昭和にかけて養蚕や織物産業が盛んだったこともあり、当時の面影を残したレトロな建物が点在しています。訪ねたのは小雨の降る梅雨時で、街歩きにはむしろちょうど良い気候。観光も楽しみつつ札所巡りができました。

番場通りにある有形文化財の「パリー食堂」

有形文化財の「パリー食堂」


翌7月、梅雨明けにはまだ早い、じめじめした空気の中、二十番から二十五番までを歩きました。前回とは違い、秩父ミューズパークのある長尾根丘陵を通るコースなので、ようやく山歩きができます。しかしそんな古の道をわざわざ歩く人間はそうそういないようで、蒸し暑いうえに蜘蛛の巣の多い登りを、喘ぎながら登ることになりました。

登りを終えて道が開けてくると、荒川沿いを南下するように歩いていたことに気付きます。雲海で有名な秩父ハープ橋を見下ろして少しは気分が晴れたものの、すっかりくたくたになった私たち。今回も秩父の食材が楽しめるレストランで疲れた体と胃袋を満たしたのでした。

二十五番・久昌寺(きゅうしょうじ)の弁天池に映る観音堂

二十五番・久昌寺(きゅうしょうじ)の弁天池に映る観音堂

第二十六番~第二十七番・第二十九番~第三十一番 台風被害を乗り越えて

秩父の夏は蒸し暑い、というので、順調に続けてきた巡礼旅もさすがに盛夏の8月はお休みすることにしました。

再開は9月から。景色も夏から秋の装いへ移り変わり、蕎麦の花やコスモス、曼殊沙華などに彩られた巡礼道を、一風変わったプランで歩いてきました。

浦山ダムから琴平丘陵を経て昭和電工に至る、言わばおとなの工場見学コース。ダムの天辺まで500段の階段を登った後はダムカレーを食し、鬱蒼とした琴平丘陵の中に現れた岩井堂をお参りしました。

岩井堂は第二十六番・円融寺の観音堂で、御朱印をいただける麓のお寺までは距離があります。秩父の札所はこのように観音堂と納経所が離れている場所もあるので、例に習い、きちんと手を合わせてから御朱印をいただいてきました。

浦山ダム

札所巡りとは趣を異にする、人工的な存在の浦山ダム


2019年10月、台風が秩父の街を襲い、各札所や巡礼道も大きな被害を受けました。復興の目処が立つまで旅は中断し、ようやく落ち着きかけた11月に再び訪ねてみました。

季節はすっかり秋、紅葉や銀杏で艶やかに山々が彩られていました。しかし足元に目をやると、えぐられ波打つようにひび割れた道路や、行き場を失い堆積した土砂がそのままになっていて、被害の大きさを物語っていました。

そんな中、向かったのは、こだわりの寒ざらし蕎麦を提供する人気蕎麦店と、お庭の手入れが行き届いた第三十番・法雲寺、そして帰りの電車が来るまでお茶をいただいた小さな喫茶店でした。

お店の方の「ありがとうございました」の言葉や、住職さんの「ようこそお参りくださいました」の言葉が、いつもより重みをもったものに感じられ、私たちが変わらず巡礼を続けられることに心から感謝した回となりました。

冷たい雨が降り彩りを増す秋の巡礼道

冷たい雨が降り彩りを増す秋の巡礼道


令和元年の年の瀬にお参りしたのは最西端の第三十一番・観音院。北西方向に位置する札所は、どこも地質学的に目を見張る場所に立てられており、「ジオパーク秩父」の構成要素となっています。三方を砂岩の絶壁で囲まれたお堂はひときわ神秘的な雰囲気を放っていました。

快晴の空の下、観音院の裏に聳える観音山を登頂し、両神山や雲取山を眺めた後は、麓の観音茶屋でお昼ご飯。特に秩父名物の代表選手、しゃくし菜の漬物と油炒めは絶品で、機会があったらまた食べたいと思いました。

お堂の背後の聖浄(しょうじょう)の滝

お堂の背後の聖浄(しょうじょう)の滝。流れはちろちろ

第二十八番・第三十二~第三十三番 コロナ禍の札所巡り

年は変わって2020年、緊急事態宣言が出される少し前に、飛ばした第二十八番を武甲山登山と合わせて訪問しました。二十八番・橋立堂は武甲山の裏参道入口にあり、登山無くしては語れない札所なのですが、台風の爪痕が特に著しく、立入禁止がしばらく続いていたのでした。

楽しみにしていた橋立鍾乳洞もコロナ禍で見学できませんでしたが、凛とした空気の橋立堂と、残雪の武甲山をお参りし、下山後には麓のジェラートまでいただいて大満足の旅となりました。

雪が残っていた武甲山

雪が残っていた武甲山。足元に気を付けながら山頂を目指しました

武甲山山頂にて

武甲山山頂にて


自粛明けの6月、鈍った体を慣らしに一番飛ばしで第三十三番・菊水寺へ。お寺を中心に、地図を見ながら面白そうなスポットをピックアップしたのですが、後になって「ジオパーク秩父」を体感できる場所だったことに気付きました。

赤平川沿いにそそり立つ大岩壁・ようばけ(日の当たる崖の意)は、カメラに収まりきらないほど大きな地層で、国の天然記念物にも指定されています。

大きなようばけ

大きなようばけはカメラに収めるのがたいへん


涼を求めて訪ねた子(ね)ノ神の滝は、落差13mと小ぶりながら水量は多く、削られた岩肌と相まって迫力のある景観を見せてくれました。武甲山を眺めるために登った白砂公園は、山あいに見え隠れする岩肌が印象的で、これら全てが太古の昔に海の中で堆積した土台が隆起したものだそうです。

聞けば秩父は日本地質学発祥の地でもあり、長い間、巡礼旅を続けてきて、今さらその奥深さに気付いたのでした。

子ノ神の滝

子ノ神の滝。声が聞えないほどの轟音


最難関の札所と言われるのが、第三十三番・法性寺です。鎖やロープの掛けられた岩稜帯を行くので、晴れていることが絶対条件、しかも好展望が望めるとあって、快晴であることも譲れない条件でした。ようやく機会が巡ってきたと思ったら既に年の瀬となっていました。

奥の院が、本堂から歩いて1時間ほどの切り立った細長い岩山の上にあり、先端にはお船観音、後方には大日如来、中心部の岩穴には十三仏が安置されています。岩山を船に見立てて壮大な物語を演出している様は本当に圧巻でした。

さらにその先の釜ノ沢五峰を周回し、待ち望んでいた絶景も堪能。この一帯から見る長尾根丘陵と武甲山は今までで一番の眺めで、まるで大波の上に立つユニコーンのように見えました。

お船観音様と秩父の山並み

お船観音様と秩父の山並み。絶景かな!

札所巡りが終わっても。もっと知りたくなる秩父の魅力

実はこの原稿を書いている時点では、まだ最後の札所は訪ねていません。記事が公開される頃には「結願(けちがん。全ての札所を巡り終えること)」できているかもしれませんし、また先延ばしになっているかもしれません。

いずれにしても、2年に渡った札所巡りの旅は、もうすぐ終わりを迎えます。

毎回新しい発見のある秩父は、行けば行くほどもっと知りたいと思うようになりました。結願を達成してもおそらくまた通うことになるでしょう。登山経験がない方や忙しくて遠出がなかなかできない方、はたまたちょっと変わった山歩きをしてみたいという方は、ぜひ秩父へ足を運んでみてください。すぐ近くにこんなにも楽しめて心が豊かになる場所があるということを、多くの方に知っていただきたいです。

この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ好日山荘の登山レポートもご覧ください。巡礼旅の様子をより詳しく書き記しています。

登山レポート | 登山用品・アウトドア用品の専門店 好日山荘 (kojitusanso.jp)

【参考文献】

  • 『札所三十四カ所ウォーキング』JTBパブリッシング
  • 『秩父札所めぐり』秩父札所連合会
  • 『分県登山ガイド 埼玉県の山』山と溪谷社
  • 『ジオパーク秩父』chichibu-geo.com秩父ジオパーク推進協議会事務局

プロフィール

るんちゃんさん(好日山荘おとな女子登山部)

新潟の自然豊かな田舎で育つ。20代後半の時、観光ポスターを見て秋の千畳敷に出かけ、山と出会う。以後、アルプスの山々に憧れて、山登りを始める。標高を問わず、長距離を歩く縦走登山が好き。最近のお気に入りは飯豊、朝日など渋めの山域。転勤してからは奥多摩に興味津々。現在、銀座店勤務。
⇒おとな女子登山部メンバーはこちら

銀座 好日山荘

日帰りハイキングから長期縦走、クライミング、雪山登山、沢登りまでさまざまな登山スタイルに対応する品揃えを誇る登山用品店。同じビルにはクライミングジム「グラビティリサーチ」が併設されており、ロープワーク講習や岩稜帯の歩き方など、さらなるステップアップを目指す登山者に向けてさまざまな講習会を開催中。

所在地/東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビルB1・B2
TEL/ 03-6228-5018アクセス/銀座駅B7、B9出口より徒歩2分。有楽町駅南口より徒歩5分。
営業時間/月~金 12:00~21:00 土日祝 11:00~20:00
※コロナ禍で営業時間が変更になる場合があります
http://www.kojitusanso.jp/shop/kanto/ginza/

好日山荘おとな女子登山部 リレー連載

登山用品専門店の好日山荘で、2013年より女性スタッフ有志により立ち上がった「おとな女子登山部」。 「自分たちが山を真剣に楽しみ、次の山に挑戦すること」「お客様にもっと山を好きになってもらうこと」を目標に、ブログでの発信や登山イベントなどを行っている。 その活動の様子と女子目線での登山感を伝えていく。

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